「こんばんはー、また来ちゃいました」

 

 

今日はお客さん、他に誰もいないんだ?

 

なんて思って店内を見渡すとー

 

なにっ?

あの、壁際の角っこのとこ!!

カップルが向かい合わずに隣に座ってイチャイチャしてる!!

 

え?キスっ?

 

 

「・・・ カシスオレンジ」

 

 

カウンター席に少し背伸びしながらすわると、マスターに注文した

 

 

「あれ?今日はひとり?」

 

あたたかいおしぼりが出てくる

 

「え?」

 

「この間の彼は?」

 

「彼?」

 

「ほら、ここで盛り上がってたじゃん。ドキドキ教えてくれー、って」

 

「・・・ 聞こえてたんですか?」

 

「ところどころ、ちょっと、ね?」

 

「・・・/////」

 

 

 

恥ずかしいーー

 

いや、元々マスターに絡んでたんじゃないか、私ったら

 

 

「で? どうやってドキドキ、教えるの?せんせ」

 

「どうやって、って・・・ どうやって教えたらいいんでしょうかね?」

 

 

 

延長してくれって言われてるし・・・

 

 

 

「う~ん・・ やっぱ、ああいうの、してみるとか?」

 

 

マスターに促され、振り向くと

 

うわぁーー

さっきのカップル、さらにエスカレートしてるーー!!

ヒートアーーップ!!

 

 

くるっ

 

「ああいうのは、ちょっと・・・。 ほら、私たち、つきあってるわけじゃないですから」

 

「つきあってなくても出来るんじゃない?」

 

「・・・・・・・・」

 

 

 

つきあってなくても・・・

 

そう言われて、ミン専務とのキスを思い出した

あれはちょっとした・・ 触れただけの、事故みたいなやつで

 

あんな濃厚なのは・・・

 

 

「無理です」

 

「呼んじゃえば?」

 

「はい?」

 

「彼。ここに呼んじゃえ」

 

「え?今、ですか?」

 

「そう、今。」

 

「ええーーっ、いやいや、そんな簡単に呼んできてくれるような相手じゃあないんですよ!!」

 

「あぁ~・・・」

 

 

え?なぜそこで納得するの?

 

 

「まぁ、試しに電話してみたら?」

 

「えーーっ・・」

 

 

 

とか言いつつ、スマホに手をやる私

 

 

「来ないと思いますけど・・・」

 

 

 

入手したばかりのミン専務の電話番号を表示させると

 

ポチッ

 

 

コール音が聞こえ始める

 

 

 

1回

 

 

2回

 

 

3回

 

 

 

 

「・・・ ほら、やっぱり出ないー」

「もしもし?」

 

 

出たーーーっ!!!

 

 

驚いて思わずマスターの方を見ると

にっこり笑顔を返される

 

 

 

「あ、あの・・ 森崎ですけど」

 

 

「わかってます。・・・ どうしましたか?」

 

 

「あの・・ 今、この間の店で飲んでまして・・・」

 

 

「この間の?・・・ あぁ~、僕が間違えて入って貴女と会った店・・」

 

 

「もしよかったら、なんですけど・・ 今から来られませんか?」

 

 

「は?ボクが?今から?なぜ?」

 

 

 

 

ふぅ~・・

 

 

 

「ですよね、だと思いました。すみません、夜分に。では失礼しまー」

 

「まさかひとりで飲んでるんですか?」

 

 

「え?あ、はい、ひとりで・・ またカウンターで」

 

「行きます。」

 

「はい?」

 

「すぐ行きますから、待ってて。いいですね?変な男と一緒に飲んだりしないように」

 

「え?ほんとに来るんでー」

 

プツッ

 

 

・・・・ 切れた

 

 

 

「来るって?」

 

 

マスターがニヤニヤしてこっちを見てる

 

 

「・・・ はい。」

 

 

つられて私も頬が上がる

 

 

「へぇ~、楽しみ。あのカップルにはまだ居てもらわないとね」

 

 

マスターがカウンター越しに、私の顔の前で、小声で囁いた

 

おかげで耳まで赤くなる

 

 

 

 

 

バーーーンッ

 

 

そのとき、勢いよくドアが開いて

 

ミン専務にしては早すぎるな、と思いつつも視線を馳せると

 

 

 

「ちょっと慎吾、聞いてよぉーーー」

 

 

 

ひとりの女の人が入ってきた

 

そして、カウンターまでやってくると

私の横に座り、

阿吽の呼吸で出てきたおしぼりで、手を拭きだす

 

 

「どうした?」

 

 

注文も聞かずに、マスターはカクテルを作り出す

 

 

「いや~~、落ち込むわぁ~。自分で自分が嫌になる」

 

「例の彼氏のこと?」

 

 

例の彼氏?

 

はい、どうぞ、とカクテルが隣の女性の目の前に出されると

彼女は軽く口をつけ、ひとくち、飲み込んだ

 

 

「や~~っぱ、年の差やばいわ。7つも下だとこっちが不利すぎる。すぐ不安になって、やきもちやいて、嫉妬の炎メラメラで」

 

 

な、7つも年下の彼氏ってこと?

 

私も一口、カクテルを口にしながら

耳は思いっきりダンボ

 

 

「だってしょうがないじゃない?この歳であんな若い彼氏できたら、そりゃあ色々慣れないことだらけで、自分の気持ちを持て余すっつうの」

 

 

「でもつきあうの、決めたの、おまえだろ?」

 

 

「だぁ~ってぇ~・・ 壮士と別れて以来、男なんかっ!って思って生きてきた私に、あの子、すぅ~~っと入ってきちゃったのよぉ~」

 

 

 

え?

すぅ~っと、入ってきちゃった?////////

 

 

「おまえ、エロいって。見ろよ、隣の子、赤くなってる」

 

 

「え?あ、ごめんっ!!変な意味じゃないのよ?私のやさぐれた心に、すぅ~っと、って意味で、って何言わせてんのよっ、慎吾!!」

 

 

「え?俺のせい?」

 

 

 

ぷぷっ

 

「何だか面白い・・っていうか、お姉さん、可愛いですね」

 

「へ?可愛い?私が?・・・ ちょっと慎吾、聞いた?」

 

「社交辞令だっつうの」

 

「失礼な。・・・・ あなた、こんな店で何してるの?」

 

「こんな店って言うな、お前の方が失礼だろ。」

 

 

ぷぷぷ

 

ほんっと面白い

夫婦漫才か、って感じで・・・

 

え?マスター、もしかしてこの女の人のこと・・・?なんて

勝手に想像しちゃったりして

 

 

「え?まさか、慎吾の彼女とか?」

 

 

え?

 

 

 

「なわけないだろ。あほか!」

 

「だわね、こんな可愛い子が慎吾みたいなオッサンと付き合うわけないわよね~」

 

「俺がオッサンなら、お前はおばさんだろ。あ~かわいそ。こんなおばさんの毒牙にかかった幼気な彼氏くん」

 

「うそぉ~~、あんた、今、それ言う?聞いてた?私の話。彼氏に翻弄され、わけわかんない気持ちを持て余して苦しいって言ってるのを。」

 

「なら別れたら?」

 

「え?」

 

「はい、結論出た~。おまえ、今、嫌だって思っただろ?結局別れらんないんだって。」

 

 

マスター

 

何の達人ですか?

 

思わず見入っちゃった

 

 

って思ってたのに・・・・

 

 

 

 

「・・・ 別れようかな」ボソッ

 

 

 

 

 

「え?」「ええっ?」