「テジュン、今日はもう、このへんにして、あとは明日にしないか?」
政務も一段落し、ドンハが出て行ったのを見計らってそう提案する
すると、テジュンは私を見やり
口を開いた
「どうせ、アイツと一緒に過ごそうと思っていらっしゃるんでしょう?
まったく、急に態度が変わると宮殿に仕える者たちも戸惑ってしまいますからー」
「急に態度がかわるとはどういうことだ?私のことか!?変わってなどおらぬだろうが!!」
「やはり、また入れ替わっていたのですね?」
横からミヌが入ってきた
「ミヌ・・ ドンハには言うでないぞ。あれがまた入れ替わっておることは内緒だ」
「変わってない?は?よく言いますねっ!!まったくー
あれほど同じ顔なのに、いったいどこがどう違うと言うのかー」
「そうですよね、私も初めて宮殿の庭でお見掛けしたときは本当に驚きましたよ。
世の中には、こんなに同じ顔をした者がいるものだろうか、と」
ーー !?
ミヌ・・?
いま・・・
なんと・・?
「だよな~?ミヌ。あれには本当にびっくりした!」
「ミヌ、今、なんと言った?」
「皇子?どうかしたのですか?」
私は、テジュンを遮り、ミヌの前に立った
「ミヌや、もう一度、申してみよ。」
「はい?・・・ さきほどの・・ですか?・・・世の中には、こんなに同じ顔をした者がいるのか、とー」
「その前だ!!」
「・・・ 初めて・・ ユリン様をお見掛けしたとき・・」
「違うっ!!」
「皇子?」
声を荒げる私に、テジュンが疑問を感じたのか問いかけるように名を呼んでくる
そしてミヌは、何かを考えこむように押し黙った
「・・・・・」
「どこで初めて見た、と言った?」
「皇子、何をそんなに声を荒げていらっしゃるのですか?私はお二人が本当に同じ顔をしていらっしゃると驚いたとー」
「おまえは、庭で見たとき、と言った」
「庭?あ~・・ ユリン姫を見つけて連れてきた者たちに出会ったのが、宮殿の庭をぬけたところでしたのでー」
「おまえがユリン姫ではなく、あれに初めて会ったのは、私が休んでいた宮殿の庭で、だったな?」
「・・・ 確か、そうであったように思います」
「ユリン姫の一行が襲われて、ユリン姫は行方知れずだと私に報告にきたときだ」
「・・・ はい」
「そこで私はあれを、ユリンとする、と言った」
「・・・ はい」
「その時のことを言ったのではないか?」
「は?」
「『初めて宮殿の庭でお見掛けしたとき、』・・ というのは、その時のことではないか?」
「は?まさかっ!何をおっしゃっているのですか?あの時はまだユリン姫とは面識などなくー」
「そうだ、だから聞いているのだ。なぜ面識のないはずのユリン姫の顔を知っておったのだ?」
「ミヌっ?おまえ、まさかー」
横からテジュンが入ってくる
「皇子!さっきから何をおっしゃっているのですか?テジュンまで・・・
それだと、まるで私がー」
「お前がユリン姫を襲わせた・・?」
「皇子っ!?」
「そうなのかっ?ミヌっ!!」
ミヌ・・・
違うと申してみよ
・
・
・
・
・
「・・・ 街へ?」
「ええ、そうよ。一緒に出掛けましょう?とお誘いしているの」
シンシア妃は、そう言うと麗しく微笑んだ
本当に綺麗なお姫様だなぁ~・・・
ミリョン皇子が惚れるわけよね
「せっかくのお誘いですが、シンシア妃・・。ユリン様は宮殿でやらなくてはならないことがございますのでー」
「そんなの、あとにすればいいわ?ねぇ、ユリン妃。私がユリン妃に似合う装飾品を選んで差し上げるわ?おすすめのお店もご紹介したいしー」
装飾品っ!?
おすすめのお店っ?
そういえば、前に皇子と街へ出かけたとき
何も買ってもらえなかったし・・・
「楽しそうっ!!」
「そうでしょうっ?」
私はいつの間にか、シンシア妃と手に手をとりあっていた
「ねぇダリ、いいでしょう?どうせ皇子は政務なんだし・・ そうだ!あなたも一緒に何か選べばいいのよ!!ねっ?」
「ユリン妃?何をおっしゃっているの?使用人に装飾品など必要ないわ」
私の提案を、シンシア妃があっさりと切ってきた
「え?でもー」
「それに、使用人に許しを請うなんて、おかしくないかしら?あなたはユノ皇子の妃なんでしょう?」
うっ・・・
いたいところを突かれた・・・
私たちの上下関係は確かにおかしいのかも
ダリもそれに気づいたようだ
「わかりました、では、今すぐに私も街へ出掛ける準備をしてまいりますからー」
「それは結構よ。私の供の者たちで十分だから。あなたはいつもの仕事をなさって?」
「え?いえ、しかし・・ 私はユリン様から片時も離れぬよう、ユノ皇子から仰せつかってー」
「まぁっ!!片時もっ?ユノ皇子がっ?」
どうしよう・・
もしかして、かえって驚かせてる?
片時も離れないように、って思われてる、って
私が怪しい人物だって言ってるようなものじゃない?
「ダリ・・。ここは、シンシア妃の申し出を受けましょう?」
「ユリン様っ?ですがー」
「あら、私の供の者たちでは、信用ならない、とでもおっしゃるのかしら?
それはミリョン皇子の宮殿の者を非難なさることと同じこと
ここの使用人がそのように思っているなんてー」
「申し訳ございませんでしたっ!!シンシア妃っ!!」
ダリが突然、跪いた
シンシア妃の前でー
「ダリっ!!」
私はすぐにダリの前にしゃがみこむと
「大丈夫だから、そんなことしないで。」
ダリの頭を上げさせる
そして、シンシア妃の方を振り返り
「シンシア妃、ごめんなさい、私の大事な者があなたにそんな失礼なことを言ったとすればそれは全部、いたらない私のせいなの。だから私が謝るわ?ごめんなさい。」
頭を下げた
「ユリン様っ!?」
「・・ そうね、あなたはまだ、ここには不慣れなようですものね」
ビクッ
「そうなんですのっ!!ですからシンシア妃?私に街の楽しさを教えていただけますか?」
私は立ち上がってシンシア妃の前で礼をした
「え?えぇ・・ そうでしょう?では、早速・・。行きましょう?」
「はいっ!よろしくお願いいたしますわ!!」
私はシンシア妃について歩きながら
後ろを振り返り、心配そうに見送るダリにウィンクをしてみせた
うまくはできなかったけど・・ふふっ
通じたかしら?
・
・
・
・
・
「・・ 違います、皇子。ユリン姫を襲ったのは私ではございません」
ミヌは強い瞳で私を見つめると
そう言い切った
「その言葉・・ 信じてもいいのだな?」
「もちろんでございます」
まっすぐ私を捕らえるその瞳は、嘘を言っているようには思えない
だがしかし・・・・
さきほどの狼狽えはなんだったのだ?
やはり、何かまだひっかかる・・・
「おい、ちょっと・・!あそこ・・ 下に見えるのは、ミリョン皇子の宮殿の者たちじゃないか?」
窓から下を見下ろしていたテジュンがそう言いだしたので
私もミヌも、窓際へと駆け寄った
「ミリョンの・・・?なぜだ?」
「ミリョン皇子の側近の者たちではございません。あれは・・」
ミヌがそこまで言うと
突然、ハッとし
「皇子!・・ ユリン様は?今?」
なぜかユリンのことを聞いてきた
「アイツなら、今頃ダリとー」
「おいっ、そのユリン様が出てきたぞ?隣にいるのはあれは確か・・ミリョン皇子の妃のー」
テジュンの声に、私は下を見下ろし、確かにその姿を確認する
がしかし、当然その傍に居るはずのダリの姿が見えぬ
バンッー
急ぎ、政務室のドアを開け宮殿の廊下を駆ける
「ダリッー、ダリはおらぬかっ!?」
私の声にすぐさま、ダリが駆け寄ってきて跪いた
「お呼びでしょうか?」
「おまえ・・ なぜ、ここに居る!?」
わけのわからない感情で身体が震える
「今、皇子がお呼びになられたのでは・・?」
「そうではないっ!!ユリンはっ?ユリンが出掛けるのを見た!」
「ユリン様は、シンシア妃と街へー」
街へ・・?
「お前は何をしているのだっ!!片時もあれの傍を離れるな、とー」
「ですが皇子・・ シンシア妃が自分の供の者が信じられぬかと申されましてー」
「皇子っ!!私は先に参りますっー」
そう言ってミヌが横を駆け抜けて行った
ミヌ・・?
何を焦っておるのだ・・?
「皇子もすぐにいらしてくださいっー」
ふんっ・・
言われずとも、向かうわっー
「あの・・皇子・・ ユリン様は誘われたので、街へお出かけしてシンシア妃にここでの生活を色々教わろうと・・」
ここでの生活を色々教わろうと・・?
ここでの・・・
「そんなもの・・ 私が教えてやるのに・・・」
「それにユリン様はその・・装飾品が欲しかったのだと思います」
「装飾品・・?」
「シンシア妃が似合うものを選んでくださるからと」
「はん?それこそっ・・・ 私が選んでやるわっー」
なぜ、他の者から教わろうとするのだ
それはみな
私が教えてやるというにっー
・
・
・
・
・
「お待ちくだされっ!シンシア妃っー」
突然誰かが駆けてきた、と思ったら・・・
「ミヌっ?」
ミヌが、いきなりシンシア妃たちの一行の前へと立ちはだかった
「そなた・・・ 何を?」
シンシア妃は、突然目の前に現れたミヌに怪訝な表情を向けた
「恐れながら申し上げます。ユリン妃は、これよりユノ皇子と約束がございましてー」
「約束?ユノ皇子と?・・ですって?」
シンシア妃がこちらを振り返る
あったっけ?そんなの・・・
「そんなこと、さきほど私が伺ったときには誰も何もー」
「悪いな、シンシア妃」
ひぃーーーーええぇぇーーーー
いつの間に?
いや、確かに駆けてくる足音が聞こえてたけど
「お・・皇子・・」
「ユノ皇子っ!!?」
私の震える声なんて、シンシア妃の嬉声で掻き消された
「まぁユノ皇子、ごきげんよう!」
「・・・・・」
そんなシンシア妃に、ジロリと一瞥をくれるだけで
皇子は私の横へとすっとやってくると
「私に黙って出掛けるとはー」
グイッと私の腰を引き寄せ
頭に軽く口をつけた
ドキッ
バクバクバクッ・・・
「おっ//// 皇子っ?」
照れる私は、そんな姿をシンシア妃がどんな顔で見つめていたのか
気づくことができないでいた
「シンシア妃、せっかくのお心遣いだが、今日のところは遠慮申し上げる。」
「・・ ユノ皇子に言われましたら、しょうがございませんわ?」
「すまぬ。」
「でしたらまた、今度はきちんとユノ皇子の許可を得て、お誘いさしあげますわ。それならよろしいのでしょう?」
「うむ。・・・ そうしてくれるか」
「もちろんでございます。わたくしも、ユリン妃と親しくなりたいと思っておりますので」
そうなのっ!?
シンシア妃ったら・・・
なんていい人なんだろうっ!!
「シンシア妃っ!私も親しくなりたいと思っておりますっ!!ぜひぜひ、よろしくお願い申し上げますっ!!」
「・・・・ ええ。それとユノ皇子、今日のお詫びに、とお願いするのは気が引けますがー」
「ああ、よい。何かご所望であるのならー」
「ご自慢の庭園でお茶をー・・・ ご一緒にいただきとうございます」
・・・え?
庭園でお茶を?
ご一緒にって・・ 皇子と?
「あいわかった。今度、席を設けるとしよう。」
「ありがとうございます。ご招待状が届くのを心待ちにしておりますわ」
え?え?
なに?
これって、いいの?
だってシンシア妃はミリョン皇子の妃なのよね?
「では、ユノ皇子。ごきげんよう^^ ・・・・ ユリン妃も^^」
「・・・ごきげんよう」
今の・・
絶対、私っておまけって感じにしか聞こえなかったんですけど
ちょっと待って?
シンシア妃って、確かユノ皇子のこと好きだったって
ミリョン皇子から聞いたけど
それはもう、過去の話なんだよね?
今はミリョン皇子のこと・・・
っていうか、この人、気づいてるの?
シンシア妃の想いに・・・
え?
まさか、この人もシンシア妃を?
ええーーっ
そしたらミリョンとライバル?
待って待って!!
ミリョン皇子の正妃がヨンア妃だってまさか・・・
ユノ皇子がシンシア妃と・・
ああーーっ
もしかしてそんな道ならぬ恋に落ちて
それがバレて王宮追放
そうしてユノユノ皇子の記述が書物になかった・・・
「・・・ さっきから何を考え込んでいるのだ?」
ビクッ
「何度も呼んでおるのに、ブツブツと・・・」
「・・・・・・・・」
だって・・・
私、わかっちゃったんだもん
「・・ ダメ。ダメよ、皇子」
「・・は? 何がダメなのだ?」
「シンシア妃はダメ。ミリョン皇子の妃なのよ?それなのに好きになるとかー」
「はあぁ~?シンシア妃を私が?何を言い出すのかと思えば・・」
「え?あっ・・ やばっ、私、声に出てたっ?」
頭の中で考えてるつもりだったのにー
「皇子が突然声をかけるからっー」
「なんだ?妬いておるのか?」
「えっ?ちがっ/////」
「ミヌ!」
「ハッー」
突然、皇子はミヌを傍へ呼びつけると
何やら耳元に囁いて、すぐに走らせた
「さて・・・」
ドキッ
気づくと、まわりには誰もいなくなって
皇子とふたりきり
いや、離れたところにテジュンたちがしっかりいるけど
でも何だか恥ずかしくなってきた
皇子は何を言い出すんだろう?
「あの・・ 皇子と何か約束って、してたっけ?」
私は見上げるようにして問いかける
「忘れたのか?では、思い出させてやろう。じっくりと・・・ 時間をかけてな」
ゾクッ・・
なんだろう?
悪寒・・?
いや違う
どきゅんってしすぎたんだ
だって・・・
皇子の私を見下ろす目が・・・
めちゃくちゃ色っぽかったんだもん
つづく・・・・