誰が一番辛い思いをしたのだろうか? 死期を目の前にヤコブに家族を託すと決めたヨルゲンか、ヨルゲンの命を掛けた頼みによりインドに帰れなくなったヤコブか、2人の父親を目の前にした新婦のアナか、それとも不意に家族を混乱させてしまう結果に至ったヘレネか. 誰を中心にして映画を見るかで大きく感じ方も変わってくる、スザンネ・ビア監督がデンマークが生んだ恐るべき才能と呼ばれているのも納得の、非常に技巧的な映画でした. アカデミーの外国語映画賞候補にもなったこの映画で特筆すべきなのは目をアップで撮るという演出. 目というのは人間の体の中で唯一嘘をつけない部位と言われており、それをアップで見せることで主人公たちの言葉にできない、もしくは言葉にしたくない思いや戸惑いが描いているように思えるんですよね. 例えばヨルゲンは愛する家族のために自分は何を遺せるかに悩み戸惑い、その結果時には泥酔し狼狽する. ヤコブは偶然再会した元恋人との間に生まれていた娘と過ごせる時間を嬉しく思える反面、デンマークでの生活とインドでの生活を照らし合わせては本物の家族について静かに自問自答. ヘレネは愛する夫への想いとかつて愛した恋人への想いと娘への愛の間で揺れ動き、そしてアナはこの世を去る父親とこの地を去る父親への愛情で揺れる. この4人の言葉では表現されていない思いや戸惑いは、ヨルゲンの秘密を念頭に置いてもう一度この映画を見直すと、実はあちこちに静かに描かれていたりするんですよね. そして一番印象に残った、ヨルゲンがヤコブに家族を託したいと懇願するシーン. 普通に考えたら嫉妬の対象でもあり、自分が築き上げてきた家族の絆を壊されるかも知れない存在のヤコブに家族を託そうだなんて思わないはず. バスケットボール専門店 でも上杉謙信が武田信玄に塩を送った逸話のように、最大の好敵手は時に最高の友人にもなるもの. きっとヨルゲンもアナやヘレナとも縁があり、なおかつ孤児院建設活動などの実績からも「この男になら」と思っての苦渋の決断だったのではないでしょうか. そのヨルゲンの辛い思いをヤコブも同じ父親として分かるからこそ、言葉にはせずに引き受けたのだと思うのです. 最後にインドである男の子にデンマークに来ないかと誘うのも、きっとヨルゲンを見て自分も改めて家族を作ってみたいという思いの現われなんでしょう. 人の絆は辛い思いをして強くなるのではなく、誰かが辛い思いをしていると知るからこそ強くなるのだと思うのです. そう思うと本当に一番辛い思いをしたのはヨルゲンなのか、ヤコブなのか、アナなのか、ヘレナなのか. 人の痛みが分かるのが大人であるなら、この映画のタイトルはまだまだ幼いアナが結婚して一人前の大人になったという意味なんでしょうか. 深く考えれば考えるほど、いろんな感じ方ができるような気がした秀逸な作品でした. 深夜らじお@の映画館 は嘘とついてもすぐにバレます.