「ほんとに引っ越し屋さんでバイトしてたのね、すごい段取りよくて早い・・・。」

 

 

業者さんから用意してもらっていた段ボールが、どんどん埋まっていく

箱の外に、油性マジックで中身を書いていった

 

 

「夏川さんが、いちいち手をとめて考え込むから遅くなるんですよ」

 

「だって、捨てるものと持っていくものとまず分けろって言うから・・」

 

「・・・・ まさか、とりあえず全部持って行って、とか考えてたんじゃないでしょうね?」

 

「・・・・・・」

 

 

そのまさかですけど?

 

 

「だってそんな、時間ないんだし、急いでるからとにかく運んでおいて後で捨てたらー」

 

「それ、引っ越してからも絶対できませんよ?そう言う人は」

 

うっー

 

なんか・・・

そう言われると

確かに今までもそうだったような気が・・・

 

 

「まさかこんなに手伝うことになるとは・・・」

 

「は!?じゃあ、あなた、何しに来たのよっ!」

 

「プハッー・・ ハハハッ・・ オレもそう思う」

 

「・・・・ 森島くん?」

 

「メールは苦手だから、電話で、って思ってたけど、・・・ どうせなら、顔見て話した方がいいかって・・・」

 

 

 

 

・・・・・ は?

 

 

 

「だって夏川さん、変に誤魔化すときあるから・・・」

 

「変に誤魔化すって何よ」

 

「ん?あ~・・ 無駄に饒舌になるとか」

 

「無駄に饒舌!?」

 

 

無駄!?

無駄とは何よっ

 

 

「まぁ、オレもそういうとこあるんで、ちょっとわかりますけど・・。そういうの、顔見てたらツッコめるかな、って思って・・ ハイ、そこ、手はちゃんと動かす!」

 

 

「・・・ はい」

 

 

なんか・・・

なんかさ?

自分の癖のこと

そんなふうに指摘されるのって

ちょっと照れるっていうか・・・

 

 

 

「で?ユヅルと、何、話したんです?」

 

 

「わっ!・・・ いきなりキタ」

 

 

「いや今、流れだったでしょ?」

 

 

そうかも・・

だけど・・

 

 

「ユヅルくんには、えと・・ 今まで彼が出た作品?・・を見て、感想を聞かせてほしいって、DVD渡された」

 

「ユヅルが出た作品の感想?なんでそんなの、夏川さんに?」

 

うっ・・

そうよね、そこ、くるよね?

 

「それはまぁ・・ 私が、彼の出た映画の感想をちょろっと熱く?語っちゃったもんだから、ユヅルくん、きっと気をよくして、もっともっと~って欲しがってくれたのではないかと・・」

 

「アイツが出た映画って確か・・・・・・・」

 

 

そこまで言って

森島くんが口をあけたまま、かたまった

 

一瞬、時間が止まったのかと思ったわ

 

視線のさき

漫画が詰まった本棚スラ~~ッと並んでるとこだ

きっと

 

「びっくりした?・・・ すごい数でしょ」

 

自分でも何冊あるのかわからない

 

 

もう、覚悟を決めてた

バレてもいいや、って

 

彼を部屋に入れた瞬間にね

 

 

 

「あれ・・・ 全部、持ってくの?」

 

「いい機会だから、手放せるものは売ることにしようとは思ってるよ?」

 

「それって、手放せないのがあるってこと?」

 

「当然でしょ!!」

 

「もしかして・・・ ユヅルが出た映画って、この中に・・・?」

 

 

私は本棚から、『キミとアオハル』を手にとる

 

 

「ユヅルくんが出てたの、この漫画原作の実写化されたやつ」

 

 

「すげぇ・・ そうなの?」

 

 

「知らなかったの?自分の友達が出る映画なのにー」

 

「オレ、少女漫画、読まないもん」

 

 

確かに・・

読まなさそう

 

 

「あ!!もしかして俺と会ったとき・・・ 見てた映画って、それ?」

 

 

森島くんが唐突にテンション上げて聞いてきた

 

気づきましたか?

それに・・・

 

 

私はうなずくと

 

「そう。これです」

 

もう一度、手にある漫画を掲げて見せる

 

どう?

引く?

引きかな?

ひとりで観に行ってたの・・・

 

 

 

「へぇ~・・・ オレも見てみたいかも」

 

 

ええっ!?

 

「ほんとにっ?漫画っ?映画?あ、漫画読んでないなら、映画を先に見た方がいいと思うな、それから漫画を読んだ方が変な先入観とかないと思うし、逆に読んでない人がどんなふうに思うのか私も興味あるし、ユヅルくんも知りたいんじゃないかな?」

 

「・・・ すげぇ饒舌」

 

「・・・ ごめん、引くよね?こんなの・・・ いい年してさ。いいの、自分でもわかってるから。でもさ、これが私の愉しみなんだから、しょうがないじゃない?だからひとりで映画館だって行ってるんだし。あーもうっ、だから誰にも知られたくなかったのにぃー」

 

「え?・・・ もしかして・・ いつもひとりで観てるの?」

 

「あ、誤解しないで?こういうのばっかじゃないわよ?でもまぁ、割合的には、多いけど・・」

 

「フッー」

 

「あ~、今、バカにしたな?いいですよー、寂しいおひとりさまですから。慣れてますぅー」

 

「じゃあ今度、一緒に行く?」

 

「え?」

 

「ユヅルの、観てみたいけど、男ひとりはもっとキツい」

 

 

あ~、ユヅルくんの映画のことか

びっくりした~

なんか、勝手に誤解してた

これからは、一緒に行ってくれるのかと・・

そんなわけないよね

 

今度、って言ってたもんね

 

 

「いいけど・・。 今、軽くディスったわよね?男ひとりはもっとキツイ、って・・それって私が一人でいくのはキツイってー」

 

「オレが一緒に行くんだからもうキツくないでしょ」

 

・・・え?

 

もう、って・・

ん?

待て待て

また、誤解しちゃいそうなんだけど

 

 

「もしかして・・ それ?内緒にしてってユヅルに頼んでた?とか?」

 

「・・・・・・・」

 

 

すごい

なんでわかるの?

 

 

「何に つけこまれてるんだか」

 

「つけこまれた、って言葉悪くない?」

 

「いや、そもそもオレが夏川さんのこと巻き込んでしまったせいで、面倒なことになってんのかとー」

 

「面倒なこと?私としては、あの映画観てファンになっちゃった人とお近づきになれてラッキーこの上ない感じだけど?」

 

「・・・・ ファン?」

 

「そうよ、だって主演のー・・あ、そうだ、観に行くんだから、これ以上は言えない」

 

「・・・・ 手、止まってる」

 

「あ、はいっ、」

 

 

つい、熱くなってしまったわ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「漫画、分けるとき、間違っても読み返したりしないこと。それやると時間がいくらあっても足りなくなるから」

 

「ええええーー。でも、もし処分することにするなら、最後にもう一度、って」

 

「わかった。じゃあ、最後にもう一度読んで処分したいやつ、読まなくても処分できるやつ、処分はできないやつ、この3つに分けて詰める。いい?」

 

「わかった!」

コクコクッ

私は大きく肯いた

 

「じゃあオレ、帰るけど・・ 土曜は朝、こっち来るわ」

 

「えっ?いいのっ!?」

 

 

露骨に喜んでしまった

 

 

「夏川さん、なんか不安すぎる・・・」

 

「森島くん・・・ 引っ越しの神ねっ!!」

 

 

私が両手を合わせ、拝むようにして手を組むと

 

 

森島くんの左手の人差し指が

にゅーーーっと伸びてきて

 

眉間の少し上、おでこを ぐぅーーんっと押された

 

 

ーーっ!?

 

思ってたより力強くて後ずさる

 

 

「・・・ 何が神だよ」

 

 

私・・・

 

森島くんのこの

上から呆れたように見下ろしてくる顔

 

嫌いじゃないんだよね

 

睨んでるようで

照れてるやつ

 

でしょ?

 

だよね?

 

 

「何 にやけてんの?」

 

「え?にやけてた?」

 

うそっ

キモッ

私・・・

 

 

 

「今日は遅くまでごめんね、ありがと。すっごく助かった!なんか色々、目から鱗っていうか、引っ越しのコツ、教えてもらって感謝だし」

 

 

「はいはい、それは無事に引っ越し終わってからね。じゃあ、おやすみなさい」

 

 

「おやすみなさい、気をつけてね」

 

 

「・・・ どうも///」

 

 

 

ガチャ

 

 

バタン

 

 

 

 

あれ?

 

最後、森島くん・・・

 

照れてた?

 

え?なんか私、変なこと言ったっけ?

 

 

っていうかなんか・・・

 

 

どうしよ・・・

 

 

ドキドキする・・・

 

 

 

えええええええええええええええ