「あ、森島!遅くまでお疲れ。今、帰るとこ?」

 

「あ~。うん。」

 

「偶然!私もなんだ。寮まででしょ?一緒に帰ろ」

 

 

偶然なんて、本当は嘘

ずっと待ってた

森島快くん

新入社員のオリエンテーションで同じ班になって

すぐ好きになった

 

今まで出会ったこともないレベルのかっこよさだったから

てっきり彼女がいるのかと思ったら

いないって聞いて

もう、なんてラッキーなんだろうって

好きになるしかないよねっ?

 

でも、彼のことを好きになる子は

当然、私の他にもたくさんいて

研修中から始まり、今に至るまで

彼に告っては皆、振られていくのを見てきた

 

誰かが彼に告ったと聞いて

焦る気持ちもあったけど

よくよく観察していると

 

彼はどうやら、告られることが嫌いみたいで

容赦なく振ったあとは、決まってうんざりした顔で大きく溜息をついていた

 

そこで私は、彼に好き好きオーラなど一切ださずに

ほどよい距離感を保つ、同期の女子では一番、気の置けない間柄

という存在になることを目指した

 

そうやって、彼の信頼をゲットしてから

頃合いを見計らって告白!というシナリオだ

運よく、入社時に会社の社員寮の抽選にもふたり一緒に当たり

こうして、彼の退社時刻を狙えば、一緒に帰ることもできる

 

今の私は、間違いなく彼の一番近くにいる女

 

 

「もしかして、今抱えてるプロジェクト、大変なの?こんな時間まで残業なんてー」

 

「沢井もだろ。・・・ 今、忙しい時期なの?」

 

「え?あー、うん。私は昼間、ちょっとミスっちゃって、その修正に手間取ってた。森島みたいに優秀じゃないしね」

 

「・・・ そんな卑下することないだろ。ちゃんと自分で修正するなんて、えらいじゃん」

 

「偉くないよ、自分のミスだもん。当たり前でしょう」

 

「・・・ 確かに。」

 

「あ、ねぇ。笹本が、今度また同期で集まろうって言ってたよ?森島の都合はどう?」

 

「・・・・・・」

 

ブーブーブー・・・

 

せっかくいい感じで話してたのに・・・

携帯の振動音が聞こえ、それは私のものではないことはわかってる

森島がズボンのポッケからスマホを取り出すと

電話に出た

 

「・・ なに?」

 

あ、ぶっきらぼう

仲のいい人なのかな?

電話に出るってだけでそうなんだろうな

だっていつもは、チラッと見て、またポッケに戻してるもんね

誰だろう?

まさか女・・ じゃないよね?

 

 

「は?・・・・ 今?・・・・ なんで? ・・・ちょっ、彩芽っ!」

 

 

アヤメ?

まさかの・・・ 女の名前!!?

 

電話、切られたみたいで焦ってるようだったけど

すぐにピコンッてラインの音が鳴った

 

森島がそのまま確認をしてる

 

「・・・ マック・・」(ボソッ)

 

 

え?今、マック、って言った?

 

 

「悪いな、沢井。用事が出来たんで、ここでー」

 

「えっ?用事って・・」

 

 

聞きたかったけど

森島、走って行ってしまった

 

なに?

 

用事ってなに?

 

アヤメってダレ?

 

もしかして森島・・・ 彼女、できたの?

そんなことないよね?

 

だって私、ずっと見てきたもん

 

森島に女の影なんて

全然なかった

 

でも今、アヤメって・・・

電話の声まで聞こえなかったけど

絶対、女、だ

 

うそぉーー

ダレ?

誰なの?

 

気になる

気になりすぎる

 

どうやって確かめたらいい?

 

好き好きオーラ出さずに

女の存在を確認することほど

難しいことはない

 

 

私はスマホを取り出すと

同期の笹本に電話をした

 

 

「あ、笹本?ねぇ、そろそろまた、皆で集まらない?そう、同期で」