「昨夜、智子からの電話に出なかったんだって?」
いきなり、ちょっといいか?って俺を連れ出して言うセリフがそれかよ
大場とふたり、何事?っていう部下の視線をくぐりぬけながら廊下に出て話す
「あ、忘れてた」
「忘れてた、じゃないだろ?おかげで僕んとこかかってきた」
「・・・ いつものことだろ」
智子がおまえに連絡するのは
「なんだよ、それ。まさか妬いてる?」
「別に。そもそも、もう俺にはそんな資格ないし」
「なに?別れたつもり?」
「は?当たり前だろ」
「プロポーズ、断られただけだろ?」
「・・・ おまえ、そんなことまで知ってんの?」
「・・・・・・」
しまった、って顔、すんなよ
「ほんと、あいつ、なんでもおまえに話すんだな」
「シュンが智子の気持ち、わかってやらないからだろ」
「おまえならわかるって言うのかよ、だったらおまえがつきあえば?」
「・・っ!」
「ひとの女、呼び捨てにすんじゃねーよ。気分悪いって思い知れ」
「なんだよ、それ!今更そんなことー」
「今更だから言ってんだ、話はそれだけか?もう戻るからな」
仕事、溜まってんだ
俺は歩き出す
「智子は別れたわけじゃないって言ってるぞ!」
知るか!
俺は、ドアノブに手をかけたまま、大場の方を振り返った
「・・ほんと、おまえとの方がうまくやれるよ」
・
・
・
・
・
き・・・
聞いてしまった・・・
大場先輩と松本主任の話
だって・・・
大場先輩、ちょっと怖い顔して主任のこと連れていくから
なんだろう?って
ーー プロポーズ、断られただけだろ
したんだ?
プロポーズ
そしてそれを断られた
別れたわけじゃないって
彼女さんは思っている
主任・・・
フラれたって言ってたけど
フラれてないじゃん!
プロポーズ断られただけじゃん!
彼女さん、別れたつもりはないってことは
別れてないんじゃんっ!!
プロポーズするほど好きなんじゃんっ!!
私は
松本主任がドアを開けて、中に入っていったのを確認してから
ひとり、取り残されたようにまだ立ち尽くしている大場先輩に近づいて行った
「大場先輩」
「あれ?まどかちゃん、どうしたー・・ もしかして、聞いてた?」
大場先輩は私の声にふりむくと
すぐに察したのか、そう聞いてきた
でも私はそれには答えず、にこっと微笑んで聞いた
「先輩、昨日言ってた、いいことってなんですか?」
「え?」
「ほら、昨日・・ いいこと教えてあげよっか?って言って来たじゃないですか!」
「あ~・・ あれか」
思い出して、目を伏せる先輩
「教えてくださいよ」
「なんだったかな?」
え・・
「何とぼけてるんですか?」
「いやいや、ほんと。なんだったっけ?忘れちゃったなぁ~」
「・・・・・・・・」
下手くそ
こういうの、ほんと大場先輩って下手なのよね
「大場先輩って、さとこさんのこと好きなんですか?」
「・・っ!?」
さとこさん、って名前に異常に反応する大場先輩
「なっ?え?なんで智子って・・」
「・・・ 主任、フラれてなかったんですね」
「え?・・ あいつ、フラれたってまどかちゃんに言ったの!?」
「傷心だそうです」
「はぁ~?・・・ったく。なんでそういうこと、まどかちゃんに言うかなぁ~?
智子はちょっと不安になってるだけなんだってー」
「不安になってるんですか?どうして?」
もしかして私のせい?・・・だったりするの?
「・・・・・・・・・」
「先輩、その、しまった!って顔、やめてもらえます?」
「いやいやだって、こういうの、まどかちゃんに言うことじゃないでしょ」
「ですよねー。先輩、私、ほんとにほんとのところは、先輩に智子さん、とっちゃってくださいよ!ってお願いしたいんですけどー」
「えっ?まどかちゃんっ!?」
「そんなことになったら主任・・ 本当は悲しんじゃうんですよね?きっと」
「・・・ 多分」
「ですよねー、だって私、主任が智子さんのことすごく好きなの知ってますもん。」
「え?そうなの?」
「知ってますよー、そんなの。だって、主任、絶対浮気しない人ですもん」
ーー 俺、彼女いるよ?変な気、起こさないでね
「まどかちゃんがそれ言う~?だってこの前ー」
「あれは、酔って私が絡んだんです!!」
「・・・・・・・・」
「っていうか覚えてないから先輩も忘れてくださいよ」
「まどかちゃん・・ いい子だね」
「惚れないでくださいよ?私は主任ー・・ あ~、こういうの、智子さん、不安にさせちゃいますよね」
「あ、大丈夫だよ。智子はまどかちゃんのことなんて知らないって」
「ええーっ・・それって・・」
「あ・・・・いや、智子もシュンが浮気してるとは思ってないと・・」
「何それ、じゃあ何が不安なんだぁーーー!!!」
「いやいやごめん、ほんっと。智子もマイペースだから悪いんだけど・・・。ほら、結婚ってなるといろいろね?あるんじゃない?あ、これ、内緒ね?」
「大場先輩・・。」
「え?」
「甘やかしすぎですよ?智子さんのこと!」
ずるい
そんなんで不安になるなんてずるい
「あと!智子さんのこと、呼び捨てにするの、やめてくださいね!!」
主任にやきもち、焼かせないでください!!
「なんでっ?」
それっくらいわからないとダメですよ、先輩!!
「なんでも、ですっ!じゃあ、仕事に戻ってください!!」
「あ、はい・・」
ほれほれ、行った行った!
とばかりに大場先輩の背中を押した
なんだよぉ・・
私なんか、全然、ふたりの支障になんか、なってなかったんだ?
ははは・・・
待ってろ、って言ったくせに
自分から言うって・・
昨日の夜が一番幸せだった
夜なんて・・・
明けなきゃよかったのにーー
つづく・・・・