実在のみを語り続けた漫画家、青木雄二 | 便利でおトクなネットオフ

実在のみを語り続けた漫画家、青木雄二

 『ナニワ金融道 10巻セット/文庫版』 青木雄二
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 『罪と罰 <1>』 ドストエフスキー
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 『青木雄二の「ゼニと資本論」』 青木雄二
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アトム誕生と同時期における朝鮮特需を契機として、質の高い製造業が戦後の高度経済成長のけん引役となる。
製造物の質を高めるために、時代は実験とその検証結果のみを頼りとして、解釈の余地のない共通の評価指標を国民の目指すべき方向性としていった。


そのことは、天皇という現人神の天恵によって生かされてきた意識先行民族が『我ある、ゆえに我思う』という、実在先行の社会形成を選択したことを意味する。


その実在先行を牽引した手塚治虫の申し子ともいうべき漫画家の好例としては、青木雄二がわかりやすいだろう。
青木は学歴偏重の会社をやめ、ビアホールのアルバイトの後キャバレーのボーイ、パチンコ店員など、被搾取の末端に身を置き、すがるべき対象を常に探していたと告白する。


しかし、すでにやおよろずの神を国外退去させた日本においては、いくら手を擦り合わせ天を仰いでみても、そのような対象は降りてこなかった。
その実在の世界で青木が、貧困と己の弱さゆえに愛娘を売春婦にし、その金で酒を浴びながらいつ果てるともなく独白するマルメラードフに魅せられるのは自然の成り行きであった。


そういった意味で、サラ金という究極の資本主義世界を、徹底したリアルで描き尽くす先にこそ希望があるのだという青木の信念の漫画『ナニワ金融道』は、手塚がアトムをもって敷設したレールの上を走りきった数少ない作品といえるだろう。