「あ、三木。すまない、遅くなって・・・」

 

 

店を飛び出すと、通りを曲がったところに、三木の姿を発見した

 

 

「キュリ様は、先ほどお帰りになられました。」

 

「・・は?帰った?」

 

「ええ。」

 

「急いで来たのに?」

 

「勝手に店を間違え、時間には遅れ、キュリ様をお待たせしたのは、他ならぬチャンミン様ですが?」

 

「・・・ 確かに。」

 

 

三木の言うとおりだ

 

 

しかし・・・

 

キュリが帰ってしまったのなら

さっきの店でもう少し話していたかった

彼女はまだいるんだろうか?それとも・・

 

 

「どうかなさったんですか?」

 

 

「ん?いや、何も・・。」

 

 

「だったら、今すぐキュリ様にお電話をなさり、今夜のことを謝罪すべきかと」

 

「僕が?」

 

「・・・まさか、そこまで私にしろと?」

 

「・・・・・いや、僕がするよ」

 

 

三木め、そんな睨まなくてもわかってるよ

 

 

僕は携帯を取り出すとキュリに電話をかけるが

聞こえてくるのはー

 

ーー おかけになった電話番号は

 

むなしいアナウンス

 

 

「・・・つながらない」

 

「事態は悪化の一途をたどっています。このままでは、キュリ様とは本当に破談にー」

 

 

僕の言葉を聞いて三木が剣幕をかえてきた

それが僕の不安をさらに募らせる

 

 

「ダメだ!それは!そんなことになったら、父や母はもちろんだが、おばあさまが黙ってはいないだろう・・・」

 

 

おばあさまの怒りたるや・・・

あぁぁ~

想像するだけで怖い

 

 

「三木、どうしたらいいと思う?」

 

僕は頭を抱え込みながら、三木へと伺いをたてる

 

 

「・・・ 私が思いますに・・・」

 

 

「思いますに?・・・なんだ?」

 

 

「大変、申し上げにくいのですが・・・・」

 

 

「だからなんだ?言ってみろ」

 

 

「キュリ様は、こう~・・ チャンミン様に、もう少し男らしく、ぐいぐいと・・・」

 

 

「僕が男らしくないと言うのか!?」

 

 

ジムにも行って鍛えているというのにっ?

 

 

「そういう意味ではなくっー」

 

「ではなんだっ?」

 

「男として、チャンミンさまの方からぐいぐいと・・・」

 

「ぐいぐいと?なんだ?さっきから・・ はっきり言ってみろっ」

 

「婚約者としての男女の営みをしてほしいのではないかとっ!!」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

婚約者としての男女の営み・・だとっ?

要はセックスだろう?

 

 

「そんなものをキュリが僕に求めているというのか?」

 

 

「・・・・ おそらく。」

 

 

「キュリにはセックスをする相手がいないのか?」

 

 

「・・・ それは、私には存じ上げない部分ではありますが、おそらく今はチャンミン様の婚約者として貞操をー」

 

 

「三木。おまえはバカか?」

 

 

「は?」

 

 

「キュリは社長令嬢だぞ?しかもあのスタイル!美貌!世の男どもが放っておくと思うか?」

 

 

「いえ、それはそれはおモテになっていらっしゃいますが、しかし、今はチャンミン様の婚約者としてー」

 

 

「婚約者として僕に貞操を?はんっ・・ そんなこと、あるはずがないだろう?

父も母も外に愛人がいるのはおまえとて、わかっていることだ。しかも、その愛人はひとりではなく時として複数人いることも。時を経て変わることも。この世界ではそれが当たり前なのだと幼き頃からすりこまれてきた。セックスの相手などいくらでもいる、ということだ。」

 

 

「ですが、キュリ様も果たしてそうかどうかは、この私も測りかねますがー」

 

「同じだ。キュリとて。」

 

 

彼女も、幼き頃からそうすりこまれてきているはずだ

 

だとしたら・・・

 

でも、そうか!!

 

「相性か!?キュリはそれを確認しようとしていたのか?そうだ!僕たちは子供をなさねばならない!それが僕たちが結婚する理由のひとつでもある。身体の相性を知ることは大事なことかもしれないっ!」

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

三木は納得のいかないような顔をしているが、所詮秘書にこの考えは理解できないんだろう

 

 

「そうとわかれば、三木。今度はホテルでの食事プランで予約を入れてくれ。もちろん、当日の宿泊予約も忘れずに。キュリにはー・・・ ゆっくりできるように来るように約束をとりつけてくれ。」

 

 

「・・・・ わかりました。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませ~。・・・なんだ、壮士か。」

 

 

「おい、慎吾。なんだ、とはなんだ?客に向かってその口の利き方は」

 

 

「ん?お客さん、どこに?」

 

 

「・・・・ いつものやつ。ロックで」

 

 

行きつけの飲み屋の店主の慎吾は学生の頃からの親友

いや、悪友か?

 

 

「大丈夫?飲んじゃって・・。御曹司のお守はもう終わったの?」

 

 

「あぁ。さっき解放されたとこ。」

 

 

はぁ~、疲れた

飲まずにいられるか、てーの

 

 

俺はネクタイをゆるめると、目の前に出されたグラスのお酒をグイッと飲んだ

 

 

「まったく・・。まさか壮士が秘書なんて仕事に就くなんてね~。い・が・い♪」

 

 

そういうと慎吾は、勝手に持ってきたグラスに俺のボトルの酒を注いで乾杯してきた

 

いや、もう飲んでるけど

 

 

「言うな。後悔してるところなんだから」

 

「可愛がってくれたじいさんの遺言なんだろう?」

 

「・・・・・・・・・・」

 

 

両親を早くに交通事故で亡くした俺にとって、じいさんは育ての親のようなもんだった

 

そんなじいさんの遺言を、きかないわけにはいかねーだろうが

 

 

「なぁ壮士、面白いこと、聞かせてやろうか?」

 

 

「面白いこと?なんだ?」

 

 

俺が聞き返すと、慎吾はカウンターから身を乗り出し

もったいつけたようにニヤリと笑うと

口を開いた

 

 

「お前の御曹司、今夜この店、来たんだぜ?」