ここにきて、2週間が過ぎた
最初に朝を迎えたとき、もしかしてこれはすべて夢で目覚めたらいつもの状態になっているんじゃないかって、そんな淡い期待が砕け散ってから
なんかもう、開き直ってしまった
「おはよー、今日もお花がいい匂い!」
「ユリン様っ! おはようございます」
こうして第二皇子の宮殿の中を歩き回り
そこで働く人たちと会話するのが
一番心が落ち着く時間
私なんか、本当の姫様じゃないのに
皆さん、とっても優しくて・・・
「あっ、ボンソナーー! 何をやっているのっ?」
「ユリンさまっ?」
池のそばに立っているボンソンを大声で呼ぶと
そこまで走っていく
「え?池の水・・ 減っていってる?もしかして抜いてるのっ?」
「ええ、今日は年に一度の水抜きをして、池を綺麗にする日なんですよ」
「年に一度の?うわっ、なんてラッキーなんだろう?私!!」
「え?まさかユリンさま・・・」
「もちろんよっ!そんなの、手伝うに決まってるでしょ」
「なんてことを!滅相もない!手は足りてますからっー」
「いいのいいの、私が勝手に見届けたいんだから!
でも待てよ?だったら着替えてこないと、この格好じゃあ・・・」
裾が濡れてしまう・・
「その前にユノ皇子に叱られますって!」
「大丈夫。皇子だったら今日はテジュンと大事な会議があるって言ってたからー」
着替えに戻ろうと振り返った先に
私を絶句させてしまう人が立っていた
「ユリン様?・・・ いったい何をしようと?」
「ダリ・・・」
「まったく・・ ちょっと目を離すとすぐにどこかに行ってしまわれて・・・」
「ちょうどよかった!ダリ、知ってた?今日って、年に一度の池の水を抜いちゃう日なんですって!ダリも一緒に見届けましょうよ!」
「・・っ?」
私は、ダリの手を引き、着替えをしに戻ろうと駆け足になる
そうよそうよ、ダリも巻き込んじゃえばいいんだわ
ダリだって、いつもいつも私のお目付け役みたいなことしてたら
きっと息がつまってるに違いないわ!
「ユリンさま・・っ・・ 待ってくださいっ・・ 私、そんなに走っては・・っ・・」
「え?・・ダリ?」
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「・・・ ごめんなさい、ダリ。私・・ダリが心臓が弱いって知らなくて・・・」
真っ青な顔でベッドに横たわるダリの横で
ただひたすら、ダリの手を握って詫びるしかない私
あー、ほんっと
バカバカバカバカ!
「そんなことより、私ごときに、王宮付の医師を呼んで診させるなんて・・・。
かかりつけの、街の医者を呼んでくださればよかったものを・・」
「何を言ってるのっ!そんなの当然でしょっ?この宮殿で働く、皇子にとって大切な人なんだから・・!そんな、街の医者を呼んでる間に、ダリに何かあったらどうするのっ!!」
「・・・ 」
「怒られるって言うんだったら、私が皇子に怒られるから・・」
「・・・ そうしていただけます?」
「ちょっとダリっ!?」
「・・・ ふふふ」
笑った・・・
ダリが・・・
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「・・・ 昼にそんなことが?」
「はい、申し訳ございませんでした。私ごときに・・」
「いや、気にするな。」
「・・・はい?」
「・・・ ダリが無事でよかった」
「皇子・・。 もったいなきお言葉・・ ありがとうございます!!」
「大袈裟だ・・。それで?ユリンは今・・?」
「先ほど湯浴みを終えられ、寝室にいらっしゃいます。」
「そうか。・・・ ではダリも、今夜はもう、下がって休め。」
「はい、では・・ おやすみなさいませ」
ダリが部屋を出て行くと
さっきから肩を震わせ、笑いをこらえていたテジュンが
遂に声を出して笑いだした
「アハハハハハッ、池の水抜きを見届けるって・・・」
「・・・・・・」
「ほんっと、あいつは何をやらかすかわからないな~」
「ただのバカだ」
「そうか!ダリのことがあったからか、俺のところに来て、どこか悪いところはないかと聞いてきました。」
「は?」
「悪いところがあっては、皇子の傍にはおれぬ!と言ってやりましたが・・・」
「・・・ 当然だ」
「それを聞いたユリンの顔が、パッと明るくなり、あ~よかったぁ~
と、ことさら喜んでいるように思えました。あれはもしかして俺のことがー」
「テジュン。お前ももういい。下がって休め」
「・・・・・・・・」
「なんだ?その顔は。 何か言いたいことでもあるのか?この私にー」
「何も?ありませんよ、皇子。」
ふんっ
ないって顔か?それが・・・
「あ、皇子?」
ドアの手前で、テジュンが振り向いた
「なんだ?」
「皇子の夜伽担当だった女官たちが、最近お呼びがないって嘆いて俺のところへ文句を言いに来るので困ってるんですよ。第一皇子の宮殿では、お妃さまがいらしてからもお呼びがあるようなのに、って・・・。どうしましょうかね?」
・・・・・ っ!!!?
「知らん!そんなの、おまえが適当に相手でもしておけ」
「ありがたきお言葉!・・・早速女官たちに伝えてまいります」
「・・・・・・・」
バタン
テジュンが扉の向こうへと消えるのを確認すると
寝室へと通じる扉の方へ視線を馳せ
ひとり、ゆっくりと立ち上がった