コンビニ店内を物色中、外の雨足は強まるばかりのようで
次々に売れていく傘をとりあえず2本、手に取ってみたはいいものの
「傘にあたる雨の音を聴く・・・ どころではなさそうですね」
外を見ながら言うミン専務の言葉に
「・・ ですね」
と うなずくしかない私
ウィーンと開いた自動扉から見えたアスファルトには
叩きつけるような大粒の雨が激しく降っている
元気よく走りこんで来た子供が
母親の方を振り返り
「もう傘、ないよー!!」
と叫んでいる
私は、2本持っていたうちの1本を
その子に差し出した
「これ、よかったらどうぞ」
「・・・・・・」
突然話しかけられて困ったその子は
黙って後ろを振り返った
「いいんですか?」
代わりにそう聞いてきたのは、振り返られたその子の母親で
大丈夫です、と私がうなずくと
ありがとうございます、とその傘を受け取ってレジの方へと向かって行った
「・・・ 傘なしで、どうするつもりですか?」
濡れたグレーのコートを片手に
いつの間にか後ろにいたミン専務からの声
「大丈夫です、ミン専務の傘はここに!」
私が残る1本を掲げ、笑うと
「・・・ だから、キミはどうするんだ?と聞いたんですが?」
え?なに?
怒ってる?
でもね、何も考えなしで傘を差しだしたわけじゃあないんですよ?
私だって・・・
ちゃぁ~んと考えてます
それは・・・
「少し・・ 小降りになるまで、何か買ってイートインコーナーで休むってのはどうでしょう?」
「イートインコーナー?」
私の提案に、小首を傾げるミン専務
私は、イートインコーナーの一角を指差して、あっちあっち、と促すと
視線を移したミン専務
「・・・・ あそこで食べる、と?」
半ば呆れ気味に聞き返された
「お菓子とか飲み物買って・・・ さ、選びましょうよ。最近のコンビニスィーツって侮れないんですよぉ?」
ついてきてくれるかなぁ?
と半信半疑ながらの提案だったけど
ミン専務はちゃんとついてきてくれた
そして私が手にした買い物かごに
「どうせなら、こっちにしよう」
ゴロン、と缶ビールを入れていく
「え?そうきますか?」
つられて私もアルコールを手に取り始める
「そうなると、おつまみも必要ですよね」
調子に乗って、あれこれポンポンかごに入れていく
レジに行く前に重くなっていたかごを
ひょいっとミン専務に奪われた
あっー
「気づくのが遅くなってすみませんでした」
「いえ・・」
いちいち、丁寧というか、ミン専務ってもっとオラオラ系かと勝手に想像してたんだけど・・・
実は意外と気配り上手
これはほんっと、意外だった
なんていうか・・・
紳士、なのよね
品がある
・・・・ 困る
・
・
・
・
・
「・・・・ 初めての経験だ」
缶ビールをあけて、ふたり乾杯をして飲みだすと
口髭のようにビール泡をつけたミン専務がボソッと呟いた
やっぱり・・・!
まぁ、ないよね
こんなところで飲食することなんて
「どうですか?初めての経験は・・?」
「うん、・・・ 悪くない」
そう言って、口唇の周りをぺろりと舐めた
・・・ 可愛い
いやいや、そうじゃなくて
「コート、濡れちゃいましたね」
プラスチックのイスにかかったグレーのコートが
重そうに色をかえている
何だか申し訳ない
「クリーニングに出せば済むことです」
「あ、・・そう・・ ですよね。でもすみません、私のせいでー」
「あぁー、気にすることじゃあないです。僕が濡れないためでもあったんだから」
ね?
という目で、テーブルの上に広げたつまみを手に取り、口に運んだミン専務は
やっぱりかっこいい
・・・・ 困る
そのとき
何のタイミングでだったのか
突然後ろのテーブル席に座る子たちの会話が聞こえてきた
学生さんかな?
「ね、ラ〇ン、教えて?」
ドキッ
ど、ど、どういう関係?
「あ、俺も俺も。」
「じゃあ、皆で交換しよ」
・・・あ~
なんだ・・
カップルの話じゃないわけね?
そうねそうね
ふたりだけの声じゃないもんね
今の会話
ミン専務にも聞こえたかなぁ
ミン専務のケータイ
知りたくなってしまったけど
今更 聞けない
ミン専務は、どうなんだろう?
ずっと社内メールでやりとりするつもりなのかなぁ?
え?
ずっと、っていつまで?
こんなあやふやな関係のくせに
当然のように今後も続くであろう、なんて考えてるなんて・・・!!
・・・お恥ずかしいったらありゃしない
なんてひとしきり、反省したところで
顔を上げると
ミン専務の視線は私を通り越して、さらに後ろを見ているようだった
「何を見ているんです?」
って聞きながら振り返ると
一瞬、すぐ後ろのさっきの子たちが目に留まり
4人か、なんて、何のチェックだかわからない確認をして
その先に座る、カップラーメンを啜る男の人の姿が目に入った
「もしかして・・ あれ、食べたいんですか?」
「めちゃくちゃ美味しそうです」
うんうん、と大きくうなずきながら、笑顔で答えるミン専務は
やっぱりヤバい
・
・
・
・
・
『え?飲みに行った店でたまたまミン専務に会ったって言うの?』
「そう」
あのあと、結局止まない雨に
ミン専務がタクシーを拾って送ってくれた
家に帰り、シャワーを浴びると
ジュリに電話をした
『それで?どうして社食でルナのところにミン専務が来るの?』
あー・・
えっと・・
「お店で会ったときに同じ会社で働いてる、って言わなかったから、私のこと見つけてびっくりしたみたいで・・・」
『それでなんで、ルナのこと連れて行くの?』
「それは・・・ ほら!飲みに行った店の話とかされたら困るって思ったみたいで口止めよ!」
さっきシャワーを浴びながら考えた
我ながらいい理由だったと思う
『あ~、口止め、なるほど。そっかぁ~・・ だから社食では話せなかったわけだ?』
「うんうん、そうそう、そういうことだから、ジュリもこのこと、誰にも言わないでね」
よしよし
『わかったわかった。でもその店どこ?私、行ったことない店?今度一緒に行こうよ』
「え?なんで?」
『だって、ミン専務が来るかもしれない店ってことでしょう?バッタリ会えるかもじゃん』
「あ、でもそこ、間違えて入って来ちゃったらしくて・・三木さんから電話きてすぐ出て行っちゃったの。だからもう、来ないと思う。」
うん、別に間違ったことは言ってない
『えー、そうなのー?・・・まぁそうか。そんな、一般人が行くような店、御用達じゃないわよね』
そうそう
『じゃあ、ルナももう会うことないんだ?』
ドキッ
「会うことないって、・・そんな、会社で会ったら挨拶するとか・・」
『それは私でもあるじゃん。でもそっかぁ、そんなもんなんだね。残念。』
「え?」
『ルナがお知り合いになってたら、私も紹介してもらおうと思ってたのに』
「ええええええーっ ジュリ、ミン専務のこと、そんな好きだったっけ?」
『好きとかそういうんじゃないけど、誰だってミン専務とはお近づきになれるもんならなりたい、って思ってるでしょうが』
「あー」
それはそうよね
実際、ファンは多いと思う
『でも、今度ミン専務と会社でバッタリ会うときに、ルナの横に居たら会話くらいできるかもね?』
「そう?・・かなぁ~?」
『そうよそうよ、きっと・・。私、明日からルナのそば歩くことにするわ』
「なに?それ・・」
『えへへへへ』
ジュリと一緒にいるときに、ミン専務にばったり会ったりしたらどうしよう?
どんな顔、すればいいんだろう?
なんて心配むなしく
その翌日から週末まで
社内で偶然にでもミン専務に出くわすことなどなく
社内メールも届くことはなかった
風の噂で
ミン専務は、週末まで海外出張に行っていらっしゃる、とのことだった
・・・ 聞いてないよ
権利もないのに
心の中で拗ねてみた