松下幸之助翁の、人を育てるレベル | フィリピンで働くシリアル・アントレプレナーの日記

松下幸之助翁の、人を育てるレベル

先月のブログで、こう引用した。

> 自分の中でどんだけ確信めいて「こうだ」と思っていてもできる限り
> 自分から気付いたようにもっていくコミュニケーションがとても重要。


で、僕は松下幸之助さんが大好きなんだけれど、
江口 克彦著「猿は猿、魚は魚、人は人 松下幸之助が私につぶやいた30の言葉 」という本を読んだ。



その中に、次のようにあった。

ちょっと長くなるが、引用する。


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 松下さんは本当に根気を持って、持続的に、直接、人を育てた。
 松下さんは、私のことも非常に根気よく育ててくれた。その一例として、 ハーマン・カ
ーンさんの話がある。私が松下さんの傍で仕事をするようになって、四、五年ほど経った
頃だと記憶している。いつものように報告をしていると、松下さんが突然こう言い出し
た。
「君、今度、 ハーマン・カーンさんという人が来るんや。どういう人か、知っとるか」
 当時の私は、松下さんからの質問になかなか即答できず、あやふやな答えに終始し、後
で調べて改めて報告するのが常だった。しかし、このときは即答し、しかも簡潔にして正
確な返事をすることができた。
「ハーマン・カーンさんという先生は、21世紀は日本の世紀だ』と言っているアメリ力の
未来学者で、ハドソン研究所の所長です」
とすらすら答えると、松下さんは、
「そうか、そういう先生か」
と言った。翌日、松下さんは再び、まったく同じ質問をしてきた。私は「うん?」と思
い、昨日の私の返事を忘れたのかなといぶかりつつ、前日とまったく同じ答えを繰り返し
た。これでわかってくれただろう。ところが、さらにその翌日、松下さんは、
「君、今度、 ハーマン・カーンさんという人が来るんや。どういう人か、知っとるか」
と尋ねてきた。正直なところ、若かった私は頭に来た。
 この人はなぜ毎日毎日、三日連続で同じ質問をするのだ? 「人の使い方がうまい」と
か「人の育て方がうまい」などと世間では言われているが、そんなことはないじゃない
か。人の話をろくに覚えていない。いくら相手が部下とはいえ、何たることだ……。内心
そう憤慨しつつ、私は三度目の同じ答えを口にした。
「ハーマン・カーンさんという先生は、21世紀は日本の世紀だ』と言っているアメリ
カの未来学者で、 ハドソン研究所の所長です」
「そうか、そういう先生か」
 その日の午後、私は憮然とした面持ちで過ごしていた。
 しかし、その日の夕方、帰宅する松下さんの車を見送りながら、 ハッと私の心に浮かん
だことがあった。待てよ、三回も尋ねられるということは、「もっと他の情報がないか、
他の話題はないか」と確認されているのではないか。そうでなくとも、もし明日も同じこ
とを聞かれ、また四度目の同じ答えを返すとなると、それは何とも能のないことだ――。
そう思った私は、すぐに書店に行き、 ハーマン・カーンさんの著書『紀元二〇〇〇年』を
購入した。
 『紀元二〇〇〇年』の日本語訳があったのには救われたが、実に六四四頁という分厚い一
冊であった。明日も松下さんと会うが、それまでにこの本の中身を頭に入れられるのか。
今から読んで間に合うのか。そう遼巡しながらも、「えい、ままよ。やれるだけやってみ
よう」と決意して会社に戻り、机に向かって夜中の二時ごろまで読み、要旨を記録用紙三
枚にまとめた。
 それから帰宅しようと思ったが、電車もバスもない。会社で朝まで過ごそうと、応接間
の長椅子に横になった。横になったものの、なかなか眠れない。そこで再び起き上がった
とき、「そうだ、内容をカセットテープに吹き込んでやろう」というアイデアが浮かび、
カセットレコーダーを持ち出して、明け方の四時頃までかかって吹き込んだ。
その後、さすがに少し眠ったが、六時半頃には目が覚めた。起きた途端、「どうか今日
もまた松下さんから『ハーマン・カーンさんはどういう人か』と聞かれたい」と思ったこ
とを記憶している。
 昼の食事時になって、やはり松下さんは、四日連続で同じことを尋ねてきた。私は徹夜
の努力が報われた思いで、心躍らせながら新たな報告をした。松下さんは熱心に聞いてく
れただけでなく、途中で質問したり、頷いたりし、最後にはニコリと笑って「よくわかっ
た」と言ってくれた。嬉しかった。
 さらに私は松下さんにカセットテープを渡した。すると翌朝、出社してきた松下さん
は、私に柔和な笑顔を向けて言った。
「君、なかなかいい声しとるなあ」
 私は感激しつつ、「この一言はオレの声だけを誉めているのではない」と直感した。「よ
く気がついたな」「よく調べたな」「内容も十分だった」「それをよくテープに吹き込んで
くれた」……そういう意味合いも含んだ一言だと理解した私は、直立不動のまま、「この
人のためなら」と心の中で感激を抑えきれなかった。
 ここで強調したいのは、松下幸之助さんが、私が自ら気づくまで、根気よく四回も同じ
質問を繰り返していることである。
 松下さんが「人を育てる」というとき、その育て方の特徴は「根気」に尽きる。教える
教育、指示する教育ではなく、「気づかせる教育」「気づきを呼び起こす人材育成」で
あった。この、た。この、根気を持って気づかせる育成法こそ、経営成功の大きな秘訣
の一つなのである。

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すごい! と鳥肌がたった。
人を育てるとは、このレベルまでの忍耐力を必要とするのか! と思った。

僕も、きちんとできるようになりたい。