笹本から送ってもらった店は、居酒屋だけどご飯もののメニューも充実していて
襖で仕切られた個室もあり、通されて驚いた
ほんと、よくこんな店、見つけるよな
オレが来ると、中里の話がもう始まっていた
何だよ、これ、オレが来なくてもよかったんじゃないか?
「・・・でさ?前に、夏川さんのハイスペックイケメン彼氏が実は松永さんじゃないか、って話が出たことあって・・あ!森島くんっ!君もあのとき、いたよねっ!?」
「えっ?あ、あぁ・・?」
突然名前を呼ばれたことよりも、その話題の中身に驚いた
夏川さんの彼氏が松永さんじゃないか?って?
・・・そう言えば、そんなこと、誰か言ってたか?
いやでも
ハイスペックイケメン彼氏は、エアーなんだし・・
「あれ、あながち、嘘じゃないかもしれないんだ!」
「えっ?」「ええっ?」「ええーーーーっ?」
他のふたりよりさきに声が出てた
・・と思う
「夏川さん、昔、松永さんに告ったけどフラれたって過去があるらしくて・・」
「は?何それ?あったとしても、昔の話だろ?」
「ええっ?振ったの?松永さん。もったいなぁーーい」
「だよな?でも実はその後、松永さんが思い直して、付き合ってるって話。だってさ、松永さん、あんなにモテるのに彼女いないっておかしくないか?実は今では夏川さんとつきあっていて、夏川さんはまるで社外に彼氏がいるかのようにふるまっている。カモフラージュとして!」
「だから、社内ではそんなふうに見えないってこと?」
「ふたりとも、仕事できるから、公私混同しないよう、気をつけている、って話」
「社内でイチャイチャされたら、まわりに示しがつかないってことか?」
「ああーーー、夏川さぁーーん、やめてくれぇーーー。・・って僕も聞いたとき、あまりにショックで」
「それってさ、確証あんの?」
オレは中里を睨みつけた
「えっ?・・・いや、確証っていうか・・先輩たちが言ってるのを聞いた、って人から・・」
「つまり、単なる噂話ってことだよな?はぁ~・・ おまえら、社会人にもなって、よくそんな噂話で盛り上がれるな?しかも、お世話になってる先輩たちの。失礼だろ」
「森島・・・」
「言われる人の身にもなってみろよ、あることないこと・・ 中里、お前、自分の憧れてる人の話、本人から聞かないで信じられるのか?失礼じゃないか?その人にも。自分の気持ちにも。」
「憧れている人に失礼・・・ 僕の気持ちにも・・・。森島くんっ!!!ごめんっ、ごめんよっっ!僕がっ・・ 夏川さんの話を聞いて・・ショックでひとりで受け止められなくて・・・。でも、そうだよね、森島くんの言うとおりだ。夏川さんのことを好きだからこそっ!こんな、確証もない話、信じるべきじゃなかったんだ!そうだ!」
「でもさ・・ 火のない所に煙は立たぬって言うじゃない?案外、本当かもー」
「鈴村!オレがそういう人のうわさ話、嫌いだっての、前にも言わなかったっけ?」
全く、女はこれだから・・
「これ以上続けるって言うんだったら、オレ、帰るから」
そう言って立ち上がりかけた俺を
隣で笹本が引き留めた
「まぁ待てよ。俺らも悪気があったわけじゃないし。中里はショックで受け止められなかっただけだ、って言ってるじゃないか。なぁ?中里、もう安心したんだよな?森島のおかげで」
「あぁ。でも・・」
「まだ何か?」
「森島くん、夏川さんのチームに応援に行けて、羨ましいなぁ~。」
「は?いきなりそう来る?」
「だってさ、システム開発部からひとり、ってどうして森島くんじゃなく僕に声がかからなかったんだぁーーー!!ってショックでショックで」
「そんなこと言ったら中里、俺なんか、ずっと一緒なんだぜ?夏川さんと」
「笹本くんのことはもう、羨ましすぎて何も言えないよ。通り越した」
こいつ・・・
めちゃくちゃ夏川さんのこと好きだな・・?
「あーでも僕、緊張しすぎて半径1メートル以内には入れないと思う」
「なんだよそれ、じゃあ無理じゃん。ハハハハ」
「え?やっぱ、それくらい近くで話せることとかあるの?」
ドキッ
半径1メートル以内って・・・ どれくらいだ?
「そりゃああるさ、なぁ?森島?」
「あ?あぁ、」
「うううううーー、やばい、羨ましい。」
「ねぇ、そろそろ、私の話も聞いてくれない?」
「鈴村?」
「あ、そう言えば何か話ある、って言ってたよな?」
「そうなのか?」
まともな話なんだろうなぁ~?
「私さ、元カレと別れてからも友達みたいに会ってるんだけど」
「あ~、そういや、去年別れたって言ってたよな?」
「え?別れてからも友達みたいに会ってるの?」
「そうなの。結構、会ってるのよ」
恋バナかよ
なんでそんなの、こんな男3人に?
「そういう話ってさ、女同士でするもんじゃねーの?」
「いーから、森島!とにかく聞いて!」
「・・・・・・」
鈴村ってこんなキャラだっけ?
「だから私、彼のこと、やっぱ諦められなくて・・・ この前、彼氏が出来たの、って嘘ついちゃったの」
「・・・は?」
「なんでそんなウソなんか?」
「それでやきもち妬いてくれないかなぁ~って思って・・ 私のこと、やっぱ好きだ、って気づいて他の奴には渡したくない、俺とやり直そう!って言ってくれるんじゃないか、って思って・・」
「うわ~、鈴村、元カレのこと、試したんだ?」
「そりゃあ、試すようなことしたのは悪かったけど・・・ これで妬いてくれなかったら諦めよう、とも思ってたのよ」
「なるほど?それで?元カレ、何て言ったんだ?」
「マジ?おめでとぉーー、よかったなぁ~~!って・・ すっごい笑顔で喜んでくれたの」
「へぇ~ 残念!」
「でもその笑顔見てたら私、やっぱり彼のこと、好きぃーー!ってなっちゃって」
「なんだよ、それ」
「諦めるんじゃなかったの?」
「ダメだったぁ~・・。近いうち、別れたって言うつもり。ねぇ、男目線から見て、これってどうかな?私ってもう絶対無理かなぁ~?」
「・・・・・・・・」
「そもそも、なんで別れたの?それ、僕たち、聞いてないよね?」
「新しい女だろ?どうせ」
「えー、違うでしょ。新しい彼女いたら、鈴村と会ったりしないでしょ」
「どっちも正解。彼女じゃないけど、好きな人が出来たから、その子のこと、めーーーっちゃ好きだから、私とは付き合えないって」
「何それ・・ その彼、すっごいかっこいい!」
「おぅ・・ いい男じゃん?オレだったらつき合えるまで、鈴村のことキープしちゃうかも」
「笹本くん、キミ、最低だな」
「冗談だって!」
「でもさ、それなら、彼がその子にフラれたら、案外可能性あるんじゃないの?」
「やっぱり?じゃあ、このまま諦めなくてもいいかな?ね、森島はどう思う?」
「そういうの、って、結構言うもんなん?」
「・・・・ そういうの、って?」
「他の男とつき合ってるって嘘ついて気ぃ引くやつ」
「え?・・あ~、どうかな?・・ごめん、森島、私は気ぃ引くっていうか、だめだったら諦めるつもりで・・・。っていうか、今もうその話はいいでしょ?私が聞いてるのは、彼のことまだ好きでいてもいいかな?って」
「無理でしょ。とっとと諦めて次行けば?」
「え・・・」
「ってか、そいつのことはそいつにしかわかんねーんだから、こんな話したって時間の無駄だろ。」
「ひどっ・・ 森島って・・ 正論吐いてるのかもしれないけど・・ 冷たいよね」
「そうだよ、俺は冷たいよ。知らなかった?」
「おい、森島!そこまで言うことないんじゃー」
「しんっじらんないっ!華もこんな奴のどこがいいんだかっー」
「おいっ!」「鈴村っ!」「あっー」
「あの・・ ごめんっ、森島っ、今のはー」
「オレ、帰るわ。もう食べ終わったし。」
今度は立ち上がっても、笹本も誰も止めなかった
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ーー 華、ほんっとごめん・・ 私、あんなこと言うつもりじゃなくって・・
「うん、わかってるよ、美緒。それにいいの、どうせもう、森島に私の気持ち、バレてたから」
ーー え?そうなの?
「うん、しばらく話しかけるな、って言われちゃった」
ーー ええーーっ、何それっ、やっぱ森島、サイテー!冷たすぎるっ!ねぇ華、悪いこと言わないから、もう森島なんかやめて、次、行くべきだよ。あんな冷たい奴ー
「森島は冷たくなんかないよ。ちょっと不器用だけど、ほんとは優しいんだよ」
ーー え~もうっ、華、騙されてない?あんな冷たい奴のどこが優しいっての?
「もったいないから教えなーーい」
聞いたら美緒も、森島くんのこと好きになっちゃうよ?
私だけが、知ってたらいいの
「・・ それで?他に何を話したの?」
ーー 他に? あ~、松永さんと夏川さんがつきあってるんじゃないか、って中里が言い出して、この時も森島、すっごい怒ってた
「へぇ~・・ そうなんだ?」
ーー あの時は確かに・・ 森島の言うとおりだ、って思ったけど・・
「森島の言うとおり、って?」
ーー 本人から直接聞いてもいないのに、噂話で盛り上がるな、って・・ 感じのこと言ってた
「森島、噂話、嫌いだもんね」
ーー すっごい目が怒ってた
「そっかぁ、怒ってたんだね」
ふぅ~ん・・
怒ってたんだぁ?
ーー 華?どうかした?
「ううん、教えてくれてありがとう」
ーー ううん、元はと言えば、私が森島に華のこと
「もういいから。気にしないで」
ーー うん・・ ありがと。じゃあ、寝るね?
「うん、おやすみ~」
ーー おやすみ~
プツッー