・・ん・・
「えっ・・?」
目に映った光景は、さやかと行ったテーマパークではなかった
「私・・・ 寝てた?」
見慣れぬ街並み、道路標識、様々なものを見て歩きながら
携帯も財布も持っていないことに気づき
近くに交番はないか、と尋ねて回った
幸いなことに、すぐ近くにそれはあった
「ほんとなんですよ、おまわりさん!彼女、まだこのへんの土地に慣れてなくて
ひとりでどこかへ行く、なんてことしないはずなんです!
だからきっと、誰かに誘拐されたとかに決まってるんですよっ!
お願いしますっ、彼女を捜してくださいっー」
交番の近くまで行くと
中から聞こえてくる大きな声
誘拐?
物騒な話・・・
と思いつつ、その入り口に立つと
「あの~、すみません・・・」
私は制服を着たおまわりさんに声をかけた
「電話を貸してもらえませんか?携帯と財布をなくしちゃったみたいで・・・」
「え?いいけどキミ、大丈夫?その恰好・・・?」
「あ!えと、これは貸衣装っていうかー 大丈夫なんです!」
自分でも気づいてびっくりしていた
あのテーマパークで借りて着ていた衣装とも違った服を着ていたから・・・
「じゃあ、どうぞ、これ使って」
デンッとばかりに固定電話を目の前に出されると
私はテーブルの前の椅子に座り、実家の番号を押す
悲しいかな、いまどき、番号を覚えているって、実家の固定電話くらいなものよ
「え?ユリン?」
さっきまで大声を出していた男の人がこっちを向いて驚いた顔をしたかと思うと
「やー、もうっ!心配したよっ なんだよ、その恰好・・ 初めて会ったときみたいだな。
おまわりさん、すみませんでした。彼女です、見つかりました!」
さっきまで座っていたところから、隣まで移動してきて
何やら私に話しかけてきてる?
「・・・ あなた、誰ですか?」
人違いしているようだ、ってこと教えてあげなきゃ
まだコール音がしている受話器を耳に当てたまま
男の人の方を振り向いて、私は質問した
「え?誰、って・・ ユリン?」
「私、大野りかですけど」
まっすぐ目を見てそう答える
「・・・・・ おーの・・ りか?」
コール音がとまり、電話の向こうで受話器をとったのを確認すると
「あ、もしもし?お母さん?私だけどー」
それだけ言うと
受話器の向こうで耳をつんざくような大声が上がり
私はちょっとだけ、それを遠ざけた・・・
交番の場所を教えると、すぐ迎えに来てくれるというので
おまわりさんに事情を話して、両親を待つことになった
どうやらここは、意外と実家に近いようで
助かった!
飾ってあった日めくりカレンダーを見つけ
私がテーマパークに行った日から2週間ちょっと過ぎていることに気づく
「え?・・・・」
なんか、やばくない?
いや、そもそもやばそうなことはすぐわかったよ?
電話に出たお母さんも、尋常じゃないほど声をあげてたし・・・
目を開けたら知らないところにいるって
普通ないよね?
私・・・
何をしてたの?
もしかして2週間ちょっとの間って行方不明とかだったりして・・・・
ゾッ
全身に鳥肌が立つ
「・・・ ほんとに別人なんだね。僕の知り合いの彼女には、こっちで電話をかける相手なんていなかったから・・。
いや、そもそも、電話も知らないか、ハハハ」
突然、そんな声が聞こえ、隣の男の人が寂しそうに笑った
この人、まだ居たのか
「その人って・・ 私に似てるんですか?」
「うん、とてもよく。でもそうだね、話してみると全然違う。悪かったね、変なこと言って・・・。」
「いいえ、その人・・ いなくなっちゃったんですか?」
「うん・・ 僕がちょっと出掛けてて、戻ってきたらいなくなってたんだ。」
「え?じゃあ、もしかしてもう、普通に帰ってきてたりするんじゃないんですか?」
「そうかな?・・・・ そうだといいんだけど・・・」
「電話とかしてみたらー」
「持ってないんだよね、そういうの。」
あ・・・
そういえばさっき、電話する相手がいない、って・・・
この土地にも慣れてない、とか聞こえてたし・・・
何か深い事情がある人なのかな?
この人・・・
よく見るとすっごいイケメンさんだ
顔だちも日本人離れしている
あ!外国人かっぽ~?
「早く会えるといいですね」
「そうだね。彼女、不慣れな土地で迷子になってたりしたら
絶対心細い思いをしてると思うんだ」
とっても彼女さん想いなんだな・・
「とりあえず、帰ってみたらいいと思いますよ?」
「・・・ そうしてみるよ。」
ガタガタッと音を立てて、彼は椅子から立ち上がった
「あ、ところで・・・」
歩き出す前に、再びこっちを見下ろしてきた
つられて私も顔を上げる
「その服、どうしたの?」
「え?あ~・・ それが私にもよくわからなくて・・・」
「・・・ え?よくわからないって・・」
「りかちゃんっ!!!」
大きな声が聞こえたかと思ったら
視界に入ってきた母親が
みるみる大きくなってー
ぎゅ~~~ってこれ以上もないほど強く抱きしめられた
「・・・ あんたはもう~、どれだけ心配したと思ってるのっ!!」
「・・・・・・・・」
「・・・ よかった、よかった・・」
お父さんは、私とお母さんの上から腕を回すと
ゆっくりそう言った
やだなぁ、もう・・・
安堵したのか、突然涙が溢れ出て
止まらなかった・・・
おまわりさんに挨拶をすると、両親が乗ってきた車で
私は久々の実家に帰った
実家に着くまで、後部座席で私の隣に座った母は
ずっと手を握って離さなかった
私・・・
どれだけ心配をかけたんだろう?
「あなた、どこに行ってたの?さやかちゃんから連絡があって
あのテーマパークも随分探したのに、全然見つからなくて・・・」
今日までの様子を話してみせる母
がしかし、私自身、どこで何をしていたのか
全く思い出せない、と伝えると
また顔をしかめたが
ケガなどしている様子もない私にどこか安心したのか
そのうち思い出すでしょう、とにかく見つかってよかったよかった、と抱き締めてくれた
母にこんなに抱き締められるのって
何年振りなんだろう?
いい年をして・・・
もしかして、赤ちゃんの頃以来なんじゃないか?
なんて思うと、ちょっと熱くなった
実家には、私の携帯も財布も着替えも
あのとき、テーマパークで預けた全てがあった
私は充電された携帯でさやかに連絡をすると
今度の休みに会いにくる、と泣かれた
つられて私も泣いちゃった
「この服、洗ったらあのテーマパークに返しに行った方がいいかしら?」
家に帰ってシャワーを浴び、着替えるとともに
洗濯機の横に脱ぎ捨てた服を手にした母が居間の方へやってきた
「あ、それ・・・・ 置いておいて?多分、テーマパークのじゃないから」
「そうなの?」
あ・・
また怪訝な顔、させちゃった
「うん、それに、何かの手掛かりになるかもしれないし」
「あー、それもそうね。じゃあ、とりあえず、洗濯だけしておくわ」
「うん、お願い」
この2週間ちょっとの間、そんな物騒な目に遭っていたような気がしないのはなぜなんだろう?
シャワーを浴びたときも、思いのほか自分の身体が綺麗な状態なのにびっくりした
私はちゃんと、お風呂も入っていたようだ
いったい、どこでお世話になっていたのだろう?
庭の見える縁側に座ると
子供の頃のように、足を伸ばしてみる
もう、ぶらんぶらん、なんて出来ないけど
裸足の足は、お日様を感じながら、気持ちよく伸びていた
庭には
母が植えたご自慢の花々が彩り鮮やかに咲いている
「ほんと・・ 綺麗にしてるよね~・・」
ーー っ!?
その時、庭の花々とは違う・・
もっと広い庭園に咲き乱れる花々の様子が脳裏に浮かんだ
・・ どこ?
今の・・・
「ねー、仕事も探してるとこだし、せっかくだからこのまましばらく家に居なさいな」
背中に投げられる母の声
父は私と母を家において、仕事へと戻った
「うーん、そうだね~」
それもいっか、なんて思っちゃうのは
甘えたな自分
「お茶入れたから、こっち来て飲みなさい?」
「はーい・・」
庭の花の香に、名残惜しさを感じつつ
足をしまうと
そのまま立ち上がる
ーー っ!?
誰かに呼ばれたような気がして、再び庭を見下ろすも
そこに誰かがいるわけもなく
「・・・ 気のせいよね」
私は母が入れてくれたお茶を飲むべく、縁側をあとにした
・
・
・
・
・
その夜は、お父さんがケーキを買って帰ってきた
「なぜにケーキなの?」
そう聞く私に、いいだろうが、と照れ臭そうに答えると
着替えを持って一番風呂へと消えていった
父は昔から、家に帰るとまず風呂、という人である意味、潔癖症なのかな?
本人曰く、ただの汗かきなんだ、ってことだけど・・・
変わらない実家の団らんに、胸が熱くなる
こんなふうに思うのなら、ほんと・・ いっそのこと、実家に戻ってこようかな?
なんて考えが浮かぶのは、もしかして消えた2週間ちょっとの影響なのかもしれない・・・
なんて思うのは、全然お門違いなのかな?
お風呂に入っている父を待つ間
リビングで流れるテレビ番組に見入っている母の隣に座り込む
「何見てるの?」
「これこれ、お母さんね、この番組、好きなのよね~」
つられてみると
そこには・・・
大きな池の水を抜いていく作業が映し出されている
ドクンッ・・・
「りかちゃん、これ、観たことない? 池の水を全部抜いちゃうの」
ドクンッ・・・
ドクンッ・・・
何これ?
なんか・・・
心臓が・・・
「私これ・・・ 見たことある・・・」
「あ、やっぱり?結構人気よね?」
だんだんなくなっていく水・・
この工程・・・
私・・
ずっと見ていたような気がする・・・
それは、こんなテレビ越しなんかじゃなくってー
水の匂い・・・
風の匂い・・・
木々の匂い・・・
ーーー んさまぁ~
誰かが・・・
誰かが私を呼ぶ声?
ーーー んそなぁ~
私が誰かを呼んでる・・・?
「・・・ りか? りかっ?大丈夫?」
突然、身体を揺さぶられた
ハッー
「りか、どうしたの?何だか顔色が悪いけど、病院に行くっ?」
「ううん、大丈夫・・ ごめん・・」
今、何か思い出しかけた・・・
ような・・・?
・
・
・
・
・
「ごちそうさま、おやすみなさい・・・」
父と母に挨拶をすると
私は今でもちゃんと残っている自分の部屋へと入った
ベッドの上にダイブする
ぼすんっ!
「・・・・ ん~・・・ ここまで出かかってる感じがするのに・・・」
消えていた2週間ちょっとの間
私が居た場所・・・
庭には花が咲き乱れ
それは、うちの庭くらいのレベルじゃなくって
歩いても歩いても続く広い感じでー
大きな池の水を抜いて
掃除をするんだ、って・・・・・
「・・・ 誰が?どこの?」
はぁ~~・・・
ダメだ
思い出せない・・・
「とにかく寝よう、疲れてるはず。こんな時は、寝るのが一番!」
がばっ
布団に潜り込む
私は・・・・
あっという間に眠りに落ちた
つづく・・・