「ユリン妃が、部屋に籠ったまま、出てこないと?」

 

 

 

宮殿に戻るなり、ダリに泣きつかれた

 

 

「そうなんです!誰も入るなとおっしゃって・・・お食事もとってくださらず・・。このままではお身体にさわります!」

 

 

「そんなことを私に言われても・・・」

 

夜露ですっかり湿った服を着替えている最中も

離れたところから、ダリの小言は止まらない

 

 

「皇子に言わずして、誰に言えとおっしゃるのですかっ!?」

 

「・・・・・・・・」

 

「朝、食事を終えて庭園に散歩に行かれるまでは、いつもと変わりませんでしたのに・・・」

 

「庭園に散歩・・・」

 

 

 

そこは、アイツと変わらないのだな・・

 

 

「皇子?」

 

「いや、すまぬ。・・それで?何かあったのか?」

 

「ミリョン皇子とヨンア妃に会われたということは、ボンソンから聞いてますが・・・」

 

「二人と庭園で何を話したのだ?」

 

「そこまでは・・。皇子からミリョン皇子に聞いてみていただけるとー」

 

「は?なぜ私がー」

 

 

ダリのジッと見上げるその厳しい視線

 

 

「あー、わかったわかった。それは今度また、聞いてみることにしよう。

今宵は霧が深い。皇子の宮殿まで出掛けるのは無理だ。

とりあえず、ユリン妃の部屋に行ってみるとしよう」

 

 

私の言葉に納得したのか

ダリが下がった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私はなぜ、ヨンア妃を正妃だなどと思ったのだろう?

 

 

それにー

 

 

 

ーー ヨンア妃のことを忘れてしまったのかい?

 

 

 

あれはまるで・・・

 

私がヨンア妃と初めて会ったのではないかのように言われた

 

いや、そもそも、ここにきてからずっとそれは感じていた

 

誰もが以前にも私に会ったことがあるように接してきて

 

そして、なぜか遠のいていく

 

 

それはまるで・・・

 

 

別人と確信でもしたかのように・・・・

 

 

 

ということはなに?

 

ここには、私ではなく、誰かが居たということ?

 

しかもそれは私とまるで同じ顔をした別人

 

 

 

いやいや、そんなことそもそも、あるわけがない

 

そう、あるはずがないのよ

 

 

でも私には、あのー

 

襲われてから戻ってくるまでの間の記憶がない

 

気づいたらー

 

 

 

 

コンコン

 

「・・ ユリン妃?」

 

 

 

皇子っ!?

 

 

帰っていらっしゃったの?

そして今、私の部屋を訪ねてくださっている?

 

 

私は慌ててドアの前まで駆け寄る

 

 

コンコン

 

「・・・ ユリン妃、私だ。開けてくれないか?」

 

 

 

ガチャ

 

 

私は、扉をあけて、皇子を招き入れた

 

 

 

「皇子・・ 尋ねたいことがあるのです。」

 

「どうした・・?」

 

 

あ~・・

なんて素敵な皇子・・・

 

こんな近くでお顔を見るのは

いつぶりでございましょう?

 

 

私は、空いたままの扉を背にして立ったまま

皇子に尋ねた

 

 

「もしかして・・ 私がこちらに参る以前に、ここには・・・

どなたかが、いらっしゃったのですか?」

 

 

「・・・・・ っ !!?」

 

 

 

 

皇子の顔が明らかに動揺でいっぱいに・・・

 

目は驚きで見開いている

 

 

「・・・ やはり。いらっしゃったのですね?しかもそれは・・・

私と見紛うほど、同じ顔をしている・・方なのでは?」

 

 

「・・ どう・・してそれを・・?」

 

 

・・・・!!!

 

 

 

いまだかつて見たこともないほどの皇子のこの動揺・・・

 

皇子が私と寝所を共にしてくださらない理由・・・

疑惑が確信へと かわっていく

 

 

 

「もしかして・・・ 皇子はその方を・・・?」

 

 

「なっ!? 何をっー」

 

 

ダッー

 

 

「ーー ユリン妃っ!?」

 

 

 

走り出していた

 

 

廊下を駆ける

 

 

行き交う人たちが皆、すれ違いざまに驚きの声をあげるほど

 

私は駆けていた

 

 

・・・ 私ではないーー

 

 

ここで求められているのは

 

 

「・・・ うっー」

 

 

私では・・・・ ない・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ 皇子。先ほど、すごい勢いでユリン妃が駆けて行かれましたけど?」

 

 

 

立ち尽くしていた

 

ユリン妃のあとを追いかけることもできずに・・

 

 

 

「テジュン・・ ユリン妃を追いかけて、連れ戻してきてくれ」

 

「・・・ 私がですか?」

 

「今宵は霧が深い。外に出てしまってはー」

 

「そう思われるのでしたら、ご自分で行かれては?」

 

「・・・・・・・・・」

 

「皇子! しっかりしてください!ユリン妃は、あなたの妃なのですよっ!?」

 

「・・・ わかっておる」

 

「わかってませんよっ!!最近のあなたの態度はどうかと思いますねっ!!

だいたい、ユリン妃と寝所を共にされたことありますっ?

昼は昼で、政務だとか言って私と出掛けてばかり。これではユリン妃だってー」

 

 

 

バタバタバタバタッー

 

「皇子っ!! ユリン妃が宮殿の外に出てしまわれたそうですっー」

 

 

「すぐ行く!テジュンっ、皆にも言ってー」

 

「わかってます、皇子っー 総動員で探し出しますっー」