ーー リン・・
「・・・ん・・」
ーー ユリン・・
誰?
誰かが呼んでる・・?
ーー ユリナァーーーーッ
ガバッ
「・・・ ハァ・・ ハァ・・ ハァ・・・」
朝、布団の上で飛び起きるように目覚めた
なぜだか息苦しくてパジャマの上から胸元を抑える
「あ、実家かぁ・・・」
昔懐かしい実家のベッドの上
何だかすごい生生しい夢を見た?
誰かが私のことを呼んでるように感じたけど
でもその名は、私の名前じゃなくって・・・
「・・・ ユリン?」
あれ?
この名前ってどっかで・・・
「ああーーっ!!」
昨日、交番で自分を誰かと間違えたあの男の人が、そう呼んでたような・・・
「・・・でも違ったかな? ユナ?・・ユ・・ あー、確かじゃない・・」
自分の記憶力のなさに嫌気がさして、ベッドから降りると
部屋のドアをあけた
朝から卵焼きとお味噌汁のいい匂いがしていて
ぐぅ~
お腹の虫も騒ぎ出す
「おはよー、お母さん・・」
「今頃起きてきて、おはよう、ですって?はいはい、とっとと顔洗ってきなさいな」
「・・・・・うん」
今頃起きてきて?
時計を見ると、もう10時をまわっていた
うわぁ~
よく寝たなぁ~・・
そういえばあの人・・・
彼女さんと会えたんだろうか?
ちゃんと帰ってきてたかな?
ふと思い出し、気になってきた
って、どこに住んでいるのかもわからないのにね
ご飯を食べてまったりしていると
コーヒーを淹れて一緒に座った母が、にこにこ笑って話しかけてきた
「いい機会だから、ほら、おばちゃんのおすすめのお見合い、してみる?」
「・・・ はぁ?」
いったい何がいい機会なんだか?
「いやいや、なんで?無理無理無理・・・」
ガタガタッー
私は椅子から立ち上がり
「ちょっとそのへん、散歩してくる~」
「・・・ はいはい」
ため息交じりの、そんな声が背中に刺さるのを無視しつつ
私は玄関で靴を履くと、天気のよい外へと出掛けた
ん~~
やっぱり実家っていいなぁ~
空気が美味しくって・・・
ーー さま・・
「ん?」
くるっ
声がしたような気がして振り向いてみる
・・けど、誰もこっちを見ている人などいない
なぜだろう?
久しぶりに歩いているのに
こんなふうに歩くことが、全然久しぶりのような気がしないのは・・・
頬にあたる心地よい風を感じながら
香る木々の匂いを嗅ぎながら
とぼとぼと歩いていた
うわっ!うそっ!!!
近くの公園にでも、と歩いていたら
ベンチに座る人影がー
どこから来たのか、しっぽを振って懐く犬に、話しかけているようだ
まさに、さっき気にかけた・・・
昨日会った変な人
じゃなくって、彼女さんを捜していたイケメンさんだった
「こんにちは^^」
近寄って声をかけると
「あ?・・ あぁー!」
犬の毛をわしゃわしゃっと触りながら
こっちを振り返り
すっごい笑顔を飛ばしてきた
・・・うわっ、眩しいっー
「彼女さん、帰ってこられました?」
どうぞ、とあけてもらったベンチにかけながら
気になっていた質問を何気なくした
「ん?・・・ いや。」
彼は、こっちを見ることもなく
犬の毛を撫でながら、そう返事をし
「きっと・・・ あっちへ帰っちゃったんだ・・」
なんて言葉を続けた
「・・・ あっち?」
って?別に帰る場所があったってこと?
あ・・・もしかして、不倫とか!?
「ごめんなさいっ、私・・ 何気なく聞いちゃってー」
「いや、大丈夫だよ、ハハ」
全然大丈夫そうにない顔でそう言われても・・・・
「キミ、少し時間ある?」
「はい?」
「よかったら僕の話・・ 聞いてくれる?」
このとき私は・・・
なぜだか、この人の話を聞かなきゃならないような
そんな気持ちにさせられ
気づいたら、首を大きく縦に振っていた
彼の話はこうだった・・・・・
「僕が昨日捜していた彼女はね? もともと、こっちの人じゃなかったんだ・・」
こっちの人?
さっきは、あっち、とか言ってたけど・・・
「ある日突然、僕の前に現れて・・・ 自分が現れたくせに、ここはどこっ?て大騒ぎして・・ハハ
最初は警察に連れて行こうとしたんだけど、助けてほしいって言われてね?」
「それで、助けてあげたんですか?なんか、とても怪しい感じがしますけど・・・」
「だよね?何せ、着ている服も全然かわってたしね。でも、どこか憎めなくって・・・」
彼は、犬の頭をなでながら、優しそうに微笑み、それでも視線はどこか遠くを見ている感じがした
「誰かに追われてたりしたんですか?」
助けてほしい、って・・・
「うん、自分はこの国の皇子に嫁ぎに来たんだ、って。でもその途中、盗賊たちに襲われて、ついてきた者たちは皆、死んでしまった、て言いだしたんだよね」
「・・・・・・」
「おかしいよね?この国には、皇子なんていないのに・・・。でも、不思議と彼女の頭がおかしいんだろう、なんて思えなくてね」
なんだろう?
さっきから・・・
ドクンドクンって心臓が・・・
「この国って・・ なんていう国なの?って聞いたら、トンバン王国よ、知らないの?って」
ドクンッ
・・・ トンバン・・・ おうこく・・・
「ユノユノ皇子の妃になりに来たんだ、って。それを聞いて僕さ、びっくりしちゃってー」
ドクドクンッー
ユノユノ・・?
なんだろう?
とても胸が・・・
「・・・・ キミ、大丈夫?何だか顔色が悪いけど・・・」
「いえ・・ 大丈夫です。それで?どうしてびっくりしたんですか?」
「え?あ~ 僕、ユンホって言うんだよ、名前。だからドキッとしちゃってね?」
照れ笑い?
何だかとっても可愛い、って思うのはおかしいのかな?
「それともうひとつ!僕ね、こう見えても、大学で考古学を研究していてね?
トンバン王国っていうのは、アジアの古き時代にあったのではないか、と言われている国のひとつなんだ」
ドクンッー
あ、まただ・・・
なに?この胸の苦しさはー
トンバン王国・・・
ユノユノ皇子・・・
嫁ぎにきたときに盗賊に襲われ行方知れず・・・・
「・・・・ ユリン・・・」
「え?どうして彼女の名前・・・ あ、昨日僕、呼んじゃったんだっけ?間違えて君のことー」
ーー ユリナァーーーーッ!!
ギュンッー
「・・・ 大丈夫?本当に顔色がー」
覗き込むように彼の顔がアップで迫ってきた
「・・・ おうじ・・・」
そうだ!
この人、皇子の顔にそっくり!!
「・・え?」
「お・・もいだした・・ ぜんぶ・・・」
「思い出した、って・・ ?」
「ユリン!ユノ皇子!テジュン!ダリ!ボンソンっ!!あああぁぁぁぁぁーーーっ」
「え?なに?きみ、ユリンのこと知ってるの?え?どういうこと?」
「ユンホさんっ!わかります、私!ユリンさんのこと知ってます!!え?なに?どういうこと?じゃあ私はー」
「ちょっと待って、僕にもわかるように話してくれないかな?」
ぐいっー
ユンホさんに肩を掴まれた
そして、その強い瞳に大きく肯くと
私はー
思い出したこの2週間ちょっとの間の話を、ユンホさんに語った