「荷物・・・ 本当にそれだけなんだな?」
私が持って出てきた荷物を見おろし、彼が言った
「言っとくが、もう二度と迎えになんて来ないからな?
他にあっても知らないぞ?」
「・・・・」
そんな怖い顔して念を押されると、ちょっと不安になってしまう
「まぁまぁ、もし忘れ物があるようだったら、オレが届けてやるから」
「甘やかさないでいただけますか?おとうさん・・」
「お、おとうさんっ!?////」
お父さんったら、彼に『おとうさん』って呼ばれて赤くなるって・・・
どういうことよっ!!
さっき挨拶されてる間も、しどろもどろになってるし・・・
よろしくお願いします、なんて言っちゃって
私はすぐ帰ってくる、って言ってるのに!!
「本当にこれだけで大丈夫だから!!」
そういうと、彼は着替えを詰め込んだスーツケースをひょいっと持ち上げ
さっさとトランクに乗せていく
「おい、りか・・・」
お父さんが私を引き寄せて小声で呟いた
ーー 彼は、グランチェスター伯爵にちょっと似てないか?
「やっぱりっ!?お父さんもそう思ったっ!?」
思わず振り返って、お父さんの手を握って
ぴょんぴょんぴょんっ
「どうした?」
車のトランクをしめると、彼がこっちを向いた
「・・・いいえ、なんでもございません」
言えねー・・
絶対、言えねー・・
「よかったじゃないか。あ~!だからか、あの人形を置いていっても平気だったのは・・」
「お父さんっ!!人形とかって言わないでっ!!」
私の大切なグランチェスター伯爵フィギュアを・・・
くぅ~~~
断腸の思いでここに置いておくのに・・・
「・・・・ 人形?」
「なんでもありませんっ!!さ、行くわよっ?」
私は彼の方に向き直ると、車の方へ歩いて行く
「りか・・・」
背中に呼び掛けられるお父さんの声が何だか切ない・・・
「身体に気をつけて元気でやるんだよ?
向こう様にご迷惑をおかけしないように・・・」
そんなこと言われたらやばいじゃない・・
何だか目頭が熱くなって・・・
「大丈夫だって!何よ、今生の別れみたいに・・・。
今までどおり、休みの日とか、店手伝いにくるから!
それにどうせすぐー」
「いつまで挨拶してるんだ。行くぞ!」
「wwwwww」
ま、いいか。
本当にすぐ帰ってくることになるんだから・・・
私は、お父さんに手を振って、車に乗り込んだ
・
・
・
・
「ずいぶん、大切にされてるんだな・・・」
運転しながら、ぼそっと呟かれた
そのとき私は、彼がハンドルに乗せている手の・・
伸びた指の感じとかがとっても綺麗で見惚れていたもんだから
「え?あ、そうでしょ?」
反応が遅くなった
あ、横顔も綺麗だな~・・・
「とても、1千万で娘を売る親には見えない」
「wwwwwwwwwww」
それ言う?
「そんなんじゃないもん、お父さんは、私を結婚させたかっただけだから!」
いい年して、全く結婚しそうにないもんだから・・・
「あなただって、そうなんでしょ?」
「・・・・・ そうだな。」
「あ、そういえば・・ 貴方のご両親は?私も挨拶しておかないといけないんじゃ・・・」
だって、お金持ちなんでしょ?
しまった・・・
もしかして、そっちが先だった!?
「いないから気にしなくていい。」
「えっ?いない、って・・・」
「死んだ。2人とも。いや、3人・・というべきか?」
「え?え?3人???」
ど、ど、ど、どういうことっ?
っていうか、死んだってそんなっ
どうしよ、そんなの予想してなかったからっ・・
「ごめんなさー」
「じーさんの息子と最初に結婚したのがオレの母親。
と言っても、身体が弱くてオレを生んでまもなく死んだ・・。
で、再婚した父が、後妻と事故で死んだのが・・・そうだな。
もう3年になるか・・?」
「・・・・・・・・・・・」
淡々としゃべってるけど、すっごいことなんじゃ・・・!?
つまりこの人・・・
自分の本当の母親とは・・・
どうなの?その・・後妻とやらには可愛がってもらえたのかしら?
「-- っ なっ!?」
私は、気がつくと彼の頭の上に手を伸ばしていた
「ちゃんと、いい子いい子、ってしてもらえてた?」
バッー
あっけなく私の手はふり払われ
「気安く触るなっ!!」
全く視線を合わせず、ただ叱られた・・・
「いいじゃん。だって 結婚するんでしょ?」
「おや?しないんじゃなかったのか?」
「wwwwwwwww そうだった」
うっかり・・・
だって、何だか・・・ こみあげてきて・・・ん?何が?
・
・
・
「ほら、着いたぞ。」
そう言って、ひとり とっとと車を降りて、トランクから私の荷物を降ろしてくれる
そんな彼の姿をぼぉ~っと見つめていると
あ~ おなか減ったなぁ~・・・って・・・
「あっ!!買い物するの 忘れたっ!!」
「はぁ?」
「だって、冷蔵庫に食材、あんまりなくて・・・帰りに買って帰らなきゃ
って思ってたのに・・・」
「・・・・ そういうことは、先に言え!」
「ごめんなさい、どうしよ・・。」
スーパーに戻って・・なんて、くれない・・・よね?(ちらっ)
もうスーツケース、降ろしちゃってるし
「・・・・ ちょっと待ってろ。これ、運んでくるから」
「いいのっ!?」
「しょうがないだろ、オレも腹減った・・・」
♪♪♪~~~~
そのとき、彼の携帯が鳴って、そのままスーツケースに置かれた手が離れた
彼が電話に出ている間
私は、何を買おう、何食べよう
あ、せっかくだから、彼の食べたいものも聞いてあげよう
そういえばさっき、ここに来る途中、近くにコンビニあったな
あれは使えそう・・・
とりあえず、甘いモノ食べたい
なんてことをぐるぐる考えていた
「おい!」
電話を切った彼の、私を呼ぶ第一声がこれ・・・
うん?と顔をそっちに向けると
「恭弥が買い物を済ませて帰ってるそうだ。おまえも戻って確認しろ」
そうだった・・・!!
何だかすっかり忘れていたよ
イケメン執事さまの存在を・・・!!
「わかった!じゃ、私、そこのコンビニ行って、スイーツ買ってくる!」
「はぁ?」
「どうしても食べたいのっ!!先、帰っておいて!」
くるっと振り返って歩きだそうとしたそのとき
「おいっ、待て!!」
背中に彼の声がして、再び振り返る
「これっー」
彼の手から、見事に放物線を描いて・・・
何か飛んできた?
とびっくりしながらも受け取る
シャリンッー
「鍵だ。俺たちがいるから必要ないとは思うが・・・。
忘れるといけないから渡しておく。
暗証番号は憶えたな?」
手の平の中のソレに、驚きでしばし言葉をうしない
返事をしようと顔を上げたときにはー
すでに彼の姿はそこになかった
「何?この・・・ イチゴのキーホルダー・・・」
アハハハ・・・
と声に出して笑い、私はコンビニへと走った
そのとき
1台の車が横を通り過ぎて、マンションの駐車場へと入っていった
・
・
・
・
・
チンッ!
最上階でエレベーターの扉が開いた途端
人の話し声が聞こえてきた
フロア一帯が彼のものなんだから、誰かお客様?
「ヒョンッ 突然結婚だなんて・・・おばあさまに聞いてびっくりしたんだ!
もしかして家を出たのは、それが原因だったの?」
「・・・・あぁ。そうだよ」
・・・・え?
話の内容から察するに もしかして、彼の家族・・・?
私はもう、彼らが見えるすぐそこまで来ていた
彼に話しかけているのは、
すらーっとした長身でとてもスタイルのいい男性だった
後ろ姿しか見えなくても、彼はきっとイケメン・・・
そんな確信ができるような、オーラが出ていた
「今日は、ヒョンにお祝いが言いたくて・・・
それに、詳しい話も聞きたいよ!
婚約者がいるんだろ?中でゆっくり話をー」
「チャンミナ。・・・悪いが今日は疲れてるんだ。
帰ってくれないか?」
「え・・・?」
「・・・ また今度連絡する・・・」
私は・・・・
彼の、拒絶する姿を見て
なぜだか、とても胸が苦しくなった
なんだろう?
彼のあの表情は何なんだろう?
「今度っていつ?そう言ってヒョンは、家を出てから一度も連絡してくれたことなんてないじゃないか!!」
ーーー っ!!!!
なに?
このやりとり・・・・
まるで恋人同士のようなー(///∇//)ジュルッ
いやいや、そんなっ
私の中ではもう、見目麗しきイケメン2人=・・・ という図式が成り立っているこのっ
ふ・・な私の邪まな・・・淫らな妄想がそう聞こえてしまうだけでっー
いかん、いかん・・・
「チャンミナ・・・」
「どうしてっ?オレは、昔みたいにもっともっとヒョンと話がしたいっ!
仕事のことでもヒョンに相談したいことだらけなんだっ!!
なのになぜ、いつも忙しい忙しいって・・・そりゃあ、じーさんの跡を継いで
TOHOホールディングスの代表になったんだから、忙しいのはわかってる!
でも少しくらい、弟のオレのために時間を割いてくれてもいいんじゃないか?
ダメなのっ!?」
・・・・・ 弟!!?
ということは、後妻さんの・・
どうしよう・・・・
弟さんが話せば話すほど
私の中で ある考えが、一本にまとまっていって・・・・
「・・・ また今度・・・ 連絡する」
おそらくすがりつくように、彼を見つめていたその影が
今の彼の言葉で、後ろからも見て取れるようにショックを受けてうな垂れると
あとずさり、振り返った拍子に私を見て目を丸くし
1回お辞儀をして、エレベーターへと早歩きして行った
息を飲んでしまうほど
綺麗な人・・・!!!
私を乗せてきたエレベーターがまだ残っていたせいで
その姿はあっという間に消えていった
とてもいい香りだけ残して・・・・
「なんだ・・・・ 帰ってたのか」
ドアをあけたまま、立っている彼の横を
摺り抜けるように中へと入っていく・・・
「・・・・ ダメじゃない。大切な人を泣かせちゃ!」
コンコン、ってグーで彼の胸板を叩いた
彼は何も言わなかった・・・
つづく・・・

