翌日 はりきって、スーツで出勤してみたものの

社長室のドアは鍵がしまっていて(当然だ)

守衛さんのところに行っても、そんな話は聞いてないから、と

鍵などあけていただけず

結局、何もすることができずに、ただひたすら社長が出社していらっしゃるのを

ドアの前で待っていた



どれくらい、待っただろう?


チン!とエレベーターの扉の開く音が聞こえたので、サッと立ち上がる



「それで?さっきの電話・・ マサキだろう?どうだった?」


「それが・・・今日は一日代表のスケジュールはつまっていて、時間はとれないとのことで・・・」



社長と大宮さんの声が、話し込みながら近づいてくる



「夜は?オレがマンションの方へ行くと言ったか?」


「もちろんです!・・ですが、今夜はその・・婚約者の方と・・」


「・・・・・・」


「またあとで、連絡してみます」



姿は見えたけど、何やら入りがたい雰囲気が漂っていて


ただただ、立ち尽くしていると

ようやく、私の存在に社長が気づかれた



「あ・・・。すっかり忘れてた。」



私を見て、口をあけた社長に、軽くショックをうける


忘れてた、って・・・



「あの・・ 何かあったんですか?」



「あ~・・ ヒョンが・・あ、兄が結婚するらしい・・」



大宮さんが鍵でドアをあけると

その中に消えかけつつ、そう教えてくれた



「え?兄って・・ 社長、お兄さん、おられたんですか?」



「・・・は?」



すっかり入ってしまわれる前に、振り返られた



「おまえ・・・ 知らないのか?」



「え?・・ 知らないのかって・・そんな有名な方なんですか?」



「うちの会社が何て言う会社の傘下に入っているか、知っているか?」




え?傘下に入ってる・・・?




何も言えないで固まっていると

社長は大きくひとつ、溜息をつき




「呆れた・・ そんなことも知らなかったのか!

忘れていてちょうどよかった。そのまま下りてカフェで働け。

昨日の話はナシだ」



「え?」



昨日の話はナシって・・

カフェで働けって、せっかくこんなスーツを着てきたのに?



「おまえのことを買いかぶりすぎていたようだ。

そんなんじゃ、電話番すら、まかせられない」



バタン!



すっかり社長室のドアの向こうに消えると

思いっきり閉められた


廊下に残される私・・・



「社長・・」



ドアに向かって呼んでみても、開くわけもなく・・・



「朝倉さん・・ 社長は今、驚きで頭がいっぱいでー」



ガチャ



「大宮っ!何をしているっ」


「ハイッ!今っ!!・・・・では、朝倉さん、また」



バタン



せっかく開いたドアも、大宮さんを飲み込んで閉まってしまった・・・















「朝倉!?おまえ、遅れてきて、なんだ?その恰好は・・!就活でもする気か?」


「ちがっー」


「まぁいい!ボーっとしてないで、とっとと着替えてこいっ!」


「はい、すみませんっ・・・」




スーツ姿のまま、カフェに行ってしまい

店長に怒られる始末・・・



だって・・・

すっごい呆れた顔だった、社長・・・


もう嫌われたかも・・・












「あれ?朝倉?おまえ、今日スーツなんか着てきてたの?」



帰りがけ、着替えて出てきた朝倉を見つけ

そのスーツ姿に驚いて、思わず声をかけてしまった

「あ、松本君!・・・そういえば松本くん、今日はもう大丈夫だったのっ?」



「え?」



今日はもう、大丈夫か?って・・?



「だって昨日、すっごい青い顔して帰っていったじゃない!!」



見られてたのか・・・



「あ~・・・。まぁ、今日はもう・・大丈夫」


「そうなんだ?・・・昨日は水戸様も運ばれて大変だったのよ?

盲腸で手術したんだって」


「おまえ、どうしてそれー」




ーーー 純!あの子、絶対社長と何かあるっ!



ーーー 社長のデスクの電話からリダイヤルをしたらあの子の携帯にかかったの!




「・・・おまえ・・ まさか、社長とつきあってんのか?」



オレの質問に、朝倉の身体が跳ね上がった


そして、辺りをきょろきょろ見回し、誰も他にいないことを確認すると



「ど、ど、ど、どうしてっ・・/////」



明らかに挙動不審・・・ マジか!!



「あの彼氏、なんだったの?」



「え?あ、望月くんはほんとに大学の同級生で・・色々知ってて・・・」



アイツ、わかってて彼氏のフリしてたってこと?


グル?


うそだろぉーーーーーーっ


社長の趣味はいったいどうなってんだ?


全く理解できないっ


どう考えても真理亜の方がいいだろーが!!!



「え?でもっ、違いますよ!?私と社長がなんて、ないですから!!」



いまさら、何を言ってんの?



「・・・びっくりした~・・・」


「ええっ?だ、だからっ 違いますってば!!

それにだいたい、もうほんっと・・呆れられちゃって・・・」



え?朝倉?



なに?ぼろぼろぼろぼろ、泣きだしちゃって・・・



「おっ、おいっ!ちょっと待てって!!」


「松本くぅーーーーん・・・」



うそだろ・・

マジで泣き出した・・・



うちの会社から出てきたやつらが、にやにやしながら俺たちを見ている

やばい!!



「ちょ、ちょっと朝倉っ!ここじゃまずいってー」



ぐいっ


俺は、朝倉の腕をひっぱると、駆けだした












近くの公園までやってくると、朝倉をベンチに座らせた



「・・・水戸様が入院されて、お仕事が大変だからって・・・」



さっきは、違うって言ったくせに

泣いたことで認めたのか?


ひっくひっく、しゃくりあげながら、しゃべりだした



「私・・お手伝い・・しようと・・・」



「は?待て!!おまえのその恰好は・・・まさか、社長室に?」




コクン、とうなずく朝倉に、オレは、なぜか腸が煮えくり返り




「っざけんなっ!!おまえ、まさか真理亜の代わりをしようとでも思ったのかっ?

ハッ!!何を考えてんだっ?アイツはなぁー、あそこに行くまでめっちゃ努力して、努力して・・

それをおまえ、ポッと手伝おうといくなんて・・・ありえないだろ、そんなんでかわりが務まるような仕事

あいつはやってきてないんだよっ!!!」




気がつくと、まくし立てていた・・・・



ぼ~っと口をあけてオレを見つめる視線に気づいてやっと我に返る




「・・・・ 松本君・・・ 今、真理亜って・・・ 水戸様のこと、真理亜って呼んだ・・・」



「あ~、いや・・そうだった・・か?」



やべっ・・・

頭に血が上って、何を言ったんだかー




「松本君が言ってた、ミイラとりがミイラになった彼女ってー」


「wwwwwwww」



あーー、もうダメだ・・・

こんなん、いくら取り繕ったって、どうにもならん




「・・・ そうだよ、おまえが水戸様って呼んでる水戸真理亜だよ」


「・・そ、それって・・・ あの・・ ということは・・水戸様は・・社長のことを・・・?」



頭、回るみたいだな



「そうだよ、だからおまえー」


「ああああぁぁぁぁぁ~ そんな・・そんなのっ 無理じゃないですかっ!私っ!!」



なんだ・・・


言わなくてもわかったか




「水戸様がライバルだなんて、無理に決まってます!!

社長だって、水戸様がご自分のことを好きだと知ったら絶対ー」




ズキンッ




「・・・だよな」



「松本君・・・ ここはひとつ、残念な者同士・・・」



「おまえ、諦められんの?」



「松本君は無理なんですか?」



「いや、オレは元々そのつもりだったから全然大丈夫だけど・・

おまえ、仮にも今はつきあってんじゃ?」



「ああぁぁぁぁ~~ だから、ダメなんです!!

私、ものすごい勉強不足で呆れられました

多分もう、ダメです、嫌われたと思います!!」




・・・・ そんなもんなのか?


まぁ、そうなれば真理亜が喜ぶだろうけど・・・




「松本君・・・ 社長のお兄さんって、ご存じですか?」



・・ 社長のお兄さん?って



「・・・・・TOHOホールディングスのチョン代表だろ?」



「と・・ トーホー・・?」



「なに?おまえ、知らなかったの?」










つづく・・・・