時代の希求によるアトムの誕生 | 便利でおトクなネットオフ

時代の希求によるアトムの誕生

 『アトムの命題』 大塚英志
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 『ゴーマニズム宣言SPECIAL 天皇論』 小林よしのり
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 『PLUTO <全8巻セット>』 浦沢直樹/手塚治虫
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 『ザ・モモタロウ <1>』 にわのまこと
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手塚治虫は『勝利の日まで』という作品において、戦時中の状況を当初、トン吉くんというキャラクターでコミカルに描いていた。
爆弾に当たり全身包帯松葉杖の状態になっても、例に漏れず数コマ先では元気に走り回る不死身のキャラクター、トン吉くん。


しかし戦況が悪化するにつれ、描かれる爆撃機や焼夷弾などが徐々に写実的になりはじめる。
戦争の実在を感じながらも、意識の世界で閉じるべきという漫画の、皮肉にもそれはアメリカの『お約束』によって、抗い続ける手塚少年。


だが、ついにその隔意のバリアを破壊して手塚の内部に実在の戦争が侵入してきたとき、トン吉くんは流れ弾に当たって流血し悶え苦しむ生身の人間として描かれたのだった。


天皇の人間宣言とも相まって、日本国民は敗戦が実在となった世界に引きずり出される。
手塚にとってもまた、その形象を傷つく肉体を持ったキャラクターとして描かされることが不可避であった。


そして、その不可避で絶望的な実在の世界にいながら、それでもなお勇気と希望を胸に活躍する無敵で不死身のリアル桃太郎のような少年キャラクターを時代が希求した。


その無茶振り対する手塚の答えが、原子力で10万馬力のパワーを生み出し、ジェットエンジンで空を飛ぶという動力の科学的根拠によって実在と地続きにし、さらにロボットというコンセプトを導入することで、不死身で永遠に少年であり続ける肉体を可能とした科学の子『アトム』だった。


                            (つづく)