ご主人様と執事は、食卓で向かい合って朝食をとっていた。


なんとも絵になる2人である・・・




「・・・で? アイツは朝食だけ作ってもう出かけたと?」



「どうやらそのようで・・」



「・・・ここの鍵は?」



「当然、渡せてません。申し訳ありませんでした、私も深く寝入っていたようで気がつかなくて・・・」



「おまえにしては珍しいな。・・・しょうがない。今日は帰りにオレが迎えに行って来よう。」



「ええっ?そ、そんなっ!今日も私が行って荷物もちゃんと運んできますっ・・」



「気にするな。どうせ、向こうの父親にも挨拶をしなければ、と思っていたところだ」



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「挨拶って・・・・ では、本当にあの女と・・・結婚する気で?」



「もちろんだ。せっかくじーさんがオレのために用意してきた話だしな。」



「もちろん、って、あんな、会ったこともない女とそんなっー」



「・・・・ どうせ、誰とも結婚する気などなかったんだ。相手なんて誰でもいい。

寧ろ、どこぞのご令嬢をおしつけられるより、ずっといい。仕事に支障がないからな。」



「ユノ様・・・」



「おまえにはオレが迎えに行っている間に他に頼みたいことがある」



「・・・・何でしょうか?何なりと」















「・・・・ まゆちゃん?さっきのお客様への対応、どうかな?」



「え~?どれがですかぁ~?」



まるで天使のようなおっとりほんわか系のまゆちゃんは、お客様たちからとても可愛がられている

わかる、わかるよ?その愛らしさは、おばちゃんたちをも魅了する、ってとこ!!

でもね?



「せっかくまゆちゃんを慕って来てくださっているのに、『今は買い時じゃないですぅ~』

ってことはないでしょ?」



お客様、そうお~?って帰っちゃったじゃないの

またね、って手を振って・・・



「え~?だってぇ~、今ってセール明けでほとんど定価だしぃ~」



定価のときに売ってこそ!ってもんなんだから・・・!!



「でもね?値下げの予定が近日中にあるって言うのならともかく?

今は未定なんだし、そもそも、ここに足を運んできてくださった時点で

お客様の心のどこかには、今が買い時っていうフラグが立ってるわけ!!」



「・・・・・・・・・・」



「ここで買わなかったら別の店で買われるだけよ?

たとえ定価で買ったとしても、お気に入りのまゆちゃんに選んでもらって

素敵な服が買えれば、あのお客様は満足して帰ってくださるはずよ!!

そして、割引時には、また足を運んでくださるわ?

とにかく、ここにいらっしゃったときはいつでもその時最良のものをおすすめするのが

貴女の仕事なのっ!!」



「りかさん・・・」



あ・・・


しまった、ちょっと強く言い過ぎた?


でも、いつも思ってたんだもの

この子、人気あるのに売り上げにイマイチ結びついてなくって・・・


売り上げ低いからって他の子から見下されてて・・

ただ、お客様とおしゃべりだけしてるって言われてるのが悔しくて・・・



「毎回、選んであげるだけでいいの。買うか買わないかは、お客様が決めること。

まゆちゃん、せっかく慕われてるんだから、それを生かさないと!」



「・・・・ わかりました。次からやってみます!」



ホッ

わかって・・・くれた?



「うん、頑張って!」



彼女の売り上げが伸びると、西店に追いつける・・・




「りかさん、甘いですよ~?」




店内を回っていると、もうひとりのマヌカン、美玖ちゃんに呼び止められた

美玖ちゃんは毎月コンスタントに売り上げを出してくれるここ、東店で優秀なマヌカンさんだ



「あれくらい、私だっていつも言ってますよ?でもあの子、全然聞かないんだもん。

いつも、もっと安くなってからでいいですよ~とか言っちゃって・・・

強めにいくのが嫌われるって思ってるんですよ。まったく・・・」



「まぁまぁ、じょじょにでもいいのよ、わかってくれれば^^

また声かけてあげてね!彼女、まだまだこれからなんだから」



「そんな甘いこと言ってるうちに、珠美さん、産休入っちゃいますよ?」



「・・・・ 言わないで。」



うちのベテランマヌカンである珠美さんが、今月末で産休に入っちゃうため

春に入社したばかりのまゆちゃんを必死で育ててるところ・・・



「来月、どんだけ西店に離されるんだろ・・・」


「美玖ちゃん?そうならないよう、頑張ろうね~」



ふぅ~・・・



「りかさん・・・ 私、産休入るの、ぎりぎりまで待って働きましょうか?」


「珠美さんっ!?」



聞いてたか・・・

美玖ちゃんとのやりとり・・・



「いやいや、何言ってるの、産休はしっかり取って!」



じゃないと、上から何を言われるか・・・



「大丈夫!珠美さんの分まで頑張るからね!

珠美さんは、顧客様にしっかり挨拶しておいてね

すぐ帰ってきますから~って」



「・・はい。それはもちろん、ちゃんとやっておきますけど・・・」



「だぁ~いじょうぶ!」




ぱんぱんって珠美さんの背中を叩くと、はい、いって~と

店内に押し出す



東店の店長っていう自分の仕事だけでも大変だって時に・・・


どうして結婚なんて事態になってしまうのか・・・


お父さんもお父さんだ、そんなに資金繰りに困ってたんだったら

もっともっとちゃんと相談してほしかった・・・




「りかさぁ~ん、西店の店長から電話ですよ~」



「あ、はぁ~い、今出ますっ!」



自分のことなんて考え込んでる場合じゃなかった

私は、店の奥に入ると、ひとつ深呼吸をしてから

西店の店長からの電話をとった














「ハイ、戸締りよぉ~っし!・・今日も1日、お疲れ様でした~~」




店の鍵を閉めて、外に出ると

先に出た子たちが何だか騒がしい



「・・あれ?皆、どうかした?」



駆け寄って声をかけると



「りかさん、りかさんっ!!あそこっ!!何だかすっごいイケメンがっ!!」

「車もすっごい高級車なんですぅ~~」




・・・・ すっごいイケメン?すっごい高級車?



まさか・・・



嫌な予感しかしない・・・




カツンカツン、とヒールを鳴らして歩いて行くと




「お疲れ様。遅かったんだな」


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ひっ、ひょえぇえええぇぇぇぇえええ~~



執事かと思ったら、ご主人様の方だった・・!!




「う・・・ ど、どうしてここ・・・」




お父さんの店じゃなくって、私の職場まで知ってるの?


しどろもどろな私に


彼がゆっくり立ち上がって寄ってくると



後ろでキャー、という悲鳴が上がる




「どうして、って、迎えに来たんじゃないか。鍵、忘れて行っただろう?」



・・・ 鍵?





「りかさんのお知り合いなんですかっ?」

「鍵ってどういうことですっ?も、もしかしてっー」




後ろの雑音が気になる




「ちょ、ちょっとっー とにかくっ!ここじゃなんだからっー」




ドンッ


背中を押して、車まで行こうと思ったのに




「いつも、りかがお世話になっています。」




びくとも動かず、それどころか、皆の方を向いて

にっこり笑ってそう言い放った



り・・・ りか、ですと?


いつ、そんな呼び捨てにする仲に・・!?




「キャーーッ!!?」



どういうことですかっ?という皆からの問いかけに



「ちょっと待った!みんな、これにはわけがあって・・

もう~ こんなところで何を言ってるのよっ!!」




バンバンバンッ



ひたすら背中を叩いてみるも

こやつには、まったく意味がないのか




「あ!朝食、・・・美味しかったよ」




キャーーーッ



もはや、皆の反応を煽っているとしか思えない・・・




「それでは皆さん、失礼^^」




右手をあげ、再び黄色い悲鳴を確認し、さも満足そうに振り返ると


すっと、私の腰に手をまわし、器用に車までエスコートしてくれた




「どうそ」



助手席のドアをあけて、そういうと

私を乗せ、バタンとドアをしめ、運転席側へと回る


乗り込む姿すら絵になるという・・・・



これって、全部計算してるのかな?

それとも身についてるの?



うっとり見惚れるように、私たちを見送る皆に、窓越しに手を振ると


車が動き出し、見る見るその姿は小さくなっていく・・・





「あのっ!・・・今日は執事さんじゃないんですか?」




荷物があるから、てっきり執事の方が来るもんだと・・・




「なんだ?・・・真崎のことを気に入ったのか?」


「気にっ?//// はぁっ?な、何言ってー」




あ~~~


妬いてるわけですかっ?


もしかして・・・・


はぁ~ん、なるほど・・・


真崎さんを私に近づけまいとして?ご主人様みずからお迎えに?




「おまえの父親に挨拶しておこうと思ってな」



「・・・・・ お父さんに挨拶?」



「結婚するんだ、当然だろう」



「なんでっ?まだ、わかんないでしょっ?」



執事さぁ~ん・・・

協力して、って言ったじゃない・・・


これは、ゆっくりしてちゃ流されてしまうってこと!?



「・・・・ まさかおまえ、まだどうにかなると思ってるのか?」



「だってそうだもん」



「・・・・・・・・」



「最後まであきらめないのが私の性分なの」



「・・・ せいぜい、あがいてみるといい。」



「言われなくても、あがいてみせますよ~

そうなると、貴方はきっと私に感謝することになるわっ!!」



好きな人と結婚させてあげるわよ




「・・・・・・・どうだか」



・・っ!!


今、ふって鼻で笑った・・!?



「言ったわねっ?見てなさいよっ!?絶対、感謝させてみせるからっ!!」



「・・期待せずに見ておいてやるよ」




く、悔しいぃーーー!!


こやつっ!!


私の負けず嫌いの性格を最大限に逆撫でしてきやがってぇーーー!!!




「感謝のあまり、りかさま!ってひれ伏させてあげるわよっ!!!」




「・・・・ そこまで言うと、全く現実味なくなるぞ・・・」




むかつく、むかつくっ むかつくぅーーー!!!




「・・・ 出来なかったらどうする?」



「え?」



「このままオレと結婚することになったら?」



「・・・・・・・・」




考えてない・・・なかった・・・




「そんなことにはならないものっ!」



「覚悟を決めておけ。おまえは、オレと結婚することになる」



「だから~!絶対そんなことにはしないんだってば・・!!」



「どうせ逆らえやしない・・・」



「・・・・?」




そんなことないものっ!!!





結局、私たちの言い合いは、家につくまで平行線を辿るのである・・・








つづく・・・・



(画像、お借りしました。ありがとうございます!)