ーー ごめん、昨夜は飲みすぎて遅くなっちゃって

 

 

いや、違う

 

何度も書いては消し、書いては消し

 

俺は石橋さんにメールできずにいた

 

 

「おはよ、瀬名。早いな。」

 

 

ビクッ

 

ロッカーに着替えをぶっこんで出てきたところで、声を掛けられ、振り返った

 

 

「三浦先輩っ!・・・ おはようございます」

 

 

「あれ?コロン、替えた?」

 

 

「え?」

 

 

あー、家だ

今朝はつけてない

 

香ったとしたら、さっきゆみのところでシャワー浴びたときの・・・・

 

 

「いや、あ~・・ そうですね。ちょっと気分転換?」

 

 

ハハハ、と苦笑い

 

やばい、そんな香るか?

 

 

 

「じゃあ、オレ、ちょっと資料みときたいんで。」

 

「お~。後でな。」

 

 

ふぅ~・・・

 

 

 

なんてため息ついて、廊下の角を曲がったところで

今度はよりによって・・・

 

 

 

「・・・ 石橋さん・・・」

 

 

 

あぁぁぁぁぁ

メール送る前に会ってしまった

 

なんで?

早くない?

いつもこんな時間に出社してんの?

 

どうする?

なんて言う?

 

 

「あの・・」

 

「おはよう。瀬名くん。」

 

 

怒ってる? ・・・・ よな

 

 

「ごめん、昨夜は・・。遅くまで飲んじゃって・・・」

 

「・・・・ ずっと待ってた私の気持ち、わかる?」

 

「・・・ごめん・・ なさい」

 

 

社内でこんなふうに話しかけてくるくらい、怒ってるんだってことはわかる

 

それに、俺は怒られて当然のことをしちゃったんだし

言わなきゃ!

 

ゆみとのこと・・・

 

 

「あの・・」

「まぁいいわ。つき合いだったんでしょ?そんなのわからない歳でもないし。」

 

「え?」

 

出鼻をくじかれた

 

 

「罰として、今度、ごちそうしてよね!」

 

「あ?あぁ・・」

 

「じゃあ私、打ち合わせあるから。二日酔い、気をつけて」

 

 

ポンポンッとすれ違いざまに肩を叩かれる

 

 

「あっ、あのさっ、石橋さんっ、今夜っー」

 

話をしなきゃー

 

 

 

振り返った俺に、彼女は、シーーッと口に指をあてる

 

すぐさま、同僚が彼女に挨拶をしているのが見えた

 

内緒、ってことか・・

 

 

ふぅ~・・・

 

 

俺は振り返った身体を翻し、エレベーターホールの方へ歩いて行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございます、石橋さん」

 

「おはよ。」

 

「これから打ち合わせですよね?私、先に行って資料準備しておきますから」

 

「よろしくね」

 

 

 

ふぅ~・・

 

私、いい女、装えてたかな?

 

年上の、ものわかりのいい、いい女

 

 

まったく・・・

 

昨夜は何時まで待ってたと思ってるの?

 

携帯、握りしめたまま寝てたわよ

 

朝だって、メール来てないか何度も確認した

 

 

それがなに?

 

遅くまでのんじゃって、ですって?

 

ふんっ

 

1通のメールすらできなかった、っていうの?

 

 

 

「・・・ なんて、口に出して言えるわけないわよね~」

 

 

「何を?」

 

 

ビクビクッ

 

突然、背後から、話しかけられ

驚いて振り返る

 

 

「三浦っ!?」

 

 

「おはよ、石橋。」

 

 

同期の三浦だ

 

そうだ、彼が飲みすぎたってことは、こいつがー

 

 

「見ちゃった」

 

「え?」

 

 

見ちゃった、って何を?

 

 

「石橋、アイツとつきあってんの?」

 

 

 

ドッキーーーーーーーーッ

 

 

「なっ、なっ、何をっ!?」

 

 

見られた?

さっき、瀬名くんと話してるの

 

 

 

「・・・ わかりやす。」

 

 

 

バレた!?

 

バレた、バレた、バレた・・・

 

どうしよ

 

 

「わかりやすいって何が?三浦ってば何言ってるの?私が瀬名君とつき合うなんてあるわけないでしょ!!」

 

 

「オレ、瀬名となんて言ってないけど?」

 

 

「・・・っ!!!!」

 

 

 

ああぁぁぁぁ

神様ぁ・・・

 

 

 

「おっどろいたなぁ~・・ まさか石橋が瀬名と、なんてね~ 俺ら同期の誘いとかには一切なびかなかったくせに・・・」

 

「そりゃあ、あの頃はまだ私・・」

 

 

失恋の痛手に打ちひしがれてましたから・・・

 

 

「はい、認めた~」

 

 

 

あーもう、万事休す

 

 

「お願い、誰にも言わないで」

 

 

「どうかなぁ~・・ オレ以外にも見てた人、いそうだけど?」

 

 

「うそ・・」

 

 

 

私・・・・

 

顔見て思わず話しかけちゃったから

まわりなんて見えてなかった・・・

 

 

 

「あ~もうっ、いいわ。その時はその時で。それより三浦、平日の夜に遅くまで後輩連れまわさないでくれる?あんただって、綺麗な奥さんと、可愛い赤ちゃん、家で待ってるんでしょ?いくらつき合いだからってあんまり遅くまで飲み歩いてたらよくないわよ?」

 

 

「・・・ ちょ、待て待て。昨日アイツが遅くなったのは、俺のせいじゃないって。そりゃ、少しは遅くなったけど・・ 9時には帰ったかな~」

 

 

「・・ 9時?」

 

 

「さっきアイツが遅くまで飲んだって言ってたのは、俺らと別れた後だと思うけど?」

 

 

 

え?

 

ってことは、仕事のつきあいじゃなかったってこと?

 

 

 

「あーでもアイツ、酔い覚ましたいから、歩きます!とか言って、タクシー乗らなかったなぁ」

 

 

酔い覚ましたい?

 

 

 

ーー 遅くまで飲みすぎちゃって・・

 

 

 

どういうこと?

 

 

帰るつもりだったのに、結局どこかで飲んじゃったら飲みすぎちゃった、ってこと?

 

誰と?

 

 

 

 

「まぁまぁ、そういうときもあるさ。笑って許してやれよ、さっきみたいに」

 

 

「ちょっと、三浦っ!!」

 

 

「じゃーなー。俺、今からお前の彼氏と外回りだっからぁ~」

 

 

 

お前の彼氏と、って

 

 

「三浦ぁああ~~っ!!」

 

 

 

でもその響き・・・

 

嫌いじゃない