仕事帰りに取引先の人とちょっとした打ち上げを飲み屋でして
いつもより遅い帰路についた
自分の暮らすアパートの近くまで来て
1台の車が停まっているのが見えた
と思ったら
運転席のドアがあいて
誰かが降りてくる
近づいてくるその人影が
私の知る人物だと認識できる距離まで来ると
驚きで心臓が脈打ちだした
「・・・ ど・・して?」
「あの男は?もう大丈夫なのか?」
「あ、うん。ちゃんと電話で話をした。あんまりしつこいと奥さんに言うわよ、って言ったら引っ込んだわ」
「そっか」
ほんとはもっと揉めたんだけどね
でも逃げていたって何も解決しないし
私がきちんと向き合わなきゃ、って思ったから
今までだって、人のモノに手を出してるんだから
なんのリスクもなく別れられたわけじゃないし
慣れてるのよ
誰かに守ってもらわなくてもね
あのままコタローの部屋になんかいたら
私が私でなくなるっていうか
弱くなっちゃう気がして・・・
居心地よすぎて勘違いしないうちにね
自分の気持ちに・・・
私がずっと
誰を欲しがっていたのか
どうして人のものを好きになっちゃうようになったのか
それは全部
『楓ちゃんのコタロー』
あんたへの初恋から始まったのよって
思い知らされていくのが怖くて
出て行ったのよ
なのにどうして?
それを聞きに?
わざわざ?
こんな私なんかのこと
心配・・ してくれてたの?
「ええ。だからもう大丈夫」
「なんで帰ってこねーの?」
「え?」
「楓以外の女とつきあえって・・・ おまえがつきあってくれるって言わなかったか?」
「ど、どうしたの?いきなり・・・ そりゃあ言ったけどー」
だって虎太郎、楓ちゃんラブだから
そんなこと言ったって
私のモノになるわけないって思ってたから
「鍵、返してもらってねーけど」
「あ、ごめん・・ あれはそのうち返しにいこうかと思ってた・・ ほんとよ?」
うそ
ほんとは、このまま記念に、なんて思ってた
ごめんなさい
「なぁに?あ~、もしかしてコタロー、私とのエッチ、忘れられないんだ?」
なんてね
まだ人の往来がある時間だって言うのに
外で何を言い出してるんだか
私ったらー
「・・・ そうだよ」
・・・え?
「忘れらんねーよ!!あんなのっ!!忘れられるわけねーだろっ!あんなっー」
「ちょーーっ、ちょっと待った!!コタロー、いきなり大声で何を言い出す気?ここ、外だけど」
まぁ、言い出したのは私だけど
それにしてもどういうこと?
どうしたの?
何言ってんの?
「だったらお前の部屋、あげてくれる?」
え?部屋にって・・・
「んなわけないか。だってお前、今までつきあった男部屋にあげたことないって言ってたもんな」
覚えてるんだ・・?
そんな・・
私が言ったこと
そういうとこだよ
コタロー
「・・・ いいわよ。」
「・・・・・」
「何きょとんとした顔してんのよ、いいわよ、どうぞ。ついてきてー」
そう言って背中を向けると
背後に続く足音
ちょっと待って
あげてどうすんの?
さっきの会話の流れからして
コイツを部屋にあげるっていうことは
必然的にそうなるってことじゃない?
そりゃ・・・
ーー 女友達と書いてセフレと読む
なんて言ったのは確かに私だけど
でも・・・
コタローとは・・
部屋の前にやってきて
鍵を開ける
ガチャリ
だめだ
来てくれて、嬉しすぎて
このまま部屋にあげたら私もー
「・・・ 楓ちゃんと仲直りしたんじゃないの?」
ドアを背に振り返り
コタローと向き合う
「・・・ してたら来ると思うか?」
あー
だから?
楓ちゃんとケンカして?
それで私に慰めて欲しい、と
身体が疼いたってわけ?
どうする?
ここで身体だけでももう一度、って思う?
それとも
そんな不毛なことやめようって突き放す?
身体で繋がればコイツが手に入る?
違うでしょ
コイツはー
私ばっかり欲しくなっておしまいじゃないっー
「コタロー、やっばりー」
「いーから早く入れてくれよ、中で話すんだろ?」
私が制するのをすり抜け
コタローがドアを開けると
私の手をとり、一緒に中へと引き寄せる
ドアが閉まると
私たちは貪るように口づけを交わした
あぁ・・
これ・・
ダメなやつだ・・
お互いの漏れる吐息に
交じり
「・・・ 千尋・・・」
私の名を呼ぶ彼の声
もう・・
やだ・・・
なんでそんな声で私の名前を呼んでくれるの・・
こんなのっ・・
愛しくなっちゃうでしょう?
彼の背中に回した腕に
力を込めて抱き締める
もう一度
絡まるキスを深くして
離れた唇から
コタローが漏らした言葉は
「・・・ お前に会いたくて気が狂いそうだった・・」
私の胸を一気に苦しくしていく
「・・・ よっぽど、私の身体がヨかったのね?」
とでも言わないと
コタローの熱い目に
勘違いしてしまいそうになる
「・・・・・・・」
図星?
そうなんでしょ
だから何も言えないのね?
いいよいいよ
しょうがないよね
仕掛けたのは私なんだもん
だけどもう
最後だよ?
終わったら冷たく
追い出すからね?