「さて、これで話はできるかな?」

 

 

ミン専務ってば、さっさと自分のデスクの大きな座り心地のよさそうな高級椅子に座ると

両肘をつき、小さな顔をちょこんとのせて

魅惑的な笑みを浮かべ、私を見下ろした

 

というのも、私は正面に広がる応接セットのふかふかこれまた高級ソファに

どうぞ、と促されるままに座らされているから

 

「・・ご、ごめんなさいっ」

 

「何を謝るんですか?あぁ~・・ ボクのことを騙したこと?」

 

ええっ?

「だましただなんてっー」

 

「だっだたらどうしてあの時っ・・ 知らないふりをしたんですか?うちの社員だったなんて・・ボクのこと、知ってたんでしょう!?」

 

うう~

知ってましたよ?

気づいてました

 

「知らないフリっていうか・・ その方が楽だと思ったんです、あの時は!」

 

「へぇ~・・」

 

冷たい目

 

「だって!!じゃあ逆に聞きますけどっ、私が専務の会社の者だって言ったところで?何か変わりました?話しづらくなるだけですよねっ?だったら余計なことを言ってシラけさせるより、黙ってたほうがいいかな、って思ったんです」

 

一気にまくしたてた

 

 

「あぁ~・・・ なるほど、確かに。」

 

 

あ、素直に納得した

 

っていうか、さっきからこの人、微妙に私の言うことに素直な反応見せてくるのよね

それが可愛い・・・

 

じゃなくて!!

 

「じゃあ、そういうことでっ!失礼しますっ」

 

私は立ち上がってお辞儀をすると

専務室を出ようと踵を返した

 

「待った!!まだ終わってませんっ!」

 

「え?」

 

 

思わず振り向く

 

「僕との約束はどうするんです?なかったことにするんですかっ?」

 

「約束・・?」

 

そんなの、しましたっけ?

 

「してませんけど?」

 

「はっ?・・僕のことを笑った罰ですよっ」

 

「え?」

 

あ、そういえばあの時、そんなこと・・・

 

「あとっ、あれですっ・・ ボクのことを知らないフリをした罰」

 

「そのことなら、さっき謝ったじゃないですかっ」

 

 

ミン専務が立ち上がるから

私も自然と前のめりになる

 

「君はドキドキしてみたいと言っていた!」

 

ドキッ

 

「僕が相手だとできるかも、と」

 

言ったかも・・

 

「だったら試してみればいい」

 

はぁ?

 

「試すって、どうやって?」

 

思わず聞き返してしまった

 

「僕に片思いをすればいいんです」

 

「・・・・・」

 

 

聞き返したことをすぐに後悔する

 

「何を言ってるんです?」

 

「ドキドキ、で色々検索してみたら、片思いはドキドキするとありました!」

 

 

何を検索してるんですか

 

 

「だが、片思いというのは、楽しくも辛いものだとありました。辛いのはよくないでしょう?

だから僕にすればいいんです。僕なら辛い思いはさせません!なぜならー」

 

なぜなら?

ドキッ

 

「僕、公認の片思いだからだっ!」

 

 

ガクッ

 

「・・・・・・」

 

何を言ってるの?この人・・・

ちょっとでもときめいた時間を返して

 

 

「僕に片思いをして、ドキドキして、そのドキドキというものを教えてくれたらいいじゃないですかっ!」

 

私は深呼吸をひとつし、一歩、ミン専務の方へと歩み寄る

 

「いいですか?そもそも片思いって・・私が専務のことを好きになるってことじゃないですか!」

 

「なればいい」

 

 

間髪入れず!?

何の迷いもなく!?

 

 

「なればいい、ってそんな・・ ハイそうですか、ってなれるもんじゃありませんっ」

 

「そうなのか?おかしいですね・・。みんな、僕に会うとすぐに好きだと言ってくるというのに・・」

 

「・・・・・・」

でしょうねっ!!

 

そりゃあ、あなた様は超絶イケメンですよ

 

「専務はいったい・・ 何をしたいんですか?」

 

「うん?」

 

「ドキドキ・・ したいんですか?」

 

私の質問に、ミン専務は少しだけ考え込むと

 

「君を通してどういうものか知れたらいいと思っていましたが、そうですね、してみたくなりました。うん、してみたい!」

 

ドキッ

そんな・・・

ワクワクした顔をして・・

くりくりと大きなお目目をキラキラ輝かせて・・・

 

眩しいじゃないかっ!!!

 

 

「だったら専務が片思いしないと!」

 

「僕が?」

 

「そうです!じゃないとドキドキを経験することなんてー」

 

「誰に?」

 

「・・・ 相手、いないんですか?」

 

 

いそうなのに

 

 

「君にするよ」

 

 

「・・っ!?」

 

 

ギューーーンッ

 

ハァハァ・・

なんだ?これ・・

すっごい破壊力・・

その、少し小首を傾げて微笑まないでくれますっ?

 

どんな必殺技なんだっ?

 

 

「だっ・・だからっ/// 片思いっていうのは、するって言って出来るもんじゃなくてっ」

 

「出来ないんですか?」

 

「ほらっ!恋はするもんじゃなくて落ちるもんだ、って言うじゃないですかっ!」

 

「落ちるっ!?どこにっ!?危険じゃないですかっ!!」

 

「・・・・・・・・」

 

 

こんなに話が通じないとは・・・

でも、なぜだろう?

話を聞いてしまう

一生懸命だから?

 

「そうです、恋っていうのは、危険なものなんです。だからドキドキするんですよ」

 

子供に諭すように言った

自分でもうまいこと言えたと思う

これで思い直してくれたらー

 

「あぁ~、なるほど!じゃあわかった、僕が君に片思いをする。だから君も僕に片思いしてくれ。でないとフェアじゃない」

 

「フェアじゃないって・・・」

 

そういうのって、もはや片思いとは言わないのでは?

 

「専務が私のことを好きになって、私も専務のことを好きになる。そうしたら私たち、どうなるんですか?」

 

「どうなる?・・・ 別にどうもならない」

 

「え?」

 

 

どうもならないって何?どういうこと?

普通はそこで、付き合うってなるよね?

でもこの人の頭の中にそれはない

あー、わかった

専務と私ではそもそも住む世界が違うからか

私は付き合う対象にはならない、と

 

 

「僕はドキドキを知る。君はドキドキできる。WIN WINじゃないですかっ!」

 

出たっ!

キラキラ必殺ビーーム!!

 

 

「WIN WIN、って・・ あはは・・」

 

何だかまともに考えるのが馬鹿らしくなってきた

そして・・

この人の話にのるのも、まんざらでもないような

むしろ、とっても面白いことなんじゃないか?って

こっちもワクワクしてきた

 

だってほんと

くりくりお目目がキラキラ輝いているんだもんっ

 

 

「本当に私のこと、好きになってくれるんですか?」

 

「片思いでしょう?します、もちろん!」

 

 

こんな、私の一生で一度で会えるか会えないかの最上級のイケメンが

私に片思いするですって?

そんな素敵な経験

しないという選択肢がある?

 

(もういろいろ目がくらみ、正常な判断ができなくなっている)

 

私は腹をくくった

 

「わかりました。私も全身全霊で、専務に片思いしますっ」

 

「交渉成立ですね」

 

 

握手を求められたから、私も手を差し出した

 

取引先かいっ、私はwww

 

 

でもまぁ・・・

この満面の笑みに免じて、よしとしましょう

 

 

 

♪♪~

 

専務のデスクの電話が鳴った

 

「・・ なんだ?誰も取り次ぐなと言ったはずだが」

 

専務がスピーカーにして電話に出た

 

「もうじき、お昼の休憩時間が終わります。森崎さんには、ご自分の部署に戻っていただかないとー」

 

やばっ

もう、そんな時間っ!?

ハッとして時計を見る

 

 

「森崎?」

 

専務が私の方を見る

 

あ、そういえば・・・

三木さんって私の名前、知ってるんだ??なんで?

 

「君は・・ 森崎というんですか?」

 

え?ミン専務、そういって受話器を置いた

電話・・切れた・・よね?

 

「はい、森崎月(もりさき るな)と言います。あの、もう、戻りますね?」

 

確かに時間がやばい

 

「ん?あ、あぁ・・」

 

「あ!もう、さっきみたいに突然現れたりしないでくださいね?」

 

あんな思いはもうこりごり

 

 

「わかった。でも、じゃあどうすれば会える?」

 

 

ドキッ

 

な、なに?この人・・・

 

 

「そっ・・それはっ・・ 片思いなんだから、考えましょう!じゃあ、失礼しますっー」

 

ペコリとお辞儀をすると

ドアノブを手で握る

 

ガチャガチャ・・・

 

えっ?

開かないっ?

 

 

 

「あ、すまないー」

 

 

後ろから足音が近づいてきたのはわかったけどー

 

 

スッー

 

「ロックしてあるんですよ」

 

 

耳元で声が聞こえた

 

背後から手を伸ばしてドアノブのロック解除するのは・・・/////

やめてくださぁーーーーい

 

私は、振り向きざま、キッと睨みつけると

 

「失礼しますっー」

 

もう一度そう言って、ドアを開けて出て行った

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

ふわって・・

 

彼女の髪が僕の喉をかすめた

 

 

 

「すっぽり・・・ 腕の中に・・・・」

 

 

意図したわけではなかったが

 

 

「・・・・・///////」

 

 

 

まるで

 

背後から

 

 

HUGしてしまったかのようになってしまった