季節の花が咲き乱れる庭園を歩いていると

そよぐ風に運ばれた花の香りが、想像以上に気持ちよく

 

それと共に、実家の庭先に花苗を買ってきてはせっせと楽しそうに植えていた母のことを思い出した

 

ーー りかちゃん、これ、どっちに植えた方がいいと思う~?

 

 

 

「・・・ お母さん・・・・・」

 

 

口をついて出た言葉に

頬を伝う涙

 

自分はなぜここにいるんだろう?

 

どうしてひとり、こんな・・・

誰も私のことなど知らないところへ・・・

 

毎朝、目覚めるたびに確認する

ここはどこ?って・・

 

そしてそのたびに目に映る景色が昨日と変わらないことに

がっかりしている

 

 

 

「ユリンさま?・・・ どうかなさいましたか?」

 

「っ?」

 

 

突然、背後から声をかけられ、驚いて振り返ると

そこには、心配そうに私を見つめるボンソンが立っていた

 

 

「ボンソン・・ ううん、なんでもないの。ちょっと風に煽られ、目にゴミが入っただけ」

 

「えっ?大丈夫ですかっ? ゴミはー」

 

「大丈夫、大丈夫、もう取れたから!」

 

「それはよかったです」

 

「うんうん、ほんとにもう大丈夫だから・・ あれ?ボンソン、今度はこっちの方に来たの?」

 

「はい、先ほど連絡があって、急ぎ、庭園全体を綺麗にしておくように、と・・」

 

「急ぎ?」

 

 

何かあるんだろうか?

 

そういえば、庭園内を駆ける人たちが目立つような・・・

 

「ではユリンさま、私もいきますので」

 

「あ、うん、ごめんね、ボンソン。お仕事、頑張って!」

 

「いつもありがとうございますっー」

 

 

大きくお辞儀をすると、ボンソンはくるっと向きをかえ、走って行った

 

 

 

「ごきげんよう、ユリン姫!貴女は使用人ともお話になるのね」

 

 

「えっ?あっ?はいっ?」

 

 

くるっ

 

ボンソンを見送ってぼぉ~っとしていると

今度はまた反対方向から声をかけられた

 

この声はー

 

 

「シンシア妃さまっ!!」

 

 

ミリョン皇子の妃の中で、最もお美しく、気品溢れるお優しい妃

もし誰かが王妃様になられるとしたら、このシンシア妃ではないか、と

私はひそかに思っている

 

次に候補をあげるなら

この間、皇子と一緒にいた意地悪なヨンア妃

 

・・・ なんて予想する、そんな楽しみしかないのよっ

 

 

「シンシア、でよろしいのに。と、いつも申しているじゃありませんか」

 

 

ほらっ

そのお優しさ!

にっこり微笑まれる様子はまさに絵のよう・・・

 

 

「めっそうもございませんっ!私のようなものがそんな・・」

 

「あら、ユノ皇子のご寵愛を一身に受けている、第二皇子のたったひとりの妃となる貴女が?」

 

「え?あの・・」

 

 

どこから突っ込んでいいのかわからないっ

 

ユノ皇子のご寵愛を一身にうけている?

第二皇子のたったひとりの妃となる?

 

 

「ご存知かしら? ユノ皇子は今まで妃を迎えようとは一度もなさらなかったのよ?」

 

 

「・・・・・・・・・・」

 

 

今まで一度も?

 

そういえば・・・

第一皇子であるミリョン皇子には数人の妃がいらっしゃる・・

 

 

「それはなぜ?」

 

 

「さあ?ご自分でお聞きになれば?ずいぶんなご寵愛を受けていらっしゃるのでしょう?」

 

 

ん?

さっきから、その・・・

ご寵愛って・・・//////

 

 

「あの・・」

 

「まぁ!ユリン姫ったら、なんの装飾品も身に着けていらっしゃらないのね?」

 

「え?」

 

 

ご寵愛の話はもういいのか?

シンシア妃は、手を伸ばして私の首筋をスッと触られた

 

 

「持っていらっしゃらなかったの?」

 

 

 

装飾品・・・

 

見ると、シンシア妃の首には素敵な首飾りがキラキラと光っている

 

え?

そういうのって、どうやったらー

 

 

「街に出て買い物でもしていらしたら?」

 

 

街に出るっ?

 

 

「いいんですかっ?街に出て、って・・ 買い物とかできるんですかっ?」

 

 

思いっきり食い気味にシンシア妃につっこんでしまった

 

だってだって、今までこの宮殿の敷地から出たことなくって

そういえば、街の様子とか全然見たこともなければ話にも聞いたことないし

 

街で買い物ができるなんてそんなの、楽しそう!!

 

 

「そんなの、出来るに決まってますわ?ユリン姫ならまだ妃になられたわけでもないですし

侍女に言えばすぐにでもー」

 

「そうなんですかっ?」

 

嬉しくなって思わずシンシア妃の手をとってしまった

 

侍女って・・ ダリのこと?

 

 

「おや、姿が見えないと思っていたら、こんなところにいたのか、シンシア」

 

「皇子っ!?」

 

 

うわっ・・

わわわわっー

 

ミリョン皇子!!

 

シンシア妃が驚いて振り返ってる

 

 

「さっき、貴女の侍女が姿を探していたよ?」

 

「すぐ戻りますっー」

 

 

シンシア妃は、皇子に深くお辞儀をし、走り去っていった

 

 

え?え?

待って待って

こんなところで、いきなりミリョン皇子とふたりっきりにされても・・・

 

 

「ご・・ 機嫌、麗しゅう・・」

 

 

何て言ったらいいの??

 

 

「シンシアと何を話していたのかな?」

 

「え?何をって・・ 別に変なことなど話していませんよ?何か気になることでもあるんですか?」

 

「そう・・。いや?だって・・・・」

 

 

ん?

 

なになに?

もったいつけて、皇子ったら

にやりと笑ってこっちに顔を寄せていらしてかと思うと

 

 

「シンシアはね?・・・ ユノのことが好きなんだ」

 

 

まるで内緒話をする子供のように、そう、私に囁かれた

 

 

 

「はぁ~? そんなっ、シンシア妃は、ミリョン皇子のー」

 

「トンバン王国の皇子と結婚できると聞いて、相手はユノだと思って来たそうだよ

気の毒なやつだ」

 

 

ユノ皇子の相手だと思って・・・?

え?そういうのってありなの?

違ってました、てことでなかったことになんてならないの?

 

 

「それでも、ユノは今まで妃をとらなかったから、安心してたようだけどー」

 

 

あ、そういえばさっき、そんなことをシンシア妃が言ってた

今まで誰も迎えなかった、って・・

 

 

「今回はしょうがないよね、王の命令なんだもん」

 

 

・・・ へ?

 

 

「王さまの・・ 命令?」

 

 

「私に子供がなかなか出来ないもんだから・・・ しびれを切らした王が、今回の縁談を決めてきたんだ

聞いてなかった?」

 

 

もう、さっきから頭の中がぐるぐるして・・・

じゃあ何?

第一皇子に子供がなかなかできなくて

孫の顔見たさに、王様が第二皇子の縁談を決めてきた、と

 

 

「そんなことをしたって無駄なのにね、って思ってたんだけど・・・

姫はなかなかどうして・・ 」

 

 

「そんなことしたって無駄って、なにが?だいたい、どうしてユノ皇子は今まで妃を迎えられなかったんですか?」

 

 

「お?・・・・ 気になるの?だったら寝物語にでも、本人に聞いてみればー」

 

「もうっ!!さっきからなんなんですかっ、あなたたちは!

ふたりして同じことをー

さすが、ご夫婦ですねっ!!」

 

「は?/////////」

 

 

あれ?

 

あれれれれ?

 

なに?皇子ったら、真っ赤になってる?

 

「照れてる・・?・」

 

「な、何を言うかっ/////」

 

 

うそうそ、可愛い~

え?

皇子って、もしかしてシンシア妃のこと・・!?

ちょっと嫌な奴かと思ってたけど、なかなか可愛いとこもあったりして?

 

いやいや、そうじゃなくって

 

「皇子が教えてくださればいいじゃないですか!」

 

「・・・ 私が?・・・・よいのか?」

 

「よいのか?って、なんですか?今、ここで教えてくださいよ」

 

「今ぁ?ここでっ?」

 

「何をそんな驚いたような口をあけて・・・」

 

「だってそんな・・・ 今、ここで、って・・ さすがに私もそれはまだ・・」

 

「は?何をそんなもったいつけてるんですかっ!早く教えてください!!」

 

「は、早くっ?」

 

「皇子?」

 

 

何をそんなにきょろきょろと辺りを見回していらっしゃるのか?

 

 

「ユノ皇子はどうして今までひとりも妃を迎えられなかったんですか?

それに、そんなことをしても無駄だってどういう意味なのか・・・・」

 

「ユリン姫、やはり、さすがに私もここで、というのは・・・」

 

 

そんなに、大層なことだってこと?

ハッ!

もしや・・・話すことも憚れるようなユノ皇子のヒミツ??

だとしたら、確かにここでミリョン皇子から聞くのは筋違いってもんじゃ・・・

 

「ですよね!やっぱりユノ皇子から直接聞くことにします!」

 

「・・・・・・・・・・・」

 

 

あれ?

ミリョン皇子?

 

どうしてそんなキョトン、とまるで拍子抜けしたかのようなお顔で・・?

 

 

「・・ そうだな、それがいいだろう」

 

 

うんうん、と腕組みをして納得なさった

 

 

「あ、ミリョン皇子!」

 

「なんだ?」

 

「街に出掛けるには、どこから行ったらいいんですか?」

 

「・・・・ 街に、と?」

 

「はい、先ほど、シンシア妃が、街に出掛けてお買い物でもしてきたら?と・・・」

 

「・・・ シンシアが?」

 

「はい・・・」

 

 

あれ?

皇子の考え込まれるご様子・・・

何か私、悪いことでも言ってしまった?

 

「ユリン姫、街に出掛けられるほど元気になられたのであれば、延期していた婚姻の儀もそろそろ・・・か?」

 

「あ・・・」

 

 

 

そうだった、そうだった・・・

 

私は王様の前で身体の調子が悪いから、と婚姻の儀を延期してもらってたんだった!!

 

 

「あ・・・、皇子・・ わたくし、何やら気分がー」

 

「ふっー 今更だ、そんなの」

 

「・・・・・・・」

 

「街に出るのはやめておけ」

 

 

皇子はそれだけ言うと、ひらっと衣を翻し

自分の宮殿の方へと歩いて行ってしまわれた

 

 

 

やめておけ、ってそんな・・・

せっかく楽しみを見つけたような気になっていたのに・・・・

 

 

あ~でも・・

私、ミリョン皇子のこと、嫌いじゃないかも