「え?婚活パーティで知り合った三島さん?だっけ?とダメになったの?」
「うん」
「どうして?」
「私といてもドキドキしないんだって」
同僚のジュリと社食で家庭の味と大人気のカレーライスを頼み
スプーンを縦にし、カツカツ容器の底を鳴らしながら私は答えた
「はぁ~~?ドキドキしないって・・ちょっと!三島さんって何歳だったっけ?」
「確か・・ 34?」
「さんじゅうよんっ?にもなって、そんなこと言いますかぁ~?」
ジュリの反応に、満足した私は思わず前のめり
「だよねっ!?」
「・・・もしかして、そいつ、マザコンだったりするんじゃない?」
「そこまではまだ・・・ わかんなかったけど」
「なんか、甘えたな男の気がするわ」
ラーメンをすすった箸を空に向けながら、激しく肯くジュリ
カレーにラーメン
そう、私たちは給料日前の金欠女子なのだ
「でもさー、ドキドキって・・ ちょっとわかる気する」
「は?」
昨日のミン専務との距離感とかやりとりを思い出し
ちょっとテンションの上がった自分がいたことは否めない
「だって、ジュリだって、マサオくんと一緒にいるとドキドキするんじゃないの?」
ジュリには、つきあって1年くらいになる彼氏がいる
「え?ま、まぁ・・?まだ1年だしね?」
「ほら!そういうの!!そういうの欲しいわけよ、やっぱ」
「えー?でもそんな、つきあい始めたばかりの頃のようなことないよ?あ、っていうか・・
つき合うちょい前くらいのが、ドキドキしたかも」
「やぁーーっぱ、そこよねー!!」
いいなぁ・・ジュリ
「私、そういうの、もう、ずーーーーーっとない」
「え?でもルナだって、普通に彼氏いたことあるよね?」
「言われてつきあって、・・・でもそんな長くは続かなかったなぁ~。そもそも、ドキドキなんてしたかなぁ~?」
「・・・・・・・・・・」
ジュリの目に若干の同情の色が・・・
「このまま婚活して結婚って思ってたけど・・・ 寂しくない?」
「うんうん、寂しいかも」
「でしょっ!?」
「でも、ドキドキする相手なんて、見つけられるの?」
「そこなのよね~・・・ 普通、いないよね。思えば私、せつな~い片思いとか、身を焦がすような恋なんて、してきたことないし・・・」
「そういうの、誰でも経験できるもんでもないと思うけど・・・」
「よね」
「でもルナの場合、ちょっと寂しいかも」
「・・・・・・ よねっ?」
カツカツカツ
スプーンで立てる音が大きくなる
キャーーーッ
突然、女性の悲鳴?が聞こえたかと思ったら
「チャンミン専務よぉーーっ」
誰かの叫び声・・・
え?
「どうして専務が社食に?」
「誰か捜してるのか?」
そんな声が飛び交う
思わず上げた顔
うわっ
うそでしょ
ほんとにいるっ
バッー
すぐに顔を逸らしたけど・・・
今、一瞬、目が合ったような・・・
いや、気のせいか?
私のこと、捜しに来た、なんて・・・
ないよね・・?
「うわぁ~、チャンミン専務だ。どうしたんだろう?社食になんか、ねー?」
目の前でジュリが呑気にそんなことを言っているが
私はもう、気が気ではない
「食べ終わった?ね、ジュリ、そろそろ行こう」
「ね?気のせいかな?チャンミン専務、こっちに向かってきてない?」
やっぱり!?
私もそんな気がしてたっ
いや、でも・・・
「え?え?え?やっぱりこっちに来てるよ、なんか私、目が合ってるような気がー」
「どうかな?ね、ジュリ、私・・ 先に」
うわ、もうだめだ
ガタガタッ
と音を立てて椅子を引いて立ち上がったところに
「見つけた。」
来たぁーーーーーーー
ほんとに来た
ミン専務
私のところに
横に立っている
「え?ルナ・・?に・・?」
向かいでジュリが驚きの眼で私と専務を交互に見つめてる
「話がある」
「・・・ 人違いでは?」
「は?人違い?」
「すみませんっ、失礼しますっー」
ーー おい、チャンミン専務と話してるぞ
ーー 誰?あの人
うわうわっ
すごい注目を浴びてるっ
当たり前だぁーー
私はミン専務の横をすり抜けるように食べ終わった食器を持っていきかけたけど
「待って!」
その手をしっかりつかまれてしまった
「人違いなんかじゃない。君だろう?昨日ー」
「わかりましたっ!わかりましたからっ、せめてあのっ・・人目につかないところで・・」
最後の方、小声で・・・
覚悟を決めた私はミン専務に答えた
それでもミン専務は手を放してくれなくて
「・・・ 人目につかないところ?・・・ どこだ?」
なんて聞いてくる
それくらい、考えてくださいよぉーー
「・・ 専務室?・・とか?」
私の提案に
「あー、なるほど。確かに」
うなずき
「じゃあ、行こう」
そのまま連行されることになる
驚き顔のジュリには、あとで連絡する、と口パクしたけど
わかったかなぁ・・・?
・
・
・
・
・
ガチャ
専務室のドアを開けて入るミン専務に、そのまま続く私
相変わらず手は引っ張られたまま
「あ、おかえりなさい、専務。休憩、終わりましー・・え?」
出迎えてくれた秘書の三木さんが
私を視界に入れるや否や、固まった
専務はそんな三木さんの横を私を連れたまま通り過ぎ
「しばらく誰も通さないでくれ。電話もだ。」
それだけ言うと、奥の部屋にふたりで入り、ドアを閉めた
パタン
「・・・・・・・・」
専務が女性社員を連れ込んだ・・?
あれは誰だ?
俺にお辞儀をして入っていったところを見ると礼儀はあるようだが・・・
あの顔・・・
どこかで見たことが・・・
ああーーーー!!
今朝、慎吾から名前を聞いてデータを抜きとっておいた女だ!
森崎月(もりさきるな)!!!
なぜだ?
どうして専務と?
専務はどうやって見つけたんだ?
俺がデータを抜いたから、あの名簿の中にはなかったはずだ
まさかあの女の方からやってきたのかっ?
となると、専務が危険だっー
ドンドンドン!
専務室のドアを叩き
「専務っー」
ドアを開けようとノブをー
「・・・・・」
嘘だろ
中からロックされてる
こういうときのチャンミン様は、決まって厄介だ
無理に開けようとするとおっそろしく怒る
触らぬ神に祟りなし、だ
それにしても・・・・
「・・・・ 何者なんだ?あの女は・・・」
こりゃあ・・・
今夜も慎吾の店だな
あの女がチャンミン様とどんな話をしたのか
あいつに聞いてみないと