「おかえりなさい、お嬢様」
私は、お嬢様が玄関の扉を開けるまえに
何とか追いつくことができ
声をかけた
振り返ったお嬢様の顔は
私が現れた方向から何かを察知したのか
驚きでいっぱいになっていく
「ただいま・・・ りか」
私の名を呼ぶその声の
なんと心細そうなことか
「少し・・・ お庭を散歩しませんか?」
何の心配もいりませんよ?とばかりに、にっこり微笑むと
私はお嬢様を庭園の方へと促した
「こちらは私がお持ちいたします」
お嬢様のキャリーバッグを手に取り
半ば強引に
だって、お嬢様がユノに会う前に
ちゃんと話を聞いておきたかったから
「あの・・・ りか?」
私の強引さに少し遠慮がちにお嬢様が問いかけてきた
「はい、なんでしょう?」
「お迎えを頼まなかったの、ごめんなさい。でも、送ってもらえそうだったから」
チャンミン様に、ですか?
と問いただしたい気持ちをこらえ
「そうですか、無事に帰っていらっしゃったので、問題はございません。」
あの秘書野郎、お嬢様をどこかに連れて行こうもんなら
追い越して捕まえて警察につきだしてやる
という勢いで、ほぼ後ろを走ってましたからね
「・・・ 誰に送ってもらったのか、聞かないの?」
そう
私はお嬢様からのこの一言をお待ちしておりました
「ということは、チャンミン様ではない、ということでしょうか?」
「実は全部わかってるんでしょう?意地悪ね、りかって」
何と言われようが構いません
「全部・・ とは?」
「いいわ、りかがそのつもりなら。わかってるんだと思って話すわ。ねぇりか!私、三木が好き」
「は!?」
いきなり?
今、なんて言いました?
「ちょ、ちょっと待ってください、お嬢様!!」
私は慌ててまわりを見回し、他に誰か歩いていないか、そばにいてこの会話を聞こえる者がいないかどうかを確認すると安心してお嬢様に話しかけた
「三木が好き、ってお嬢様?それは・・ チャンミン様の秘書の方のことですか?」
「そうよ。」
「昨夜はやはり・・・ その、秘書の方とお過ごしに?」
「そうよ。」
「それで、好きになってしまったと?」
「そうよ。」
「あの・・ お嬢様?たった一晩でその・・」
「やぁね、りかったら。やっぱりわかってたんじゃない」
そんな、身体をくねくねと しならせられても
待った、待った、ちょっと待った!
「お嬢様はずっとチャンミン様のことをお好きだったのでは?それがたった一晩で」
「たった一晩?さっきからずっとそう言ってるけど、私にとってはとてもとても大事な一夜だったのよ!?それをー」
「も、申し訳ございませんっ」
しまった、怒らせてしまった!
キュリお嬢様は一度カッとなるとなかなか収まらなくなる
「あれほど素敵な一夜があると思って?きっとりかには想像もつかないはずよ」
想像もつかないって
そ・・・
そんなに?
あの男・・・・
たった一晩でお嬢様をこんなになるまで落としてしまうなんて
このとき私は、お嬢様との会話に夢中になるがあまり
背後から近寄る足音に気づくのがすっかり遅れてしまった
「・・・ ほう。昨夜はそんなに素敵な夜でありましたか?」
ーー この声っ
気づいて振り返るのと
「ユノッ!!」
お嬢様がその名前を呼ぶのとが、ほぼ同時になった
「おかえりなさいませ、お嬢様。上からふたりの姿が見えましたもので・・・」
上っ!?
しまった・・・!
まさか、上の窓から庭にいる私たちを見てる人にまで気づかなかった
ああああ
なんたる失態!!
一番気づかれたくない人に見つかってしまった
と、とにかく
昨夜お嬢様が一緒に過ごされたのが秘書の男なんかではないってことにしておかないと!
なんて焦る私の気持ちなど露ほども知らず、お嬢様はユノの方を向くと
「ただいま、ユノ」
にっこり笑ってる場合なんかじゃないんだってば
昨夜の相手をユノに知られたりしたら
絶対許されないんですよ?
無理矢理にでも結婚相手を見つけられてしまうんですよっ?
って先に言っておこうと思っていたのにーーー
「あの、お嬢様。とりあえずチャンミン様に、昨夜は楽しかったとお電話をなされてはいかがでしょうか?」
私は必死にお嬢様に目で訴えかける
「え?チャンミンに?」
「そうです、チャンミン様に、です。ほら、お部屋に戻りましょう?!」
「あ、あぁ、そうね!チャンミンに電話しなきゃ!」
私の訴えが聞いたのか?
それとも何か思いついたのか?
お嬢様はとても楽しそうにそう言うと、お屋敷の方へと駆けだした
「では、私も・・」
お嬢様のキャリーバッグを手に
踵を返し、歩き出そうとした私の腕が
ぐいっと掴まれた
「ひぃっー」
思わず悲鳴・・・
「おまえ・・・ 何か隠してるだろう?」
どきっ
背後から聞こえる声
目を見ちゃダメよ
あの目は恐ろしいんだから
私は一度目を閉じ、呼吸を整えると
ユノの方へ振り返った
「何も?」
にっこり・・・
「・・・気持ち悪い」
ムカッ!
「気持ち悪くて結構!では、失礼しますっ!!」
私はユノの手をふりほどくと、お嬢様の後を追った
「・・・ ふん。あれで隠せているつもりか?」
チョンバトラーの呟きなど聞こえずに