「快くぅーーん、もうっ、どこ行ってたのよ。」

 

 

夏川さんと別れて戻ってくるなり、呼ばれた

 

 

「すみません、何かありました?」

 

「ちょっとここっ、教えて欲しくって~」

 

 

またですか

この先輩、苦手なんだよな

何かって言うと、教えてって聞いてくる

しかも決まって、休み時間前

 

他の先輩たちにふろうかと見回しても

誰も目を合わせようとしてくれなくて

ここでは一番下っ端のオレが聞くしかないのか・・って

 

大きくひとつため息ついて

諦めると、書類を持ってパソコンに向かう

 

「・・・これはですね、先週も言ったと思うんですけど、ここをー」

 

「うんうん、あ、そっかぁ~!そうだった!ごめんね~」

 

・・・・ わかってんじゃないのか?ほんとは

 

って疑いたくなる

 

 

「あ、昼休み!ねぇ快くん、お礼に今日のお昼、よかったらー」

 

キタ、これだよ

 

「すみません、こんなのお礼してもらうようなことじゃないんで」

 

「えー。でも、じゃあランチにつけるコーヒーでも」

 

「おれ、コーヒー苦手なんで」

 

「だったら別のー」

 

「あの、もう大丈夫なんで、ほんとに。」

 

「え~そんなこと言わないで・・」

 

先輩なんで、むげにも出来ない、ってとこ

ついてくるんだよな~

 

 

「山田!おまえそれ、パワハラだぞ」

 

突然 部署内に声が響いた

 

「キャッ、松永さんっ!!」

 

山田さんが慌てて振り返る

 

「森島、断ってるだろ?それ以上しつこく続けるようなら、上に伝えるからな?」

 

「えー、松永さん、そんな怖いこと言わないでくださいよ~う。ちょっと声かけてるだけじゃないですかぁ~」

 

「相手が困ってるのもわかんないようなら、教育的指導が必要だな。それも言っておいてもいいが?」

 

「うう~・・ わかりました。快くん、ごめんね」

 

「あぁ・・ ハイ」

 

 

え?松永さん?

 

・・・ さっき、夏川さんに電話してきてた・・

なんでうちに?

 

 

「昼休みに悪いんだけど、誰かこれ、急ぎで修正できるヤツいない?」

 

 

急ぎで修正?

直接、ここに持ってくるって、相当急ぎか?

 

みんなもう、すっかり昼休みモードに入ってて

既に残っている人もまばらだ

 

それでも何人かが、松永さんの周りに集まっていく

 

「急ぎってどれくらいですか?」

「午後一で打ち合わせ入ってるから、それに間に合わせてほしくて」

「・・ 午後一?そんなの、めちゃめちゃ時間ないじゃないですか!」

「そうなんだよね、ほんと申し訳ないんだけど、誰か助けてくれないかな」

「松永さんの頼みなら、聞きたいのはやまやまですけど・・・ とりあえず今日の打ち合わせは修正前の資料でやるっていうのはー」

 

「オレ、やります」

 

誰もが申し訳なさそうにしているなか

オレは手を挙げて、輪の中へと入って行った

そんなことを言ってる間にも、やってみた方が早いような気がして

 

「ほんとかっ!?助かる。」

 

「…間に合わなかったらすみません」

 

「それは困る・・いや、とにかく、やってみてくれるだけ助かる」

 

「どれですか?」

 

 

オレは松永さんからデータと資料をうけとると

パソコンに向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう!助かった!急いでるから行くけど、このお礼はいつかー・・って、これだと山田と変わらないか。」

 

「大丈夫です。仕事だからやっただけなんで。それより急いでるんでしょ?行ってください」

 

「ん?あぁ。じゃあな、ほんと、ありがとう!森島!」

 

 

去っていく松永さんに、お辞儀を返した

 

 

こちらこそ、ありがとうございました、ですよ

おかげで山田先輩、お昼、行っちゃいましたもん

 

・・・ 助かった

 

これで今後なくなればいいけど・・・

 

 

 

「松永さんって、かっこいいよな~」

「ほんとほんと、憧れちゃうわ」

「なんで独身なんだろ」

「恋人いるって話も聞かないよね?」

「でもまぁ、聞かないだけでいるでしょう」

「一時期、夏川さんと噂なかった?」

 

 

・・えっ?

 

残ってる先輩たちの噂話が耳に入った

 

 

「あー、同期だし?でも、夏川さんってハイスペックイケメン彼氏がいるんだよな?」

「そうそう、飲み会でそんなこと言ってた、って聞いた」

「案外、松永さんがそのハイスペックイケメン彼氏だったりして!」

「それ、あるかもっ!」

 

へぇ~・・・

 

 

「いやいや、夏川さんの彼氏は社外にいてほしい!!社外だから、許せるんですよ」

 

「出たー!中里の夏川さん推し」

「僕だけじゃないっすよ。・・・ 夏川さんが社内でイチャイチャしてるとこなんて、見たくないっすからね。みんな言ってますよ。外にいるハイスペックイケメン彼氏に感謝です」

 

 

ほらほら

夏川さんのファン

いるんですって

 

「・・・ 少し、S、入ってるけどな」

 

 

「え?」「え?」

「・・・えっ?」

 

 

うわっ、オレ、声、出てたっ?

出てたとしてもボソッとだったはずなのに・・・・

たまたまみんなが黙ってたときで

響いたのか?

 

 

「森島、それ、どういうことだ?」

「S入ってる、って夏川さんが?でも、だとしたらなんでそれ、森島くんが?」

 

 

やばい

疑惑のまなざし、半端ない

 

 

「あ~・・いや、そんな話を聞いたような気が・・・」

 

 

 

「噂かよっ!」

「誰かの願望だろ?」

 

「いいっ!!夏川さんのS!!メガネかけて欲しい~~!叱られてみたいかも!」

 

「・・・ 中里・・・」(気の毒そうなみんなの視線)

 

「森島~、どこからそれ、聞いたんだ?」

 

 

やばいくらいに受け入れられている・・!!

 

 

「いや~・・ 気のせいだったかも・・・誰からだったか・・ 忘れました」

 

 

すげぇヤバイかも、これ

逆に噂になるやつか・・・?

 

 

「でも珍しいわね、森島くんがこんな話題に入ってくるの」

「そうそう、いつも人の噂話なんか、スルーなのにね」

 

・・・・ 確かに

 

 

「森島!!おまえも夏川さんのファンだったんだなっ!?」

 

 

突然、中里さんに両肩をガシッと掴まれ

大歓迎だ、とばかりに微笑まれている

 

 

「・・・ いえ。全然。」

 

 

「・・・・」

「・・・・・」

 

 

俺の返事に皆も漠然と静かになった

 

 

「だよね~」

「ですよね」

「だな」

 

 

そして、皆、遅めの昼食へと散らばっていった