マンションに着くと、駐車場に停まっている車に目が行った
真崎が運転する車だ
ってことはなに?
今、部屋に真崎がいるってこと?
何よ何よ、帰ってこい、なんて言うもんだから
てっきりひとりぼっちで寂しいのかと思ったじゃない
エレベーターに乗り込むと
その狭い匣の中にキツい香水の残り香が鼻をついた
「・・ いるよねー、香水の匂いぷんぷんさせてる女の人・・・」
お店に来るお客様の中にもいらっしゃる
あそこまで振り撒かなくても・・
ってつい、思ってしまう
試着されて匂いがうつらないか
気になるのだ
チンッ!
エレベーターの扉がひらき
部屋の前まで歩いていくと
そのドアをあけた
ガチャ
・・・・ うそっ!!!
さっきの匂い、この部屋からするっ!!
玄関にそろっておかれたハイヒールを見つけると
女っ!?
女が来てるのっ?
え?私・・・
帰ってきて大丈夫だった?
焦っていきなり忍び足になってしまう
気配を押し殺すようにして、リビングへと向かう
そろ~っとそろ~っと・・・
ガチャ
「・・・ ただいまぁ~・・・」
おそるおそるリビングのドアを開けた私の目にうつったのは
「おばあさまっ!?」
背中を向けて座るユノの向かい側には
おばあさまが座っていらっしゃって
真崎が斜め後ろに立っている
私は慌てて駆け寄った
「なんだ?帰ったのか」
はぁ?
なんだ?帰ったのか?
あんたが帰ってこいって言ったじゃないっ
とぉ~~っくに100なんて数え終わりましたけどねっ
でもでも、そんなの関係なかったってことですよねっ?
「あなた・・・ この子より帰りが遅いの?」
ビシッと低い声で聞かれた
おばあさまに・・・
「あ・・ はい、すみません・・・」
「今夜は実家に寄ってたんだ。オレがたまには顔を出して来いって言ったから」
え・・?
ユノ・・?
「そうなの?・・・まぁ、それならいいけど・・・」
全然、よさそうじゃないお顔ですけど?
それでも、ユノに感謝だわっ!!
「あの、おばあさま、今夜はいったいどうして・・?」
ここにいらっしゃるなんて、初めてですよね・・・!?
私がくるまでにそんなことってあったのかな?
ユノから聞いた感じでは、なかったように思ったんだけど・・・
「これよ、これ。貴女に持ってきたの」
そう言われて、さっきからちょっと気になっていたテーブルの上のものに視線を落とす
そこには、数冊のファイルが重ねられていた
「結婚式の出席者名簿よ。写真付きでファイリングしてあるから全部覚えなさい」
頭の中が真っ白になった
結婚式・・・
「えと・・・」
「招待状を出した方々からのお返事がきたから、まとめさせたの」
そりゃあ、真崎とドレスを選んだり、指輪を選んだりしたけど
こうしておばあさまからつきつけられると
一気に現実味を帯びてきたというか・・・
「何て顔をしているの!貴女の結婚式でしょう?」
「は、はい・・」
「ふんっ・・ この間の勢いはどこへいったのかしら?」
「すみません」
「とにかく!これ、覚えてちょうだい。当日失礼があったら困るわ。」
「あの、覚えてって・・ 全員・・ですか?」
めくってないけど、相当な数のような気がするんですけど
「当たり前でしょう!?」
ひーーーっ
おばあさまの眉間に・・・っ!!
「そんなことも出来ないようなら、うちの嫁とは認めっー」
「おぼえますっ」
私はおばあさまの言葉を遮った
「・・・ 出来る限り、頑張って憶えます」
「頑張るだけじゃだめなのよ。それを心して置いて」
頑張るだけじゃ・・・ だめ?
「真崎、帰るわよ。」
「はい」
おばあさまが立ち上がると、ユノも一緒に立ち上がった
玄関の方へとお見送りしていく
「・・ りかさん、あなた、下まで見送って」
靴を履いたおばあさまが、有無を言わせぬ口調でそう言うと
「あなたはゆっくり休みなさい?」
ユノの方を向いて、そう微笑んだ
・・・・・???
微笑んだ?
今・・・
ユノを見て、おばあさまが?
驚いたのは私だけじゃない
既におばあ様のバッグを持って立っていた真崎
そして
声をかけられたユノ本人も
「じゃあ、おやすみなさい」
「あ・・ おやすみ・・なさい」
ふたたび微笑まれ、固まっていたユノがようやく言葉を発した時にはもう
おばあ様の姿はドアの向こうに消えかかっていた
私は、ユノの背中に手を振れると
自分の靴を履いて、ドアを出た
・
・
・
・
・
「真崎、車をこっちへ」
言われるが早いか、真崎は返事をすると車の方へと歩き出していた
自然と取り残されるようにおばあ様と2人っきりになる
「あなた・・・ 仕事を辞めたらどう?」
「はい?」
「あの子より遅いなんてとんでもない話だわ?
掃除も行き届いてなかったし・・・。
結婚してもここに住むのであれば、あなたしかいないのよ?
あの子には。
家政婦もいらないって言うし。真崎も一緒に住まなくていいって
さっき確認したわ」
え?
家政婦はわかるけど、真崎も・・?
「そもそも?私は認めてないのよ、あなたなんて。
結婚してもあの子にもうちにも、何のメリットもないんだから。
それなのにどうしてあなたなのか、私には全くわからない。」
「・・・ 確かに」
「はぁ?」
私が呟いた言葉に、おばあ様の眉間にまたシワがっ・・!
なんて思っていると静かに車がやってきておばあ様の前で停まった
運転席から真崎がおりてきて、後部座席のドアを開ける
「とにかくっ、よろしく頼みますよっ?」
おばあ様の口から発せられる言葉は厳しいけど
私は、身体の中から込みあげるものがあった
だって・・・
ユノへの愛を感じるんだものっ!!!
「おばあさまっ!! ありがとうございますっ!!!」
深く深くお辞儀をすると
おばあ様は、乗り込む前にちょっとだけ・・・
微笑まれたような気がした
なんだよ、なんだよ~
おばあさまったら・・・
可愛いじゃないかっ!!
なんのかんの言っても
やっぱり孫だもんね~
ユノのこと、可愛かったのよっ!!
ふふふんっ♪
自然とステップが軽くなる
エレベーターを降りると、部屋に向かった
ガチャ
ドアをあける
残り香がきついのも、慣れてしまえば全然平気
「ふふふ~ん♪・・」
「・・・・ ずいぶん、ご機嫌だな」
ビクッ
リビングのドアの向こうにご主人様が立っていらした
「あ・・ えと・・・」
「ばあさん、なんだって?」
「あ~ もうねー、ユノのことよろしく!だって!!」
仕事をやめろと言われたことは黙っていよう
「・・・・・・・・」
「なんだかんだ言っても、やっぱりユノのこと可愛かったのね~
今日は初めて、おばあ様のユノ愛を感じちゃったわ~」
「・・・・・・・・」
「ユノだって、嬉しかったくせに~~」
このこのこのぉ~っとばかりに、腕のところ、ツンツンツンッて指で押してみる
「おまえ・・・ 浮かれてるけど、あれ、全部覚えられるのか?」
ユノのことばで、滝に打たれたように、我にかえった
「そういえばっー」
慌てて、ユノが指で差したテーブルの上にあるファイリングに手を伸ばす
パラパラパラ~
何冊、あるんだっけ・・・・
いち・・ に・・ さん・・し・・ご?
「ユノ・・ これって・・・」
おそるおそる、一冊を手にしたまま、ユノの方を振り返る
「ま、頑張れ。オレは疲れたからもう寝る」
そういうと、私の肩をポンポンッと叩いて、はなれていく
「えっ?」
思わず行きかけたユノの服の裾を掴んでしまった
「・・・ どうした?」
だって・・・
え?
もう、寝るの・・?
私、帰ってきたんだけど・・・
「・・・ 別に。 なんでも・・・」
掴んでいた手をはなすと
ユノはまた歩き出した
もうもうもうっ
私だけなのっ?
こんなのってー/////
数歩いったところで
ユノの足音が止まった
「・・・ おまえに、それ覚えてもまだ余裕があるって言うなら
一緒に寝てやってもいいぞ?」
・・・ え? これ覚えてって・・
これだけ全部ぅ~~~?
「そんなの、あるわけないじゃん・・・」
私が呟くように漏らすと
だろ?って顔をして、やっぱり背中を向けて歩いていっちゃった
「はいはい、覚えますよ?覚えてやろうじゃないっ」
目の前のファイリングをみつめ
俄然やる気を出した私は
一度にそれを持つと、自分の部屋へと入った
あ、お風呂・・
ユノはいい匂いしたし
着替えてるから、もう入ってるよね
私も入ってから覚えることにしよう
「・・・ じゃないと、寝てしまいそうだし」
まったくほんとにっ・・・
欲情してたのが私だけってのがまた、情けない~
嫌んなるっ
落ち着け、落ち着け
着替えをおくと、バスルームに入る
シャワーに打たれながら
おばあ様に言われたことを思い出した
ーー あなた、仕事辞めたら?
ーー なんのメリットもない
「・・ 確かにそうなのよね・・」
仕事だって・・・
自分なりに関係を作ってきたと思ってた取引先に
あんなにあっけなく切られ
藤宮さまのおかげで、また取引を再開してもらえた
藤宮様には感謝だけど・・・
今まで自分がやってきたことは、いったい何だったんだろう
と思わされる
そもそも私って、なんなんだろう?
ユノにとって、私と結婚するメリットはない
ただ・・・
おじいちゃんに言われたから仕方なく
ーー じいさんが決めたことは絶対だ
もし・・・
おじいちゃんが、別の人をすすめていたら・・・
「いたっ・・ シャンプーが目に入った・・」
慌てて洗い流していく
「・・・ 痛い・・・」
つづく・・・
(画像、お借りしました)
