「おまえ・・・ 頭でも打ったか?」
身長183センチの桐生さんのと1.5m距離まで近づくと
見下ろされるような視線で そう言われた
「いいえ。」
「なら・・ 酒に酔ってる、とか?」
「いいえ。酔ってません。飲んでませんから。至って正常です!」
強い視線でそう返すと、ふぅ~っと大きくため息をつかれ
おつかれ~、とばかりに手を振り、そのまま私の横を通り過ぎていく
「桐生さんっ!!待ってくださいっー」
「悪いけど。」
追いすがる私に、振り返った桐生さんの冷たい視線
「そんなわけのわからないこと俺はー」
「わかってます!突然こんなこと言われたって桐生さんが相手にしてくださらないってことくらい!でも私の言い分だって聞いてくださってもいいじゃありませんか!!散々考えての発言だってわかってくださいよ!職場の上司にこんなこと言ってるんですよっ!?」
たたみかける私に、桐生さん、思わずたじろぐ
「・・・・・」
「先日、お世話になっている叔母が突然交通事故で亡くなりました」
「あ、あぁ・・聞いてる。休んでたから」
よしっ
話を聞いてくれそう
「ある日突然、ですよ?人って、いつ何が起きるかわからないって思いました」
「・・・ そうだな」
「もし自分の身に今何かあったとして、後悔することはないか、やり残したことはないか、って思ったときにですね?私はハッと気づいたんですっ!!人間の三大欲求、食欲、睡眠欲、性欲!この三大欲にあげられている性欲を満たす象徴であるセックスを経験せずして死ねるものか!って」
「神田・・おまえ・・・処女か」
桐生さんの質問はさらっと流して私は続ける
「自分でも勉強ばっかりしていた記憶があります。男の子と遊ぶよりも本を読むのが好きでした。それでいいと思ってたんですっ!!でもっ・・・ほら私、美人じゃないですかっ!しかも頭もいい!昔から高嶺の花だったわけですよっ!声かけづらいオーラが出てるみたいなんですっ!!」
「・・・自分で言うか?」
「え?出てませんかっ?出てるって言われたことあるんですけど・・」
「まぁ・・どっちかと言えば出てるかもな」
「ですよねっ!?」
「でも理由はそれだけじゃないだろ。おまえ、今まで自分からどうにかしようと頑張ったりも、してないんだろ?」
それはー
「そうしたくても、そんなふうに思う相手が現れなかったんです。そしてこの仕事。色々な依頼を受けているうちに若干の男性不信にも陥りまして・・いわゆる頭でっかち、耳年増なんです!!勝手に想像して拒否ってしまうんですっ!!もうっ、自分でもどうしたらいいのかー」
「・・それで?・・・なんでオレなんだ?こんな40も過ぎたオッサンのー」
「桐生さんは信頼に値しますっ!仕事柄、知りえた秘密も他言しないでいてくださると思いました!そして何よりっ、アッチが凄いんだ、とお聞きしました!言い寄ってくる女の人も後を絶たず・・何ならそれだけでもお願いします!とまでー」
「待て待て待て!・・・ったく。それはどこ情報だよ」
「しゅっ・・守秘義務ですっ!情報元は明かせませんっ」
「・・・どうせ、宇藤とか花暖簾の女将あたりだろ」
「・・・っ」
ビンゴです・・・
「はぁ~・・ 呆れる。まったく・・・。何を考えてるんだ?おまえはー」
「・・そんなこと言ったって・・ 私だって、切羽詰まって・・」
「切羽詰まって、てまだ人生これからだろ?お前だったら若いイケメン実業家でも堕とせるだろ。ちょちょっと本気になれば、すぐイケるー」
「桐生さんっ!!そういうこと出来てたら、桐生さんにお願いなんかしませんよ!」
「・・・・・確かに?」
「桐生さんはバツイチだし、40過ぎてるオッサンだし、それにっ・・・一度抱いたら二度目はないってお聞きしました!めちゃくちゃ都合いいじゃないですかっ!私に惚れることもないってことですし!」
「おまえそれ・・・」
「そうです!私・・恋愛がしたいわけじゃないんですっ!とりあえず、セックスできればそれで。でもだからって、どこの誰ともわからない人とは怖いですし嫌です!」
「言ってること、めちゃくちゃだなぁ~」
とか言いながら、桐生さんは聞いてくれた
私の話を最後まで
やっぱり桐生さんは信頼に値する人だ
それはもう、ずっと桐生さんの下で働いてきた私にはわかってる
「お願いしますっ!桐生さんっ!私っ、絶対しつこくなんてしませんしっ、何事もなかったかのように仕事します!実はもう、誓約書も作ってー」
私はバッグの中から、クリアファイルに入った誓約書を取り出し、桐生さんに見せた
桐生さんは、片手でそれを制し
「いや、いい」
もう片方の手で顔を覆い、大きく深くため息をついた
「・・・ ほんとに一度でいいんだな?」
やった・・!!!