「夏川さーーん、ちょっといいです~?」
引っ越し業者さんが、荷物を社員寮の部屋へと運び終わったようで
消えていかれたなぁ、と思っていると
ふたりのうちのひとりがまた来られ、玄関の方から呼ばれた
「はーい、今、いきます」
バタバタバタ・・・
「お荷物、これで全部になりますんでー・・ 確認してもらって、よかったらこちらにサイン、いただけます?」
「はい、えーっと・・」
「ここ、画面にお願いします」
「あ、画面に・・ ハイ・・」
これ、書きにくくて苦手なのよね~
「いや~、彼氏さんがいてくださって助かりました。おかげで次のとこ、早く向かえますんで」
「え?あ~・・」
彼氏さん、じゃないんですけど
って言いそうになって
ここでそんな説明、いらないか
と曖昧に笑った
さすがに中まで
聞こえてないよね?
「なんか、以前に引っ越し屋さんでバイトしてたみたいで」
余計なことまで言ってしまう
「あ、そうなんですか?どうりで手際がよかったわけかぁ~。ありがとうございました!!」
「お世話になりました」
ふぅ~・・
玄関に残る男物のスニーカーに
チラッと視線を落とすと
私は部屋の中まで戻っていく
「うわ・・ すごい・・ 進んでるね」
リビングへと続くドアを入ってびっくり
キッチンとか、後ろの食器棚とか
色々綺麗におさめられていて
空になった段ボール箱が、転がっている
「自分で詰めたところはね。・・・ ある程度は頭に入ってる」
「感動しかありません」
「・・・ さっさと自分の名前書いてある箱、片付けていって」
「あ、うん」
そう
段ボールには、何が入っているかと
森島くんには触られたくないもの、ほら、服とか下着とか・・
そんな箱には、私の名前を書いておいたので
森島くんは、名前のない箱を次々片付けていってくれているのだ
それも森島くんの案でした
おかげですっごいスムーズに引っ越し作業が進んでます
「森島くん、ほんとにありがとう。なんてお礼を言ったらいいかー」
「はい、手が止まってる。そんなの、終わってから言って」
「そう言われると思って、ちゃんと動かしてますぅー。」
背中越しだもん
森島くん
こっち見ないで言ったの、わかってる
絶対いま、照れてるでしょ
離れてるから耳赤いの確認できないけど
「あ、ご飯っ!!今日のご飯、奢る!何が食べたいか考えて」
「だったらとりあえずもう、お腹減ってるんで、何か食べません?」
「えっ?あー」
ほんとだ
もう、1時過ぎてるっ
朝からだもんね
「ごめん、気がつかなくて・・。えと、このへんー」
「・・ 近くに手ごろな牛丼屋さんあるんで、それにする?オレ、買ってこようか?」
森島くんがそう言って、リビングのドアの方へと向かうので
慌てて追いかける
「いやいや、何を言ってるのよ、森島くんに行かせるわけにはいかないわ!私がー」
ドアに手をかけてる森島くんに
手を伸ばして制すると
なんか、手を掴んだみたいになって
「だって場所、わかるの?」
見下ろされたら
めちゃくちゃ近くて
「じゃあ一緒に行こう?私もこの辺のこと、知っておきたいしー」
心臓がドクドク言ってるの
バレないかな?
ふたりでリビングのドアをあけ
玄関へとむかっているそのとき
ガチャ
っと玄関のドアが開く音がして
「ごめーーーん、あさひ、遅くなってー!うちの方も、なかなか片付かなくってー、とりあえず、行ってこいって言われたから出てきたー」
茜っ???!!!!
私たちは、思いがけず、玄関からリビングへと続く廊下で向かい合うかたちになってしまった
「・・・・ 森島・・・くん?」
茜は当然、森島くんを見て固まってる
そうよね、驚くわよね?
「どうも」
ん?
隣で森島くん、普通に挨拶してる?
「なんで森島くんが?」
「あー・・ 流れで?」
流れで?
流れって???
今度は私が森島くんを横から見上げる
「流れ・・ あ、そっか。引っ越ししてるの、見かけちゃった?そうよね、私がちょこちょこやってるときも、森島くん、手伝ってくれたもんね、なるほど、そっかぁ~。あー、びっくりしちゃったわよ。」
茜、なんか納得してくれてる・・・
「そう言えば、森島くんにあさひが引っ越してくるからよろしくね、って言ったの私じゃーーん。あーもう、やーねー、忘れてた。」
「二階堂さん、お昼、もう食べました?」
「え?あー、うん、食べてきたけど・・」
「ですよね、じゃあ、オレ、夏川さんの牛丼、買ってくるんで、ふたりでゆっくりしててください」
「えっ?ちょっと待った!だったらちゃんと森島くんの分も買ってきてよ?私、出すからー」
私が言い終えるより早く、森島くんはドアの向こうへと消えていった
残された感じになった私と茜
「とりあえず・・・ 入る?」