学生のためのベンチャー指南
起業に関して、面白い文章を読んだ
版権フリーだったので全文掲載しようと思ったが、
アメブロは文字数が4000文字までらしく、途中まで掲載
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学生のためのベンチャー指南---A Student's Guide to Startups
Paul Graham
Copyright 2006 by Paul Graham.
これは、Paul Graham:A Student's Guide to Startups を、原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
<版権表示>
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Copyright 2006 by Paul Graham
原文: http://www.paulgraham.com/mit.html
日本語訳:Shiro Kawai
(shiro @ acm.org)
<版権表示終り>
Paul Graham氏のエッセイをまとめた『ハッカーと画家』の邦訳版が出版されました。
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2006/10/09 翻訳公開
(本エッセイはMITでの講演に基づいている)
最近まで、大学を卒業しようとしている学生には二つの選択肢があった。就職するか、大学院に行くかだ。だが、これからは第三の選択肢がどんどん大きくなってゆくと思う。自分のベンチャーを立ち上げるって選択肢だ。これはどのくらい普通のことになるだろう?
積極的に何かしようと思わない限り、就職するのが普通の選択肢であることは変わらないだろう。でもベンチャーを始めるのは、大学院へ行くのと同じくらいにはなるかもしれない。90年代後半に、大学教授をやっている友人は、学生がみんなベンチャーで働きたがるんで良い大学院生がなかなか入ってこないとこぼしていた。そういう状況がまたやってきても不思議じゃない。ただ次回は一つ違いがある。学生は、誰か他の人が始めたベンチャーに行くんじゃなくて、自分達で始めるようになるんだ。
野心を持っている学生なら、ここで疑問が出てくるはずだ。どうして卒業まで待つんだ? 大学にいる間に始めたっていいじゃないか。だいだい、どうして大学に行くんだ? その代わりにベンチャーを始めたっていいじゃないか。
一年半前、私は講演 の中でこう言った。 Yahoo、Google、Microsoftの創業者は24歳だった。大学院生がベンチャーを始められるなら、大学生だって出来るんじゃないか? 質問の形にしておいて良かったよ。今になって、これはたんなる修辞疑問じゃなかったんだってしらを切ることができるからね。あの時私は、ベンチャーの創業者に年齢の下限があるべき理由を思いつかなかった。卒業ってのは世間的なもので、生物学的に何かが変わるわけじゃない。そして技術的には多くの大学院生と肩を並べる大学生ってのは必ずいる。だとしたら、大学院生がやるのと同じように、大学生がベンチャーを始めたっていいじゃないか。
今になって、卒業によって確かに変化することがあるのに気づいた。失敗に対する言い訳が効かなくなるんだ。あなたの人生がどんなに複雑であっても、あなたの周囲の人間は、家族や友人を含めて、あなたがいつも一つしか職業を持っていないと考えている。他の活動はノイズみたいなもんだ。大学生が夏休みに仕事としてソフトウェアを書いていたとしても、やっぱりそれは大学生なんだ。ところが、ひとたび卒業して仕事としてプログラムを書きはじめたら、たちまちみんなはあなたをプログラマだと見なすようになる。
学校にいる間にベンチャーを始めることの問題は、緊急脱出口が組み込まれていることだ。三年生から四年生になる間の夏休みにベンチャーを立ち上げたら、みんなそれは夏休みのバイトみたいなもんだと思うだろう。だからそれが失敗したって大したことじゃない。他の四年生と同じように秋に学校に戻ってくるだけだ。誰もあなたが失敗したなんて思わない。だってあなたは依然として学生なんだし、その点において何ら失敗していないわけだからね。でもほんの一年後、卒業後に始めたとしたら、秋から大学院に入るってことでもなければ、ベンチャーがあなたの職業ってことになる。みんなはあなたをベンチャーの創業者として見るから、失敗するわけにはいかない。
ほとんどの人にとって、一番自分を突き動かす原動力となるのは、自分の周囲の人の意見だ。ベンチャーを始める名目上のゴール ---金持になること---よりもそれは強い[1]。私たちの投資プログラムでは、始めてから1ヵ月後にプロトタイプ・デイというイベントを開く。それぞれのベンチャーが、他の参加者にそれまで作ったものをプレゼンするんだ。そんなことしなくても十分モチベーションは高いんじゃなかって思うかもしれないね。だって参加者は、自分の思いついたすごいアイディアを実現しようとしているんだし、当面の資金はあるわけだし、富か失敗かのゲームに挑んでいるわけだ。それだけで十分じゃないかってね。でも、このデモがあるってことで、参加者は猛烈にがんばるんだ。
はっきりと富を築くことを目的としてベンチャーを始めたとしても、いつか手に入れる金というのは、ほとんどの期間は絵に描いた餅みたいに思えるものだ。日々の仕事に駆り立てるものは、恥をかきたくないという思いだ。
この性質ってのは変えられないと思う。変えられたとしても、そうしたいと思うだろうか。自分の周囲の人々が自分をどう思うかについて、本当に、これっぽっちも気にしないという人がいたとしたら、それはサイコパスだろう。だからこの力を風だと思って、自分の船がそれを受けるように舵を取るといい。周囲の人に流されるんじゃないかって心配があるなら、良い仲間を選んで、彼らからの力が自分の進みたい方向に押してくれるようにするんだ。
卒業によってこの強い風が変わる。それは大きな違いだ。ベンチャーを始めるというのはとても大変で、いずれ成功する人々にとっても崖っぷちに立つことなんだ。今、大成功して飛翔しているかにみえるベンチャー企業だって、その車輪には離陸時に辛うじて躱した木のてっぺんの葉っぱが絡み付いているものだ。こういう、のるかそるかの状況では、ほんの少し逆風が増しただけでも、失敗へと転落してしまうかもしれない。
私たちがY Combinator を始めた当初は、まだ大学にいるうちにベンチャーを始めることを奨励していた。 Y Combinatorが夏休みのためのプログラムとして始まった、というのも理由のひとつだ。プログラムの形は変わっていない。例えば週一回集まって夕食をとるのは良いことだとわかったので、今でもやっている。でも、これからは公式には卒業まで待つようにと言うことにしたんだ。
じゃあ大学にいる間はベンチャーを始めちゃいけないんだろうか。もちろんそんなことはない。 Loopt の創業者の一人、Sam Altmanは私たちが投資した時に、二年生を終えたばかりだった。Looptは今では私たちが投資したベンチャーのうちで最も有望な会社だ。でもSam Altmanは、かなり普通じゃない男だ。彼と最初に会って3分後に、「ああ、きっとビル・ゲイツは19の時こんなふうだったんだろうなあ」と思ったのを覚えているよ。
大学にいる間にベンチャーを始めても成功するなら、どうして私たちはそうしないように言うのか。多分、実力の怪しいヴァイオリニストが誰に対しても評価を求められたら「プロになる才能はないな」と言うのと同じだ。音楽家として成功するには才能だけでなく決意が必要だ。だからこの答えは誰に対しても正答となる。自分に自信が持てない人はその答えを信じて諦めるし、十分に決意している人なら「ふん、何といわれようが俺はやるさ」と思うだろうからね。
従って、私たちの公式な方針は、やめるように説得しても聞かない場合に限り、学部生に投資する、ということになった。正直に言えば、もし自信が無いのなら、待つべきだと思う。今やらなければ会社を始める全てのチャンスが消えてしまうってわけじゃない。今持っているアイディアのいくつかについては扉が閉ざされてしまうかもしれないけれど、最後の一つまでそうなるってことはまず無い。一つのアイディアが古くなる度に、新しいアイディアが実現可能になるんだ。歴史を見れば、ベンチャーを始めるチャンスは増加の一途をたどっている。
だとしたらむしろ、どうしてもっと待てないんだ、と問うべきだろう。どうして、しばらく働いてみたり大学院に進んだりするかわりに、ベンチャーを立ち上げるんだ。実際、それはいい考えかもしれない。ベンチャーを立ち上げるのに一番適した年齢を選べと言われたら、今まで見た応募者のうちで私たちが興奮した例を考えるに、多分20台半ばだと答えるだろう。なぜだろう。20台半ばの若者が、 21の若者よりも有利な点って何だろう。逆にもっと上じゃだめなんだろうか。 25歳に出来て32歳に出来ないことってなんだろう。これらの疑問は考えてみる価値がある。
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