「ごちそうさまでした。とても美味しかったわ」

 

 

テーブルを挟み、そういって僕に微笑むキュリ

幼き頃から僕の花嫁候補として接するように、と言われてきた女性だ

それはきっと、向こうも同じだろう

 

CYグループの会長の孫である僕

KO物産の社長令嬢であるキュリ

 

社交界では、ただふたり、並んで歩くだけで

まわりがどういう視線を向けているのか、肌で感じることができる

 

キュリはスレンダーな美人だし

僕も・・・・

自分で言うのも照れますが、なかなか

 

 

 

 

「そうだね。ここの味は、まず、外れることはないね。」

 

 

にこっ

 

キュリに微笑み返す

 

 

「ねぇチャンミン、今夜はゆっくり・・・ できるんでしょう?」

 

 

・・・・ 今夜?

 

 

「このあと・・」

 

「いや、ここでの食事予定は午後9時まで。その後は、ジムに行くことになっている。」

 

 

僕は、腕時計を確認する

 

「あと10分だ。ちょうどいい。」

 

にこっ

 

 

笑った視線のその先で、キュリの顔がみるみる曇っていく

 

え?なんだ?

 

 

「キュリ・・?」

 

 

 

「チャンミン、あなた・・・ いくつなのっ?」

 

すごい形相で問いかけてきた

 

 

「いくつ?歳か?・・・30・・になったばかりだが?」

 

 

必然的に応戦する僕の顔も強張る

 

 

「は?30になった、ば・か・り?・・ですって?」

 

 

うんうん、と黙ってうなずく

 

 

「ほんっと、信じられない!!私、あなたと結婚できる気がしないわっ」

 

「・・・・・・ は?」

 

 

なんて言った?

 

「僕と結婚できる気がしない、ってなぜだ?僕は君にとって完璧な夫になるはずだ」

 

「完璧な夫ですって?」

 

「そうだ。」

 

「私にとって完璧な夫ってどんな人なのっ?」

 

「僕だ。」

 

「・・・ 話にならないわっ。私はあなたにとって完璧な妻になれる気なんてしないわっ」

 

「なぜ?それならこれから努力すればー」

 

 

ガタガタッと椅子が動く音がして

目の前のキュリが立ち上がった

 

 

「努力はあなたがしてっ!」

 

「はぁ?僕が?なんでっ?」

 

見下ろすキュリに、見上げる僕

 

ふたりの視線は、もはや甘いそれではなくなっている

 

そして・・・

 

いつの間にか、まわりの視線も集めてしまっている

当初とは別の意味で

 

 

「キュリ、とにかく落ち着いて・・ 座って」

 

「わからないあなたともう話すことなんてないわっ」

 

「えっ?」

 

 

キュリは座るどころか、バッグを手に立ち去ろうとしている

 

僕は慌てて席を立った

 

ガタガタッー

 

 

「キュリッー」

 

 

しかしもう、キュリは振り返ることもなく、去って行ってしまった

 

 

「・・・・・・・・」

 

 

 

 

ひとり残された僕は

 

携帯を取り出すと

 

 

「・・・三木。車、回して。今からジムへ行く。」

 

 

秘書の三木に電話をした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チャンミン、破談だなんて、許しませんよっ!!」

 

 

ジムで汗を流し、自宅へと帰ると

もう結構な時間だというのに、母が起きて待っていた

 

 

「キュリのどこが不満なのっ?」

 

 

「・・・・・・ ちょっと喧嘩をしただけですよ。」

 

 

僕は母をなだめるように

そして自分にも言い聞かせるように言った

 

 

そうだ

多分、今夜のキュリは機嫌が悪かったんだ

 

 

「・・ そうなの?」

 

「不満などあるわけないじゃないですか」

 

 

子供の頃から、彼女と結婚するんだ、って言い聞かせられてきたんだ

 

 

「でも、向こうから、ふたりの結婚については、考えさせてほしいって言われたのよ?」

 

「えっ?」

 

 

キュリのやつ、親に言ったのか!?

 

 

「あなたの方で不満がないってことは、キュリがー」

 

「母さん、ちょっと待って。きっと何かの誤解だよ。」

 

「でもー」

 

「とにかく、今夜はもう遅いから早く寝て?キュリとはちゃんと話すから。大丈夫」

 

「・・・そう?」

 

「うん。・・大丈夫だから。安心して?」

 

 

大丈夫だと二回言って、母におやすみのハグをすると

ようやく母も納得して、自分の寝室へと向かって歩いて行った

 

 

 

僕は携帯を取り出す

 

 

「あ、三木?・・・ 明日、キュリにアポをとっておいて。店も任せる。

うん、よろしく。おやすみ。」

 

 

三木にそれだけ頼むと

電話を切って携帯をテーブルに置き

 

ソファに深々と座り込む

 

 

「あぁぁぁあぁあぁ~~」

 

 

ぐしゃぐしゃっと髪をかきむしりながら

僕は天を仰いだ

 

 

いったい何がいけなかったんだ?

 

キュリが突然、僕とは結婚できないって言ってきたのはなぜなんだ?