ユノ皇子の宮殿に帰ると、みんなが何やら、慌ただしく動き回っている
「あ、ユリンさまっ!」
私を見つけたダリが駆けてきた
「申し訳ございません、そろそろ庭園の方へお迎えに上がろうと思ってはいたのですが・・・」
「いいんです、そんなの。それより、みんな、何をこんな忙しそうにしているの?」
「ドンハ様が夕刻、お戻りになるとミヌ様より連絡が入りまして・・・」
「・・・ ドンハ様?って誰?その人、偉いの?」
「ユリンさまっ!しっー」
ダリはそういって、私を隅の方へと連れて行くと
小声で話し出した
「偉いの?ってそりゃあもう、言ってみればこの宮殿で一番偉いと言っても過言ではございません」
「え?一番偉いの、ってユノ皇子じゃないの?」
「それはそうなんですが・・・」
「あ~・・ そうか!なんかわからないけど、ここのすべてを牛耳ってる爺やみたいな人ね?」
「ジイヤって、なんです?そんな方はこちらにはいらっしゃいませんが?」
「ごめんごめん、えと・・もののたとえっていうか・・・」
「ドンハ様は、テジュン様のお父上で、ユノ皇子がご幼少の頃から、いえ、お生まれになる前からこちらに仕えていらっしゃる方で・・」
「あー、やっぱり!わかったわ、やっぱり爺やね?」
「だから、ジイヤというお名前ではございません」
「あ、それよりダリ!私、街に買い物に出かけてみたいの!シンシア姫が、ダリに言えば簡単だって・・」
「何をおっしゃっているんですか!!街に買い物に出掛けたいだなんて・・ 無理に決まってます!!」
「えー、なんでなんで?だってずっと宮殿にいるだけなんて、息が詰まってつまんないんだもの」
まるで駄々っ子のようにダリにすがりつく私を
ダリはなだめるようにして、さらに小声で続けた
「いいですか、ユリンさま。今、貴女のおかれている状況をお考え下さい。
ユリン姫は、この宮殿に来る途中、何者かに襲われ、行方知れずなんですよ?」
「あ・・・」
そうだったぁ・・・!!
本物のユリン姫は、襲われて・・・
「今、どこにいるのかしら!!」
「ユリンさまっ!」
んぐっー
今度はダリに手で口を塞がれた
「発言には、お気をつけくださいっ!」
あ・・・
私は、目で思いっきり謝る
すると、ダリも手を離し
「私の方こそ、手荒な真似をして申し訳ありませんでー」
ぎゅっー
詫びるダリの胸の中へと飛び込むと
そのままダリの身体をぎゅっと抱き締める
「・・・ ユリン様?」
「・・ ・・・」
言葉は出なかった
ただ・・・
ただ、ダリに抱き着きたくて
「・・・ まったくもう~・・・ しょうがないですね・・・」
ダリはそんな私の心中を、知ってか知らでか
私を抱き締めると、背中をポンポンッと叩きながら
まるで小さな子供をあやすかのように
少しだけですよ?と呟いた
ぽんぽんっ・・・
「ユリンッ、どこにいるっ?・・・ ユリナーーーーーッ!」
ハッ!!
皇子の声だ
「きっと、誰かから、ユリン様が宮殿に戻られたことを聞かれたのですわ?」
顔を上げると、
ダリがそう言って微笑み
そっと私の頬をエプロンの裾で拭ってくれた
「ありがとう・・ ダリ」
私は、ダリの手を両手で包み、笑顔を返すと
皇子のところへ走った
「ドンハ様っていう、テジュンのお父様が戻ってこられるから大変なんでしょう?」
「なんだ?聞いたのか」
「さっきダリに。・・ だって、みんなが右往左往、走り回ってるから何かあったのかな?って・・」
「そうだな、ドンハが宮殿を留守にすると皆、ちょっと気を抜いているからな」
「皇子も?」
「は?」
ユノ皇子と並んで宮殿の中を歩くと
すれ違う人たちが皆、一度立ち止まってお辞儀をして
また歩き出す
忙しくしているのに、なんだかいちいち申し訳ない
と思っても、皇子相手なんだからしょうがないんだろうなぁ~
つられて私もお辞儀を返しながら歩く
「ドンハ様って怖い?」
「・・・・ ん~、どうかな?」
「私、大丈夫かな?」
「何が?」
「何が?って・・ だから・・ほら、なんていうか・・」
さっきダリに怒られたばかりだから
身代わりだとか、そういうこと言えないし・・・
「今まで庭園に?」
困って口ごもっていると
皇子が怪訝そうな顔でそう聞いてきた
「そうだけど・・?」
「・・・・ ずいぶん庭園が気に入ってるんだな」
「だって他に行くところがないんだもん・・」
ハッー
何だかスネたような言い方になってしまった・・!
怒られるっーー
「あの、今のは別にスネたわけじゃないのよ?
ほら、たまにはどこか・・街にでも出かけてみたいな?
とか思ったりしたんだけど、そんなのダメだってさっきー」
「街に・・?」
あれ?
ミリョン皇子やダリとはちょっと反応が違うような・・・
「ユノ皇子!こんなところに・・・ 」
テジュンがやってきた
そろそろドンハ様とやらが戻っていらっしゃる時刻らしい
「テジュン、ユリンと出掛けてくる。」
えっ?
出掛けるって・・ まさか・・・
「はぁ?今、父が戻ってくる、て言いましたよね?それに、お出掛けになられるのでしたら、私もご一緒に・・」
「おまえはダメだ。ドンハの相手をしろ」
「そんなっ!でしたらせめて、ミヌでもー」
「ミヌにはドンハを迎えに行かせている。どれ、街で会ったら挨拶くらいしておくとしよう」
「はぁ~?街ですか?街にってまさかふたりだけで?」
ええーーーっ?
やっぱり?
え?え?
いいの?
私を街に連れて行ってくれるの??
「その方が目立つまい。」
そういうとユノ皇子はテジュンに背を向け
私の肩を抱いて歩き出す
「いいの?」
「なんだ?嫌か?」
私は大きく頭を横に振った
「ううんっ、ぜんっぜんっ!嬉しいっ!ありがとう!皇子!!」
「・・・ テジュン様? 皇子とユリン様はどちらへ?」
「街へ。」
「はい?」
「街へふたりで出掛けてくるんだとさ。伴もつけずに全く・・・」
「テジュン様?尾行なら、バレないようにお気をつけて」
「は?おい、ダリ、お前、俺を誰だと思ってー」
「だって皇子がいつもおっしゃってましたよ?テジュンの尾行はいつもバレバレなんだよな、って」
「くっそ!あの皇子ぃ~」
「ほら!急がないと見失いますよっ?」
「お、おうっ、わかった・・ じゃあ、後のことは任せたっー」
「・・・ はぁ~。任せられたくはございませんが・・・。」
しょうがないですよね・・・
ユリンさま?