・・・・ 虎太郎?
ドアを開けると
そこには虎太郎が立っていた
それはもちろん、インターホンのモニターで確認済みなんだけど
「電話・・・ したけどお前、出なかったから」
「え?電話?」
あー、部屋においたままだ
全然見てなかった・・・
「おじさんとおばさんは?」
「おばあちゃんのとこ行ってる」
「そっか、じゃあ・・ 上がってくわ」
「あっ、コタロー・・」
ずいっとコタローは私の横をすり抜けるようにして
玄関の中へー
「・・・ 誰か来てんの?」
男物のサンダルがあるのを見て
コタローが聞いてきた
「あ、うん・・」
「ダレ?俺の知ってる人?」
聞きながら、コタローは勝手知ったる、で、スリッパを出すと
ずかずかと上がっていく
そして・・
「・・・・ あんた、ダレ?」
当然のごとく、キッチンの食卓に座る拓海くんと遭遇
あーもう
うそでしょ
なんでこんなときにー
「どうも。おたくが、コタローさん?」
え?
拓海くん、すっくと立ちあがってコタローに頭を下げつつも
目が笑ってない
「・・・ 明海の弟で、拓海くん」
私はそんな拓海くんをコタローに紹介した
「あ~ 明海ちゃんの。そう。・・・で?明海ちゃんは?いないの?」
「彼女がいるのに他の女を部屋に泊めたんだって?」
ギョッ!!
え?ちょ、ちょっとー
「拓海くんっ?」
「なに?楓おまえ、コイツにそんなことまで話したの?」
・・・は?
なんで虎太郎、そんなキれそうな顔してるの?
「あんたにコイツ呼ばわりされるいわれはないけど?」
わああー
ちょっと待った待った
何これ?
修羅場ってんの?
私はコタローと拓海くんの間に入ると
「明海のとこ行って話してたからたまたま、そこにいた拓海くんにもー」
説明しようとするけど 何だかふたりの剣幕がすごすぎて立ちすくむ
「オレだったらそんな彼女が不安になるようなことはしないね。どんな事情があったとしても」
「は?なんでおまえにそんなこと言われねーといけねーんだよ。これは俺と楓のー」
「あんたに怒る権利あんの?だいたい、いい年こいた大人の男が、女を部屋に泊めて、何もねーわけねーだろ。泊めてる時点で、下心あんだろーが。本当に何もなかった、って言いきれんのかよっ」
このとき私は
拓海くんの言葉で
虎太郎がびくっとなったのを見逃さなかった
顔もー
今まで見たこともない表情で
虎太郎は
良くも悪くも
とっても正直者で
素直で
考えてることがいつも顔に出るから
手に取るようにわかって
そんなところが私に
安心感を与えてくれていた
「・・・ 何か・・・ あったの?」
「・・・・・・・・・・」
なんでそんな・・・
苦しそうな顔をするの・・?
あ~
虎太郎のこんな顔、見たくなかった
「・・・ あったんだ? ちぃと・・」
「ごめん・・ 」
ごめん、って
認めるってこと・・・?
「キョーちゃんのとこ泊まったんじゃなかったの・・?それとも昨日?電話をしたらちぃが出て、虎太郎は出掛けてるって・・・ 連れ戻したんだってね、虎太郎が。それで?昨日も泊めたんだ?」
「・・・・・・」
虎太郎が驚いた顔をしたけど
私はもう、堰を切ったかのように
止まらなかった
とめどなく言葉が溢れてくるの
私の中に
こんなに聞きたいことがあったんだ、って
「・・・ おまえいつも、俺のこと、他の女んとこ、行かすじゃん」
はぁ?
「なにそれ・・・ 私がいつ虎太郎を他の女のとこにー」
「千尋のことだって、あいつが泣いてたら俺に慰めに行けって」
「そんなのっ!小学校のときのことでしょう!?」
・・・っていうか・・・
「コタロー・・ 今、ちぃのこと・・ 千尋って呼んだ」
「・・?」
「今までずっと、三崎って呼んでたのに・・・」
「は?そんなの、なんかのはずみだろ」
はずみなんかじゃない
知ってた?
コタロー
私以外の女の名前
呼び捨てにしたことなんて
今まで一度もなかったんだよ?
私、それ・・
コタローの彼女だって証みたいで
嬉しかったのに
だからコタローが
それをはずみだなんて言うってことは
あまりにも自然に呼んでしまった、ってこと
気づいてないの?
「・・・ 別れよ?虎太郎」
「え?待てよ、楓。何言ってんだよ、そんな急に・・。確かにオレが悪い。悪かったもう二度としない!」
「帰って、今はコタローと話したくない」
そう言って背を向けた私に
「ちょっー 楓っー」
虎太郎の声が思ったより離れて聞こえたのは
間に拓海くんが入ってくれていたから
「今は帰った方がいいんじゃないの?」
「は?だからなんでお前にー」
「少し考える時間、あげなよ。今は、話したくないって言ってるんだからさ」
背中越しに
拓海くんの声が聞こえる
こんな修羅場に巻き込んじゃったのに
さっきまでとは打って変わった落ち着いた声が
すごく心に響く
それはきっと
虎太郎にも なんじゃないかな
拓海くんがここにいてくれてよかった
なんて、何て身勝手なこと考えてるんだろう
「・・・ 帰るわ」
虎太郎の足音が聞こえだした
玄関に向かって
立ち止まった
「楓!・・・ ほんとにごめん。・・・ また連絡する」
玄関のドアが開いて
閉まった
足音が
すぐそばから近づいてくると
止まった
「ずいぶん勝手な彼氏だね・・・」
「ごめんなさい・・ 変なとこ、見せちゃったよね」
振り向くことはできないから
背を向けたまま
とりあえず謝る
「胸、貸したいとこだけど・・・ 背中にする?」
ぷっ
「・・うん、借りる。背中」
「ちぇっ・・ オレは胸でもよかったんだけどなぁ~」
そんなことを言いながらも
私が振り返ると
ちゃっかり背中を向けてくれている
ありがと・・・