「あ、武田、お帰り~。お疲れさん。松永さんが、戻ってきたら部長室に来るように、って言ってたぞ」
「部長室?」
松永さんは?と捜してみるも見つからず
課長の方を見ると
新聞広げて読んでる
「松永さんは先に行ってる」
「先に言ってよ、それ!」
部長室?
なになに?
しかも、松永さんも呼ばれてるってこと?
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コンコンコン
「武田です、失礼します」
ガチャ
ドアを開けて入ると
ソファに部長と松永さんが向かい合って座っている
「あ~ 武田くん、どうぞ。君もそこに座って」
松永さんの隣へと促された
き、緊張するっ
「今日はN社の件、よくやってくれた。向こうの専務からも君たちのことを大変褒めていただいたよ。さっきも、松永くんともそう話していたところだ」
「いえ、私はただの補佐ですから。お褒めいただくようなことなどありません。」
「なるほど。松永くんから聞いてはいたが、実に謙虚だな、君は」
「いえいえ、本当のことを言っただけです。謙虚だなんてー」
思わず松永さんを睨みたくなる・・
「さて、本題なんだが・・」
ドキッ
・・・ 本題?
「実は、困ったことが起きてね?」
「困ったこと・・ と言いますと?」
「うちのS支社で、部下を2人連れてBB社に転職した人間が出てね」
「・・・・・・・」
BB社というと、S支社がある地方ではライバル大手企業
「ついて行ってしまった人間は痛いがしょうがない。だが、もっと問題なのはー」
「関わっていたプロジェクトまで、取引先ごと、ってことですか?」
松永さんが切り込んだ
「まぁ、うちとの付き合いの長いところばかりだ。ほとんど大丈夫だったんだが、ひとつだけ・・大きなのを持っていかれてね」
「S支社なら・・・ 丸々堂、ですか?」
「新しい企画を提示させてもらって、もうすぐプレゼン、というこの時にだ」
もうすぐプレゼン?
・・・ということは、まだプレゼンは終わっていない
それって、まさか・・・
「そこで君たちにS支社に応援に行って、そのプレゼンを勝ち取って来てほしいんだ」
やっぱり!!!
っていうか、君たち?
え?
私も??
「いやいや、部長。何を言ってるんですか?もうそれ、まんま、持って行かれてるんですよね?」
驚きすぎて何も言えないけど
気持ちは松永さんの言う通り
「ちなみにプレゼンは来週の月曜だ」
来週の月曜?
1週間もない!!
「無理です。だいたい、残ったメンバーは何をやってるんですか?」
「諦めてぼ~っとしているらしい」
そりゃそうでしょう
「だが、丸々堂をBB社にくれてやるのは惜しくてならん。」
「・・・・・・・」
「今回くらいはしょうがない、って思うか?次、頑張ればいいと?それは、次、が必ずあるとあぐらをかいている者のセリフだ」
「・・・・・・」
あ~、やばい
部長ったら、うまいなぁ
松永さんに火を点けるの
「かなり厳しいと思うので、ニンジンが欲しいのですが」
ほら
受ける気になってる
松永さんの目が変わってるもん
「勝ち取れたら、特別ボーナスを出そう」
「それ、向こうで言っても構いませんか?」
「構わん」
「・・・・ わかりました。すぐに準備して向かいます」
「連れて行くのは武田くんだけでいいのか?他にも必要ならー」
「武田だけで構いません。」
「えっ?」
「・・・・ なんだ?」
初めて発した言葉が、えっ?なんて・・・
「あの・・ 私でいいのでしょうか?他に適した方がいらっしゃるのではないかとー」
「おまえより適した奴はいない。」
・・・・え?松永さんっ?
「・・ だそうだよ?武田くん。頼めるかな?」
「わ・・かりました。頑張ります。」
バタン
ふたり、部長室を出る
大きく深呼吸して、歩き出す
「あの・・ どうして私を同席するよう 呼んだんですか?」
「ん?」
「今回の件、松永さんも知らなかったんですよね?」
「知らなかったけど・・、部長に呼ばれたとき、なんか、いや~~な予感がしたんだよな~」
「それで私、ですか?」
「だってお前がいたら、大抵 乗り切れるからな。部長にもアピっといた」
「なんですか、それ・・・・・・」
松永さん・・・
それ・・・
めちゃくちゃ嬉しいんですけど
「おまえ、今から帰って、準備するとして、どれくらいで〇〇駅まで来れる?」
腕時計を見る
13時20分
「すみません、頑張っても14時半・・でしょうか」
「おけ。それなら夕方、S支社、着けるな。じゃあ、14時半、○○駅改札で」
「はい」
「月曜がプレゼンってことは・・・ 土日はないぞ。覚悟しとけ」
「わかってます」
ほんとに出来るの・・?
ううん
やらなきゃダメだ
私が不安そうな顔をしちゃだめだ
せっかく松永さんにああ言ってもらったんだから
期待に応えないと