「なにこれっ、すっごい美味しい!!!」

 

「でしょ?」

 

森島くんのお薦めで入ったお店

 

辛いのイケる?

って聞かれて、イケるって答えたら出てきた、このお店の裏メニュー

『一日の疲れはこれで吹っ飛ばせパスタ』だって

誰が命名したんだか、って笑ったら

小声でそれ、禁句、って森島くんに言われた

カウンターからマスターの視線が痛い

 

そういうこと・・ですよね

 

「めちゃくちゃ吹っ飛びました!」

 

慌てて言ってももう遅い?

でもほんと

 

それは第一声にも出てるのよ

 

 

「ここって・・・ 森島君の行きつけなの?」

 

 

店の真ん中にドーーンとグランドピアノが置かれていて

その周りにテーブル席

音楽はジャズが流れていて

照明は夕暮れ時を意識した感じで

雰囲気のあるお店

 

 

「学生の頃、ずっとバイトしてた」

 

「へぇ~・・」

 

 

森島くん目当ての女性客、多かったんだろうなぁ~

当時は・・・

 

今は、そんな偏りはなさそう

 

とにかくお店の雰囲気が優しいから

幅広い年齢層にウケそうね

 

 

「同期のみんなで来たりするの?」

 

「いえ。同期のメンバーとだと・・ 店の選択権、俺にはないし」

 

「そう・・ なんだ?」

 

 

意外・・・

年上だし、そういうの、率先してやってるのかと

 

「あ~、不器用!」

 

「は?違うって!そういうの、好きなやつがいるっていうか・・ だいたい、幹事は笹本が」

「あ、うちの!」

 

確かに笹本くん、うちの部署の飲み会でも率先して動いてくれてるわ

 

 

「ってかもう、あいつらと会ったこと、忘れてください」

 

突然、頭を下げられ

つむじが見えた

 

 

「あいつらって・・彩芽ちゃんと~・・ 隆哉くんだっけ?」

 

「・・・ 名前覚えてるし」チッ

 

「あー!今、舌打ちしたでしょ!」

 

「・・・・・・」

 

「ちょっと意外。森島くんって理系の品行方正タイプなんだと思ってた」

 

「そっちこそ、かなり意外。もっと優しいタイプかと思ってました」

 

 

ドキッ

 

ーー モットヤサシイタイプ?ッテ?

 

 

「合ってるでしょ」にこっ

 

 

「いや、間違いなくS、入ってるでしょ。」

 

 

「えす~~!?・・・ 言われたことないんだけど」

 

「今度、夏川さんファンの奴らに言っときます」

 

「え~?いないし、そんなの」

 

「いますよ、知らないんですか?」

 

 

・・・え? マジで?

 

 

「初めて聞いた・・・」

 

「やべ。オレ、怒られるやつか?これ・・・」

 

「ええーーーっ、ちょっとちょっと、もっと教えてよ~ 詳しく!!」

 

「聞いてどうするんですかっ」

 

「喜ぶ」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「うわー、なに?その、呆れた顔。ハイハイ、そういうの慣れてるイケメン森島君にはわからないわよね~」

 

「そういうの慣れてるって?」

 

「だから~・・ ファンです~、好きです~って告られまくってるんでしょう?」

 

「あぁ・・」

 

「認めた!今日も社食で話題になってたわよ。」

 

「話題に、って?」

 

 

あ・・・

しまった・・・

これ、言わなくていいやつ

 

ーー 元カノ、親友にとられて人間不信

 

「あ~・・えっと・・ 告った女の子が振られたって」

 

嘘は言ってない

それも噂になっていた

 

 

「・・・ 俺のどこが好きなんですかね」

 

 

ええーーーっ?

なに?

これ・・

いきなり人生相談?

 

森島君、酔ってる?

そういえば・・

何杯目だっけ?

 

手にしているグラスはもう中身が残り五分の一くらい

 

 

「今日、オレに告ってきた人、名前も知らなかった・・・」

 

 

今日も告られたの?

自慢?

愚痴?

これはなんなのよ

 

 

「じゃあ顔なんじゃない?好きなとこ」

 

「・・・・ 顔 ・・・・」

 

 

ぐび~っとグラスに残っていたお酒を飲み干すと

マスターにお替り、と言ってから

 

森島くんが

じーーーーっと私を見つめてきた

 

ドキッ

 

すっごい整った顔、してるなぁ

この顔で見つめられたら

私でもドキッとするわ

 

ってか、はい、目が据わってる

 

「森島くん、酔ってるでしょ、目がー」

「貴女の顔が好きです」

「え・・」

 

ドッキューーン

 

す・・・

好きって言った?

私の顔が?

 

え?

森島君、私のこと、好きだったの?

え?

あれ?

確か、誰とも付き合う気ない、って言ってなかった?

昼間の話では・・・・

 

 

「・・って言われて、嬉しいです?」

 

「・・・・・・・・・・・・・」

 

 

心臓が止まるかと思いました

 

ってくらい、ちょっと浮かれました

いや、ちょっとじゃなくて、浮かれました

喜びました

少し・・

いや、だいぶ

 

 

「嬉しくないでしょ?顔なんか、付き合う理由にならねーっつぅの!!」

 

 

荒れてる・・・

荒んでる・・・

森島君が・・・

 

 

「ほい、水。」

 

ぬっと手が伸びてきて

テーブルの上に置かれたグラス

氷入りのそれに注がれているのはお水なんだ?

 

確かさっき、マスターに向かってお替り、って言ってたよね?

 

でもよかった

さすがマスター

ナイスタイミングでお水がきた!

 

森島君、ごくごくお水を飲みこんでる

 

 

 

「・・・・ありがとうございます」

 

思わずマスターに向かってお礼の言葉が漏れちゃった

 

「あんた、こいつ、連れて帰れそう?」

 

「え?」

 

 

ダンッーー

 

音がして、森島君がテーブルに突っ伏した

 

 

うそでしょ?

まさか・・・

 

 

「も、森島くんっ?」

 

 

手を伸ばして、森島君の方を揺すってみる

 

 

 

「タクシー、呼ぼうか?」

 

 

え?そんな、

タクシーって・・

 

「待ってください、マスター!タクシー呼ばれても私、森島くんの家とか知らないんですけどっ」

 

 

連れて帰れる?って言われても困る!

 

 

「え?つき合ってんじゃないの?」

 

「はい~?」

 

 

私は大きく何度も首を横に振った