「・・・ 会わなくてよかったんですか?」
 
 
車に戻ると、後部座席に座っているご主人様に向かって聞きながら
ジャケットを脱いで、替えのジャケットを羽織る
 
 
「・・ どうした?なぜ着替える?」
 
 
あ、珍しい
ご主人様がオレの着替えに関心を持たれた
 
質問には答えてくださらなかったけど、まぁいいか
 
 
「誰かさんの化粧と鼻水でぐちゃぐちゃになったので・・」
 
 
「・・・・・・・・・」
 
 
気になりますか?ご主人様・・・
オレは長年お仕えしていますのでね?
今回のご主人様の微妙な変化には複雑な心境ですよ
 
 
「着替えが済んだのなら、急ごう。大宮を待たせては申し訳ないからな」
 
「彼女、チャンミン様に気づかれないように出てこれましたかね?」
 
「そこは大宮に任せるしかない」
 
「では、向かわせていただきます」
 
 
オレは車を出した
 
ミラー越しに、ご主人様が窓の外を見ておられる姿をチラッと覗き見して・・・
 
 
 
 

 

 

 

 

 
 
 
 
実家の前で大きくひとつ深呼吸をすると
ドアをあけた
 
 
「・・・・ ただいま~」
 
 
結婚していたわけでもないのに
なぜか、出戻ってきた娘の心境・・・
 
 
 
「お、あ、あぁ・・ おかえり~~!!」
 
 
お父さんの複雑そうな顔と言ったら
こっちが申し訳なくなるじゃない
 
 
「・・ 荷物はお前の部屋に運んでおいたから」
 
「ありがとう」
 
 
どうせ、そんなに荷物はなかった
家具は向こうで調達してもらっていたから
せいぜい、着替えくらいで
 
 
「ねえお父さん、どうせお店が忙しくて晩ご飯なんて、用意してないんでしょ?
だったら今からノンちゃんとこ行かない?」
 
 
私なら、作る余裕は全然ないから・・・
 
 
「あ?えーと・・それが・・」
 
 
口籠るお父さんのセリフに、歯切れの悪さを感じて顔を上げると
バタバタバタ・・と奥から足音が聞こえてきて
 
 
「りかさん?こんばんは^^ はじめまして」
 
 
真っ白なエプロンをつけた女の人が現れた
 
隣に立たれてもじもじするお父さん
照れくさそうに後ろ髪を手でかくと
 
 
「こちら、その・・//// 田中春子さん////」
 
 
そう、女性を紹介された
 
 
・・・え?
 
これってもしかして・・・?
 
 
 

 

 

 

 
 
 
 
「あ、ほら、賢治さんったらまたこぼしちゃって・・・」
 
「いや~・・ すまんすまん」
 
 
「・・・・・」
 
 
 
何が楽しくて、お父さんのいちゃこら姿を目の当たりにしないといけないのか
 
娘がどういう状況なのか、ちっともわかってないんじゃない?
 
賢治さんよぉ~~、お?
 
あ~、お父さんの名前が賢治だってこと、ここ何年も忘れてたわ
 
でもそうか~
 
お父さんが再婚するなんてね~
 
 
「・・・ いいんじゃない?私は反対しないけど?」
 
 
春子さんの作ってくれた味噌汁を啜りながら
私は2人に向かって言った
 
 
「そうか?」
 
 
うわぁ~
露骨に嬉しそうな顔・・・
 
何だか、数時間前に自分の身の上に起きたことが
全て吹っ飛んでいきそうだわ
 
 
「だったら、これから3人でー」
 
 
はぁ?
まさか新婚2人と一緒に住めとか言う?
 
 
「私、出て行くから。1人暮らしをするね」
 
「え?」
 
「だってそうでしょ?いくらなんでも・・ そんな野暮じゃないし。」
 
「いや!!それはちょっと待て・・」
 
「ほんっとよかった。お父さんがひとりでやっていけるか心配だったし
お店の方も、この人がいてくれるなら、安心だもんね」
 
 
何の相談もなかったのが、かなりショックではありますがー
 
 
「あの、りかさん!待ってください、私はまだ、この家に住んでいるわけじゃないんですよ?」
 
 
・・・ はい?
 
 
「そうだよ、りか。今日はおまえに紹介しようと思って来てもらっただけで
まだそんな具体的なことは、これから一緒に相談して、って思っていたんだよ」
 
 
「・・・・・・・・」
 
 
これから一緒に相談して、って・・・
そんなの、答えはひとつじゃない
 
でもまぁ・・
私のことを気にかけてくれてるんだ、ってことは
お父さんのその、私の顔色を窺うような視線でわかる
 
 
「うん、だから・・ ここには2人で住んで?私はどこか探して出て行くから」
 
 
あ~あ・・・
 
まさか、実家にも自分の居場所がなくなるとは
夢にも思わなかったわ
 
でも
 
私とは反対に、お祝い事だもんね
 
笑って祝福してあげないと・・・
 
 
たったひとりのお父さんなんだもんね
 
 
「でもりか・・ 出て行くと言っても、ひとりで暮していくには何かとお金がかかるわけだし・・」
 
 
「あ~、大丈夫!私、お金ならあるから」
 
 
「え?」
 
 
 
そうよ
 
私、違約金もらえるんだから
しかも、言い値だもんね
こうなったら、思いっきりふっかけてやる
 
 
「そ、そうかもしれんが、とにかく!せっかく帰ってきたんだ
しばらくはここで一緒に暮らそう!!なっ?」
 
 
 
お父さん?
 
何だかその優しさが、急に身に染みる・・・
 
 
「そうですよ、りかさん^^ 私、ご飯は作りに来ますから」
 
 
 
うっ・・・
 
それって何だかとっても魅力的・・・
仕事で疲れて帰ってきて
何もしなくても、食卓にご飯が出てくるなんて・・・
 
しかも、この晩ご飯もとても美味しいし
 
 
「・・・ じゃあ・・ いいところが見つかるまで。よろしくお願いします」
 
 
 
春子さんに頭をさげて食卓をあとにした
 
せめて片付けでも、と申し出た私に、今日くらいは部屋でゆっくりして
って言ってもらって
 
ほんと、何から何まで甘えてしまった
 
 
 
久しぶりに部屋へ入ると
机の上の、グランチェスター伯爵に駆け寄った
 
 
「ああ~~~・・ すみませんでしたっ、今まで!!
私ったら、どうかしていたんですぅ~~~」
 
 
すりすりすり・・・
グランチェスター伯爵フィギュアに頬ずりをし
抱きしめる
 
 
「もう、二度とよそ見なんてしませんからっ!!!」
 
 
伯爵に誓って、元の位置へと戻すと
部屋に置かれたダンボールの箱をあけていく
 
 
「・・・ マジか・・」
 
 
そのうちのひとつから
例のファイルが出てきて思わず言葉が漏れた
 
 
「・・ 覚えなくてよくなって、よかったな、とか言ったくせに・・・
なんの意地悪よ、ほんと・・・」
 
 
あはっ・・
 
やっぱだめだ
 
まだ涙腺、・・・ ゆるゆるだわ・・・
 
 
 
 
 
 
つづく・・・
 
 
 
 
 
 
 
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今日ももう1話、アップしますね!