「わかってる!もっとすごいもの、作れないのか?って言うんでしょ」
「いーじゃん、カレー好きだよ?何なら、明日も食べれるから助かるくらい」
カウンター越しに肘をついてそう笑う翔琉に
ほんとにぃ~?
という疑いの目を向ける私
「最近、レトルトでしか食べてなかったから、手作りカレー、嬉しい」
「あ、私、お肉はチキン派なんだけど、大丈夫だった?」
「大丈夫、大丈夫」
「・・・・・・・」
ほんとにぃ~?
またもや疑いの目を向けてしまう
だって、翔琉、めちゃくちゃ適当に答えてるようにしか見えなくて
「野菜とかレンチンして、時短にはなってるから」
「うん、すげー手際いいから ちょっと感動してる」
「(ボッ)そ、そんな褒めたってご馳走作れないからね
」
やだな
何だか照れるじゃないの
たかがカレーごときでそんな言われると
「じゅうぶんご馳走だって。カレー好き、って言ったろ?」
「ね、お皿とか、適当に使っていい?」
だから、返事に困るよ
照れ隠しに食器のこと聞いてみる
「あ、オレ、出す出す」
翔琉が回り込んで来た
途端に狭くなるキッチンスペース
「おー、いい感じじゃーん」
出されたお皿にカレーを盛ると
後ろから翔琉の声がした
ち、近いっ/////
「ちょっ、邪魔!」
「・・・・・ 邪魔って・・・」
あ、言い過ぎた
でもなんか引けない
「はい、これ、持っていって!テーブルの上に」
盛ったお皿を翔琉に渡す
続いてもうひとつ、カレーをお皿に盛ると、カウンターの上に載せる
ほぉ~い、って軽く返事をしながら
カウンターの向こうへ回った翔琉がそのお皿も一緒に運んで行った
なんかさ・・・
男の人の家で料理を作るってこと自体
いつぶり?
って思い起こせないくらい久しぶりで
やってみると意外と照れることが判明
友達なのにね
ふたり、テーブルを挟んで向かい合って座る
いただきま~す、と両手を合わせてカレーをひとくち
「んまいっ!なにこれ・・ 隠し味とかあんの?」
「いや、別に・・。普通だけど?大袈裟だよ、翔琉は」
とか言いつつ、やっぱり作ったものを美味しいって言って食べてもらえるのって
正直嬉しい
作り甲斐があるってものよ
「カレーなんて 誰が作ってもそんな失敗なんてしないものだもの」
「少なくとも、俺には作れない」
「え?カレーだよ?作ったことあるでしょ、小学校の頃の調理実習とか、キャンプとか!」
「あんなん、分担だろ?作ったうちにならねーよ。野菜洗うとか簡単なことしかしてない」
「・・・そうか、そういうやついたよね、確かに」
「まぁ、作ろうと思えば作れるんじゃないか?とは思ってるけどな」
「ほほ~う、じゃあ今度作ったら食べさせてよ」
「は?いやいや、作らないから」
「今作れるって言ったじゃない」
「作れるってのと作るってのは違うだろ」
「食べてみたーい、翔琉の作ったカレー!」
「・・・・ 毒見でもする感覚か?」
「だぁから~、カレーなんて失敗しないんだってば!」
「やぁだよ、オレ、料理は無理!もういいだろ?あ!そういえば・・・」
「なに?」
スプーンを頬張ったまま、翔琉が顔をあげた
「今日のお昼、誰とランチしたの?なんか、おまえが告られてたとか?話してるやつがいて・・・」
「あ・・・・」
そうだった、そうだった!
思い出した!
っていうか、何で忘れてたのっ!?私っ
「そうなのよ!今日宮下君が来てね、ランチしたんだけど、そのとき、実は高校の頃、私のこと好きだった、って言ってくれてね?私っ、宮下君とっ、高校のとき、両想いだったのよ!!」
「・・・・・・・・・・」
「それ聞いた途端、私ね?一瞬、この間、翔琉と話してたことが過ったわよ、ほら、パラレルワールドだっけ?あの、昔に戻れたら、って話してたやつ!高校時代に戻って、両想いよ、って教えてあげたいっていうか、あ、戻るってことは私なのか!じゃあそうだ!今度は手紙じゃなくてメールにしようかな?メールはもし誤送信したら困るって思って手紙にしたんだけど・・・っていうか、あの手紙、宮下君、読んでくれなかったってことなのかな?私、ちゃんと宮下君のスポーツバッグに入れたつもりだったんだけど、もしかして間違えた?でもね?考えたくないけど、他の人が見たら絶対からかわれてたよね?別の意味で終わってたわ、私。あのときそんな騒ぎが起こらなかったっていうことは・・・、ってごめん、翔琉。私ったらー」
あれ?
翔琉?
かたまってる?
っていうか、翔琉は突然、スプーンを皿の上におくと
両手をテーブルの下へともっていき
「悪い、香子。それ・・ 俺のせいだ。・・・ ごめん」
そう言って頭を下げた
「え?・・・ 翔琉のせいって・・?どういうこと?」
なんでなんで?
私の頭の中では大きなクエスチョンマークがぐるぐる回ってる
「香子が宮下に書いた手紙・・・ おまえ、間違えて俺のスポーツバッグに入れてたんだよ」
「え?」
私が宮下君に書いた手紙・・・
翔琉のスポーツバッグに・・・????
「えええええええーーーーーーっ」
「・・・ ごめん」
「いやいやいや、ごめん、って・・ ちょっと待ってよ。宮下君に書いた手紙って・・それ、もしかして・・」
「・・・ 読んだ。・・・ごめん」
「・・・・・・・・」
ひぃーーーーーっ
えええええええ
私が宮下君に書いた手紙を
読んだ?読んだって・・・
「いやいやいや、読んだってそんな・・ ごめん、って言われても・・ っていうかなんでそのとき、返してくれるとか宮下君に渡してくれるとか、してくれなかったわけ?そしたら私っー」
両想いだったのに・・・!!
って言葉を飲み込んで怒りが込み上げてきた
「悪い・・ 実は、入ってたことに気づいたのもだいぶん後なんだ。当時俺のスポーツバッグの中はぐちゃぐちゃで・・入れっぱなもんとか、すごくあったし・・・封筒に宛名がなかったから、読んでみたら・・・ 書いてあった日付が一ヶ月以上前のもので・・・ もう言い出せなかった。・・・ ほんっとごめん!」
「・・・・・・・」
何だか茫然自失
私の手紙・・・
宮下くんに渡ってなかったんだ・・・・
「ほんっとごめん!言い出せなくって・・・・」
両手を合わせて必死で謝る翔琉
「ずっと後悔してた・・・」
え?ずっと後悔してた、って・・・
「もしかして翔琉・・ この間言ってた、ずっと後悔してたって・・まさか、これ?・・なわけないか」
「そのまさかだって!」
「えええええーーーーーっ!! バッカじゃないのっ!?ずっと後悔してた、ってそんな昔のこと・・・。そんなのもう時効でしょっ!っていうか、普通忘れちゃってるもんでしょう!!」
「オレだって忘れてたけどっ!!・・・ 転職してお前に再会したもんだから・・・」
「・・・ 思い出しちゃった・・ってわけ?」
「・・ん」
「ちょぉーーーっともうっ!!なにそれっ?じゃあ私に再会してから、ずっとあんな、辛そうな顔させるような想い、抱えてたってわけ?」
「・・・・・」
「うそでしょぉーーー!!」
もう、呆れる・・・
だってあのとき・・・
翔琉がこんな辛そうな顔するなんて、どんなことなんだろう?
って・・
何を悩んでるんだろう?って思ってたのに・・・
「翔琉、それっ、律義すぎるから!!だって、そもそも?私が間違えて翔琉のバッグに入れちゃってたわけでしょう?悪いのは私!!むしろ、読んだ翔琉がからかってこなかったことに感謝すら覚えるわよ!!」
「・・・・・ そう言ってもらえると何か救われるわ」
「いやいや、救われるどころじゃないんだってば!あー、確かに今更!ほんっと今更じゃんね?」
「さっき昔に戻って、って言ってただろーが」
「あ・・・・・」
言いました、確かに言いました
昔に戻って告白しなおしたい!って・・・
「けどそれはみんな、後の祭り。もし、もし、もーーし、戻れてやり直せたとしても?翔琉が言ってたみたいに、今の私には何の影響もないわけでしょう?宮下君と両想いになった私の未来がまた別にあるわけで・・。あれ?それ、ちょっと見てみたいかも・・・」
「・・・・wwwwwww」
「ちょっとそんな肩、落とさないでよ!とにかく!!翔琉の誠意は伝わったから!!ありがとう!ずっと悩んでてくれて!はいっ、おしまいっ!!もう、これで何の後悔もなく過ごしていってください!!ねっ?」
「・・・ さんきゅ。」
「信じらんないよー、翔琉ってば・・・ そんなことずっと後悔してたなんて・・」
「・・・・そんなことじゃない」
「え?」
「そんなことじゃー」
ピコンッ!
ピコンッ、ピコンッ・・・・
スマホが連続して鳴った
チラッと視線を流してハッとする
サトミから・・!!!
ーー 翔琉とアポとれた?
ーー 私はいつでもいいから
ーー なんなら明日でもいいくらい
ーー とにかくよろしく
「・・・・ そうだった」
「??? どうかしたのか?」
スマホを見て愕然としている私に、翔琉が覗き込んで来た
「うわっ!!びっくりするでしょーーーー」
「誰?」
ピコンピコン、まだ鳴ってる
「サトミ・・・」
「神田?」
翔琉と会わせないといけないんだった
こんなにしつこく催促してくるなんて
よほどだ
サトミってば・・・
「飲みにでも行きたいって・・」
「ふぅ~ん、相変わらず仲いいんだな?この間、家に来るって言ってなかったか?」
「・・・・ 翔琉も一緒に」
「は?オレもっ?」
「うん。・・・・ どうかな?」
「えー・・ めんどくさいけど・・・」
めんどくさい?
断るってこと?
一緒に飲みには行けないってー
「だよね、」
「まぁいいよ。」
「え?」
めんどくさいって言わなかった?
「いいの・・?」
「ん。いつ?」
翔琉はもう、何事もなかったかのように
残りのカレーを綺麗に平らげに入った
カッカッ、とスプーンがお皿に当たる音が早くなっていく
「例えば、明日、でも?いい?」
急じゃない?
言葉を切って、翔琉に聞いてみる
「んー、いいよ。」
「いいのっ!?」
反射的に聞き返してしまった
翔琉、女子社員からのお誘い、秒で断ってるよね?
なのに・・・・
ごちそうさま、と手を合わせると
「うまかった。時間とか店とか合わせるよ。決まったら教えて?」
そう言って、空いた食器を持って席を立った
「あ、食べたら送ってく。漫画、用意してくるわ。」
首だけ振り返り、翔琉が言う
若干、仰け反り気味なのがまた、無駄にかっこいい
「あ、うん!ありがとっ!!」
翔琉の背中に叫んだ私は
残りのカレーを口に運んだ
カッカッとスプーン音をさせながら・・・