根切り
就職活動をしていたころ、あるコンサルタントから、こういうことを言われた。
「僕は、新卒学生が自分のプロジェクトに入ってきたら、根切り、をやる。」
「根切り」というのは、猿回しが、猿にやる虐待のこと。
普通、猿は猿としての本能を持っているから、なかなか芸を覚えられない。
だから、猿回しは猿に、自分が猿であるという本能を断ち切るために、虐待の様なことをする。
首根っこをつかんで地面に押さえつけるという物らしい。
たとえば日光猿軍団では、その過程で、何十という猿が死んでいくらしい。
もちろん、猿回しも猿が大好きだから猿回しをやっているわけで、
彼らにしてみても気が狂うかと思うくらい、苦しいものらしい。
で、冒頭の話。
そのコンサルタントが言っていたのは、
「新卒に、根切りはぜったいに必要」
「新卒で入った来たやつは、中途半端に頭が良いから、自分の知識や考え方について、
間違った自信を持っている」
「でもそんな今までの知識や考え方は、この世界では役に立たない。
そんな自信があると、コンサルタントとして伸びていかない。」
「だから、お前が今までに得た知識、考え方は、何の役にも立たないんだよ、ということを、
身にしみて感じさせる」
「たとえば、新卒が徹夜してやった仕事に対して、
『ここのところ、駄目だよね』『これとこれ、意味ないよね』ってずばずば指摘して、ボツにする。」
「そのあと、新卒が1日かけたそのシゴトを、自分が1時間で仕上げてやってみせる。」
「そして、新卒に感じさせる。『お前は今この場所で、何の価値もないんだよ』と。」
その話を聞いたときは、怖い人だな、くらいにしか思わなかった。
幸か不幸か、その人とは違うコンサルに入って、今働いている。
うちのファームは、そのファームよりかは雰囲気がよい。
それでも、結局感じるのが、
「あぁ、いまが僕の根切りだなぁ」 ということ。
たとえば昨日朝7時までかけてやった仕事が、今日になってみて、
ぜんぜん穴だらけ、怪しいデータが多く、
つくった意味がないとわかった。
総計で20時間働いて、価値はゼロ。
でもこんなこと、今日に限ったことではない。
いつも、つくづく、「自分はいま価値ゼロだな」と感じる。
そして自分が嫌になる。
学生時代、商学部のゼミで今と同じようなことを2年間もやったつもりなのに、
いざコンサルの仕事に取り組んでみれば、そんなの屁でもない。
目的に一致していない、データソースが明確でない、裏づけのファクトが十分でない、
そんなアウトプットばかり連発している自分がいる。
ぜんぜん役に立っていない。
今日も、結局、僕が20時間かけて中途半端に終わった作業を、
先輩のコンサルタントが2時間でちゃっちゃっと仕上げてしまった。
速くて、
深くて、
網羅的で、
正確。
その先輩が自分に悪意を持っていないことはわかっている。
今になりようやく、自分が何のアウトプットも生み出せていないことに気づきはじめた。
根切られている自分がいる。