とっさに1階のトイレへと逃げ込んだ

 

自分の部署のフロアのトイレでもないから

顔見知りに会う可能性も低いだろう

 

 

「ね、さっきの子、泣いてなかった?」

 

 

入れ替わりに出て行った人たちの声が聞こえた

名前を特定されていないことにホッとする

 

鏡に映った自分の顔のひどさに

幻滅し、また涙が零れた

 

「・・ 急いで直さなきゃ・・」

 

バッグからハンカチとティッシュ、そして化粧ポーチを取り出す

 

 

ジャーーーーッ

 

 

ドキッ

 

個室から水の流れる音が聞こえ

人が出てきた

 

うちの社のネームプレートを下げているから

社内の人だ

 

隣に立たれた瞬間

鏡越しにチラッと名前を盗み見る

 

・・・・ 武田?

 

どこの部署かまではわからなかった

 

どうでもいいから、早く手を洗って、消えちゃって~

 

 

「人が一番多く流す涙は、悔し涙だと私は思っています」

 

 

・・・え?

 

この人、洗っている自分の手を見ながら

突然しゃべりだした

 

・・・ 私に?

 

 

「悲しいんじゃない、悔しいから涙が出る」

 

 

・・・ 悲しいんじゃない?

 

そりゃあ、確かにさっき、悔しいって思ったけど

でも私の涙は絶対悲しくてなのに

 

 

「悔し涙を流せる人は、上昇志向のある人だと思ってます。その涙は、明日への活力になりますよ、頑張ってください。」

 

その人は、ハンカチで手を拭くと、

 

「なんて。的外れなことを言ってたらすみません。じゃ」

 

と言って、出て行った

 

ひとつに括った長い黒髪が揺れ

ふわっといい香りがした

 

え?え?

私・・・

見惚れるばかりで何も言えなかった

 

すごく嬉しかったのに

 

 

そっか

 

悔し涙が上昇志向?

じゃあ私・・・

まだ頑張りたいって思ってるってことだ?

 

うん

諦められない

もう一度 森島と、話せるようになりたい

そのためには、自分が変わるしかない

頑張るしかない

 

 

武田さん

 

 

絶対捜し出して

今度会ったら、お礼を言おう

 

 

鏡に映る自分は

 

入ってきたときとは違って

いい顔をしてるように見える

 

 

 

 

待ってろぉーーー

 

森島ぁーーー

 

諦めないからなぁーーーー

 

 

 

「・・・ 海でも行って叫びたい」