虎太郎のやつ、いまだに私が送ったラインに既読すらつかない
昨夜はキョーちゃんのところで飲んでるってことはわかってた
飲みすぎないようにね
って注意を促すラインを送ったのに
あのバカ
飲みすぎたな?
私は虎太郎に作る朝ごはんの材料を買って
自転車の前カゴに入れると
虎太郎のアパートに向かっていた
私は虎太郎のアパートが嫌いだ
なぜなら、向こう側が見える階段を上らないと
虎太郎の部屋がある2階に辿り着けないからだ
小さい頃から向こう側が見える階段が
すっごく嫌い
高所恐怖症はそこから始まった気がする
そんなだから、私が虎太郎のアパートに行くことは滅多にない
会うときはたいてい、外が多く、もしくは、私の家で、だ
おかげでうちの親ともすっかり顔馴染みな虎太郎は
すこぶるお気に入りだ
虎太郎のご両親の転勤が県外に決まると
虎太郎はあっさりアパートを借りて一人暮らしを始めた
もう社会人なのだから、と周囲からも何の反対もなかった
私は初めてそのアパートを訪ねたとき
あの階段を知って、ゾッとしたけどね
そんな私の複雑な気持ち
知ってか知らでか
虎太郎は、私が自分のアパートに来るとすごく驚く
そしてとても嬉しそうにする
その顔を見るのは好き
こそばゆいけど・・・
嫌いな階段を登ってきてよかった、って思う
だから行ける
今日もそんなことを考えながら
階段を登った
虎太郎の部屋の扉の前まで来ると
ドアホンへと指をのばした
ピンポーーン
中で鳴ってる音が聞こえる
まぁね
一回で出てくるなんて、思ってないわ
私は携帯を取り出すと
ラインが既読になっていないか確認をする
・・・ なってる!
起きた?
もう一度、ドアホンを鳴らす
ピンポーーン・・・
すると
ガチャリとロックが外れる音がして
ドアが開いた
「もうっ、いつまで寝てー」
そこまで言って
私はかたまってしまった
「あ、すみません、間違えました!!」
出てきた美人さんの姿に、部屋を間違えたんだと
思わず後ずさる
「もしかして・・・ 楓ちゃん?」
見たこともない美人さんの口から私の名前?
え?どういうこと?
いやいや、こういうことって
現実、私にも起こりうるんだ?
あ~・・・
まさか虎太郎がそんなことするなんて
思ってもみなかった
私、いつの間にか
虎太郎との関係にあぐらを掻いていたのかな
なんて
瞬間で脳裏を過った
でもね
いくら私でも
知り合いでもない情事の相手から、ちゃん付けで呼ばれるのは
「あのっー」
ひとことだけ、言って帰ろう
と思って踏み出したそのときー
「・・・・ 楓?」
後ろから、私を呼ぶ虎太郎の声がした