「みきちゃんっ、何度も電話したのよ?」
人混みをかき分け、アパートの前までくると
私の姿を見つけた大家さんが駆け寄ってきた
そうか、あの着信・・・
「大家さん、これっていったい・・」
目の前には凄い惨状が広がっていた
大きなトラックが、アパートに見事に突っ込んでいるのだ
「・・・ 居眠り運転だったらしいのよぉ~」
私は唖然として立ち尽くす
どうにもこうにも、とても今夜・・いや、今後、ここで眠れることはないような気がする・・
実家に仕送りをしながらもひとりで暮らせる安アパートだった
いったいこれからどうしたら?
いやいや、それより当面・・・
「今なら消防士さんがいてくれるから、貴重品とか、取りに入れるって!
あとの荷物とかは、夜が明けて朝になってからってことで
あー、それにしてもよかったわ、美貴ちゃんに連絡がつかなくて困ってたの!
泊まるところも大丈夫ね!?さ、これであとは207号室の佐藤さんだけだわ・・・」
遠ざかっていく大家さんの話で、後ろにチャンミンが来てくれてたんだってわかるけど
今の私には、大家さんの勘違いを訂正する余裕がない
まるでない
頭の中は真っ白で・・・
ぐいっー
「おいっ、聞こえたか?とにかく、貴重品と荷物、取って来いって!」
そのチャンミンに腕を掴まれ、かろうじて我に返ると
「あ、うん、いってくる・・・」
近くにいた消防士さんに事情を話し、私は建物の中へと入って行った
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「で?・・・ それは?」
「寝袋。実家から親が来た時に使ってたの。ちょうどいいと思って」
取り出してきた荷物を否応なくチャンミンに渡すと
手を出して受け取りながらも質問が飛んできた
「・・・ ちょうどいいというのは?」
心なしか、チャンミンの顔が厳しい
だって・・・
荷物、何も言わずに車のトランクに積んでいってくれてるよね?
ってことは・・・
え?
だめなのっ?
「お願いしますっ!!私っ、こんな時間に放り出されてもー」
「まさかオレのところに泊まるつもりだったのかっ?」
「ええっ?ダメなのっ?」
そんなにびっくりするなんて・・・
「だってそんなっ・・・ 森崎のところとか・・」
「陽菜は彼氏と一緒に住んでるでしょ。」
「他に女ともだち・・」
狼狽えるチャンミンに、詰め寄る私
「地元でもないんだから、こんな時間に頼んで泊めてくれるような友達はいないって」
他の誰かなんて、思いつかないよっ・・
とにかく、今夜の宿として頼れるのは目の前にいる優しい同僚チャンミンだ
「本当にごめんなさいっ!でも、お願いしますっ!!!」
これでもか、とばかりに頭を下げ、懇願する私
「・・・ 狭い、・・・けど?」
上から聞こえてきた声に
私はバッと顔をあげ
「大丈夫っ!!だからっ、寝袋っ!! ねっ?
神様っ、仏様っ、チャンミンさまぁっ!!!」
すがりついて、最後のお願い・・・
すると、彼は、頭の後ろをババッと掻きながら
「ああぁぁぁー、もうっっ! しょうがないなぁー!!」
やったっ!!
だいたいこんなはずじゃあなかった、とか
どこかに送るつもりだったのに、とか
ぶつぶつ言ってるチャンミンを横目に
少し前に降りたばかりの車のドアを再びあけて乗り込む
ほ~んっと
持つべきものは優しい同僚よね