いつもより10分遅く出勤した私は、ビルの1階でエレベーターが止まっているのを発見

 

ホールで待っていた人たちがエレベーターの中へと入っていくのが見えたからだ

 

ラッキー!ついてるっ

 

私は駆けだすと、エレベーターの中の人に聞こえるように叫んだ

 

「待って、待って!乗りますっ!!」

 

 

 

その開いた扉の真正面に立つと

中にいた人たちの視線を感じた

 

すると、私の足は、一歩も動けずそこに、立ちすくんでしまったのだ

 

なぜなら・・・・

その中の、ひと際目立つ人物と目が合ったから

 

 

「・・・ 乗らないんですか?」

 

一番手前にいる人から言われると

私は、失礼します、と小声でつぶやき

下を向いたまま乗り込むと、扉の方へと向きをかえ

誰かさんには背を向ける

 

うそうそうそでしょ

なんでいるの?

こんな時間に

 

隣には秘書の三木さんの姿もあった

 

今まで、あんなに会うことなんてなかったのに

 

いや、これは会ったとは言わないか

あぁぁぁぁ

神様、どうか気づいていませんように

 

昨夜はデートだったから(最後になっちゃったけど)

メイクも髪も服装もバッチリ決めてたし

今日の地味目のスーツに身を包んだ私とは別人・・

ってまでもいかないだろうけど

それでもこんな凡人、気づくはずないよね?

 

 

 

「おはようございます、チャンミン専務」

 

「おはよう」

 

「チャンミン専務っ!おはようございますっ!」

 

「おはよう」

 

 

エレベーターの後ろの方で、ミン専務への挨拶合戦が繰り広げられている

 

はぁ~・・

昨日までの私なら、ラッキーとばかりに参戦していたかもしれない

でも今日は無理っ!!

 

遅れそうでなければ、ひとつあとのエレベーターにしたかった

 

今は、自分が降りる階までの時間がひたすら長く感じる

早く早く!

ミン専務は最上階まで行かれるはずだから

私は自分の階で速攻降りれば、顔を合わせることもない

 

 

チン!

という音がして、私が降りる階でエレベーターが止まった

 

扉が開くまでの時間すらもどかしい

 

早く早くっ

 

 

スッと開いた扉から

いつになく早く飛び降りると

 

 

駆けだした

 

 

 

少し離れたところで、止まって、大きく深呼吸をして振り向くと

 

 

エレベーターは既に上へと移動してしまったようで

ホールに人影などなかった

 

 

「・・・ 私ばっかり意識して。バカみたい」

 

 

そうよね

気づくわけがないよね

 

目が合ったっていうのも

本当は私の気のせいで

 

あれよ、あれ

 

ライブに行って、推しメンと目が合った、って騒いでるのと同じ

 

向こうは気づいてなんかいないのよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「三木。」

 

 

「はい」

 

 

「・・・・・ 社員名簿、見れるか?」

 

 

「全社員分でしょうか?」

 

 

「いや、うちの・・このビルの5階に入っている部署に所属している者だけで」

 

 

「・・・・・はい?」

 

 

「すぐに用意してくれ」

 

 

「はい」

 

 

 

社員名簿・・?

まさか・・・

昨夜、慎吾が言っていたことは本当だったのか?

 

 

 

ーー チャンミン様がこの店に?

 

『そう、俺もびっくりしたんだけど・・・もっと驚いたのは、一緒に飲んでた女の子、御曹司がいる会社で働いてるんだ、って・・・御曹司が帰ったあとで教えてくれた。名刺、もらわなくても知ってるんですよ、さっきの人、自分の会社のお偉いさんだから、って。』

 

 

あの店の方向から現れたな、とは思っていたが・・・

まさか間違えて入ったのが、慎吾の店だったとは・・・

 

しかも、女の子と飲んでいた、だなんてありえないと思った

 

あぁ~

こんなことなら、話の内容も聞いておけばよかった

絶対違うと思って取り合わなかった・・・

 

 

後悔先に立たず

 

 

しかし・・・

慎吾の言っていたことが本当だとすれば

相手の女は、チャンミン様のことを知っていたのか

 

ならば、今後近づいてくるだろうな

面倒なことにならなければいいが・・・・

 

社員名簿を取り寄せろ、と言って来たということは

さっき・・・

エレベーターに乗っていた者の中にいたということか?

それをチャンミン様が気づいて・・・

 

なるほど、その女は5階で降りたんだな?

 

これは・・・・

チャンミン様よりも先に見つけ出し、手を打たないと

 

今は他の女よりもキュリ様とどうにかなってもらわないと困る大事な時だと言うのに

 

「そうだ、名前・・・!」

 

 

俺は、携帯を取り出すと、慎吾に電話をかけた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女だ・・・!!

 

 

エレベーターに乗ろうと最後に駆け込んできた女性

 

間違いない

確かに目が合った

 

彼女も気づいたはずだ

 

なんてことだ

まさか、うちの社員だったなんて・・・

 

でも、だとすると

僕の顔を知らなかったのか?

 

昨夜は酔っていて気づかなかった・・?

 

もし、僕だとわかっていたんだとしたら

彼女は、今まで近づいてきた他の女たちとは違うということか?

 

だってそうだろう?

昨夜の彼女は

僕に色目なんて、まぁ~~ったく使っていなかった

それどころか

酔っぱらって・・・

ある意味、醜態をさらした、と言ってもいいくらいだ

 

とにかくよかった

 

僕は彼女にまた会いたいと思っていたんだ

 

 

 

え?

 

また会いたい?

 

なぜ・・?

 

 

 

そうだ!

だって昨日の話の続きをー

 

 

教えてくれと頼んだ

 

そうだ

 

約束したはずだ

 

 

 

「チャンミン様、こちらが、先ほどおっしゃった名簿になりますが」

 

 

 

さすがだ、三木

仕事が早い

 

 

「ありがとう」

 

目の前に差し出されたタブレットの中の名簿を

クリックしながらめくっていく

 

名前・・・

彼女の名前は何と言った・・?

 

 

まぁいい

 

名前はわからなくても写真がある

 

どれだ?

どんな顔だった?

 

 

 

 

「10時にはA商事の専務と会わなければなりませんので、そろそろお出かけにならないと・・」

 

 

「わかっている、三木。」

 

 

すぐだ

 

きっとすぐ、わかるはず・・・

 

 

いま、何人みた?

 

あとどれくらい・・・

 

 

 

「・・・これが、全員か?」

 

「はい、うちのビル5階に入っている部署の所属社員名簿、全員分になりますが?」

 

「・・・・・・・・」

 

 

 

どういうことだ?

 

なぜ・・・

わからない?

 

 

僕はもう一度最初から見始めた

 

 

「専務、もう、出掛けないとー」

 

「わかっている!あと少しだけ・・」

 

 

どれだ?

どこにいる?

 

 

まさかあいつー

 

 

 

・・・・・ 整形したのか?