「おー。なんだ?お前らもメシか?」
「篠田先輩・・」
榊原と帰りに寄った店で、そう声をかけてきたのは3つ上の先輩だった
「榊原、おまえ・・ ずっと負けてるんだって?」
「・・・ ずっとじゃないですけど」
「は?ここんとこ、3回連続でオレのあとでチーフになったユノに負けてるんだろ?」
そう
かつて、この人はチーフで、当時私たちの同期から大抜擢されたばかりの榊原と争っていた
勝率は五分五分・・ともすれば、榊原が勝つことも多くなりかけていたとき
とても大きなプロジェクトで、篠田先輩が榊原のチームに勝って
それがきっかけで昇進していった
そして、その、篠田先輩の抜けたチーフ枠に抜擢されたのが、ユノだった
「榊原、お前、次負けたら、配置換え?ってうわさよ、知ってる?
ま、向いてねーのかもな、そのポスト」
バンッ!!
「先輩っ!!ちょっと、失礼じゃないですかっ?」
思わずテーブルを叩いて立ち上がる
「お、おいっ、りかっ」
「だって、さっきから聞いてたらあれこれ厭味炸裂で、感じ悪いったらー」
「おまえ、それ全部、声、出てるけど・・・」
「え・・」
「藤井・・さん、だったっけ?」
「・・・はい」
やばい・・・
怒られるっー
「君、いつもユノのチームだったんでしょ?どうして今回榊原のとこなの?」
「え?」
バンッ
今度は榊原が大きくテーブルを叩いて立ち上がると
「おいっ、行くぞっ?」
自分と私の荷物を持ってレジへと向かいかける
「ちょ、榊原?」
「なんだ~?態度悪いな~?」
そんな先輩の挑発的なセリフに
榊原は振り返ると
すっごい目で睨みつけ
「・・・ こいつは違いますからっー」
そう言って
ほらっ、と私の手をとって歩いていった
握られた手は・・
思いの外、力強くて・・
「い・・痛いけどっ・・ 榊原」
「あ、ごめんっ・・ 悪かった」
レジの前までくると、振りほどいてくれた
2人分の会計を済ませると
榊原は中を振り返ることなく
店を出た
私はちょっとだけ気になって振り返ってみたが
そこにもう、先輩の姿は見えなかった
「榊原っ、ねぇっ、ちょっと待ってよ!」
早足で前を行く榊原を追いかける
「・・・・」
「もうっ・・ そんなにムカツクんだったらさっきもっと言ってやればよかったのに」
やっと追いついて、声をかけると
榊原はとても悔しそうな顔をして、唇を噛んでいる
「・・・ やっぱ、引き返して何か言って来ようよ」
ツンツンッと榊原の袖を引っ張る
「前・・・ あの男に負けたとき・・」
ボソッと漏らすように声が聞こえだした
「あ~、あの・・ それがきっかけで篠田先輩が昇進したー」
「あの時、あの男の彼女がオレのチームにいたんだ」
「え?」
篠田先輩の彼女が榊原のチームに?
「全然気づかなくて・・ そればかりか、頼りになる先輩だって、慕ってたほどで・・」
それって・・・
「笑っちゃうだろ?」
「え?まさか・・・」
「そう。その、まさか」
「・・・・っ!!!」
「まさか、全部筒抜けだったなんてな~・・・・」
うそ・・!
そんなこと・・・
「いつ知ったの?それ、言った?上司にー」
「言うわけないだろ。かっこ悪い」
「かっこ悪いとかの問題じゃー」
「負けは負けだから。いいんだ。あれは、オレの教訓。そう思って今頑張ってる」
そんな・・・
あのとき、そんなことがあったなんて・・・
ーー 君、いつもユノのチームだったんでしょ?
ーー こいつは違いますからっ
先輩と榊原のセリフが思い出され
ようやく、あの時感じた違和感のわけがわかったような気がする・・
「榊原・・・ 勝とう!今回、絶対勝とう!!!」
「ねぇ、あれ!榊原と一緒にいるの、りかじゃない?」
「あー、ほんとだ。あっちも食事のあと?」
「いやいや、オレらと違って2人っきりみたいだし?デートなんじゃ?」
「ほ~、いい身分だね~。そんなチャラチャラしてるようなやつらに負けられないね。
なー?ユノ」
「・・・・・ そうだな」
どうして2人でいるんだ?
こんな時間まで・・・
「あ、皆、悪い。一件、電話するの忘れてた。先、行ってて」
「OK、ユノ!」
「なぁ、あれ、ユノたちじゃないか?」
「えっ?どこ・・」
榊原の視線の先、数人で歩いている団体
そしてその中からでもすぐにその影を見つけることが出来た
うーーわっ
ユノの腕にのぞみ、しっかりつかまってる
「のぞみちゃん、この機会に狙ってるって言ってたぞ~?」
「・・・ そんなの、わかってるわよ。あの人、前からずっとだもん」
「モテモテだよな~ はぁ~、ムカツク。仕事もプライベートも充実しやがって」
「・・・ 榊原?あれ?あんた、お酒飲んでたっけ?」
「飲んでませんが?」
「なにそれ、もしかしてユノにやきもちやいてるの?かぁ~わいいとこあるじゃない!」
「あーそうだよ、悪いか!だってさー、あいつ見てると意地悪したくなっちゃうんだよ」
「へぇーーーー!」
でもほんっと・・・
モテすぎです
だから全く自信なくて・・・
あ~あ・・
あんなに近すぎて苦しいって思ってたのに
今はあの場所が恋しくてたまらない
ほんと、離れるとこんなに遠く感じちゃうもんなんだ
♪♪♪~~~
「あ、ごめん、電話だ」
「おー、出ろ出ろ。」
榊原に断ってから、少し離れて電話に・・・
出ようと思って着信画面を見て驚く
「も、もしもしっ?どうしたのっ?」
電話に出ながら、さっき見つけてた場所を視線が彷徨って・・・
あ、居た・・・
確かに電話・・してる様子
『あー、いつもお世話になってます。○○社のー』
耳元に聞こえてくる声も、ユノのものなんだけど
どうにも会話がー
「あの・・ ユノ?」
『お忙しいところすみません、ひとつ、確認するのを忘れていたことがありまして・・・』
もしかして、掛け間違えてる?
どこか取引先と・・・
「あの、ユノ?これ、私にかけてる」
『知ってる』
何だか急に声のトーンが変わった
視線を向けると、どうやらチームのメンバーたちから
結構離れてるみたいで・・・
『・・・ 何やってるの?』
「え?」
『2人はダメ』
「え?ダメって・・」
・・・ 妬いてる?
顔がにやける
『すぐ別れてタクシー乗って帰れ』
「は?タクシーってそんなっ・・」
ここからだと高くない?
『オレの言うこと、聞けないの?』
どうしてそんな・・・
耳に心臓いくわ
「・・・・ わかった」
ブチッ
何よ何よ、自分だってのぞみに腕掴まれてたくせにっ!!
・・・でも、なんか嬉しい・・・
「気持ち悪い顔・・・」
ハッ!
榊原がいること、忘れてた・・・!!
「もしかして、ユノから?」
「・・・・ん。」
「は~~ アイツ、よっぽどだな。チームのメンバーといるのに電話してくるとか」
ボッ
人の口から言われるのって
めちゃくちゃ照れるね?
「そう・・ かな?」
「おい、さっき絶対勝とう、って言ったの、忘れてないよな?」
「ごめん、忘れてた・・」
「おまえっー」
「わぁー、うそうそ!!忘れてないってば!」
私はそのあと、榊原にバイバイ、また明日
と告げると
タクシーを拾って帰りました
いい子でしょ?
つづく・・・