「おはようございます!」


 

「あ、水戸さん、今朝はまた、えらく早いね~」



 

守衛さんの声に、軽く微笑むと



 

「お!綺麗な花だね~ 社長、きっと喜ばれるよ」



 

すかさず手にしている花束を見つけられ何だか嬉しくなる



 

「今度、守衛室にも持ってきますね^^」


 

「いや~ 何だか催促しちゃったみたいで・・・いいの?」


 

「構いませんよ^^」



 

社長、喜んでくださるだろうか?



 

カツンカツン、と高いヒールを鳴らしながら

守衛室の前を通り過ぎると

 

エレベーターに乗り込んだ


 

キリキリキリッ・・・

 

腹部の鈍痛に、顔をしかめる


 

朝起きてから、お腹の調子が悪かった

 

だからと言って、トイレに行くとおさまるというものでもなく

 

とにかく、たまに鈍い痛みが生じる


 

これも精神的なものなのだろうか



 

花で社長のご機嫌をとろうなんて、思ってはいないけど

 

昨日あんな形で業務を放棄したことへの

 

せめてものお詫びの気持ち・・・


 

と、これからもよろしくお願いします、という誠意を現したかった



 

チンッ



 

エレベーターの扉が開いて

 

誰もいない最上階の廊下をひとり歩き、社長室のドアをあける



 

「おはようございます」



 

挨拶をして、気を引き締める

 

キリリッ


 

やはりお腹が鈍く痛んだ





 


 


 


 


 





 

「おはようございます」



 

髪を後ろでひとつに束ね、いつものようにメガネをかけた格好で

今日も元気に出勤すると



 

「おはよう!・・・なんだ?昨日のデートはラブラブだったようだな」


 

「あっ、松本くんっ!」



 

昨日、終わるや否や帰って行った松本くんを見つけた



 

「昨日は、何かあったんですかっ!?」


 

「・・・・なんで?」


 

「だって・・・ ヤボ用だ、って速攻で帰って行ったじゃないですか」


 

「・・・ まぁね」


 

「ミイラの彼女・・ですよね?」


 

「おまえなー、それ、やめろよ?」



 

♪♪♪~~~


 

そのとき、私の携帯が電話の着信音と振動を伝えた


 

「あ、ちょっとすみませんっー」

 

「あー、はいはい、彼氏?」


 

松本君の質問に曖昧に微笑むと

 

携帯を取り出し、その着信表示を確認して驚いた


 

すばやく、松本くんに背を向け

口元を手で覆いながら


 

「・・・ もしもし?」


 

小声で電話に出ると


 

「・・どうしたんですかっ?社長っ?また携帯忘れたんですか?」


 

一気に問いかけた





 


 


 


 


 




 

社長のデスクに花を活けた花瓶を置き

 

雑巾でデスクまわりを拭いているとき

 

あろうことか、伸ばした手が花瓶に当たり

 

慌てて倒れないように両手で支えながら

 

バランスを崩した私は、片手が電話に当たった


 

その拍子に受話器がはずれ

 

私の手は、リダイヤルボタンを押してしまったようだ


 

もはやパニックを起こした私は

 

間違い電話だと先方に謝らなければ、と

 

相手のわからない受話器の向こう側へとびくびくしながら

 

謝罪の言葉を思い浮かべていると



 

「・・・ もしもし?どうしたんですか?・・社長っ?また携帯、家に忘れたんですか?」



 

思いもよらない声が耳に飛び込んできた



 

また携帯・・・ 家に忘れた・・?




 

「・・・大宮さん・・ 今朝何度通わせるんです?

って・・私が言うことじゃないですよね

すみません・・」



 

この声・・・




 

「・・・・もしもし? 社長?」

 

「朝倉ぁ~、おまえ、いつまで電話してんだよっ そろそろ着替えてホール掃除!」



 

純の声・・・!!


 

しかも、朝倉、って・・・・



 

私は何も言わずに受話器を置き、電話を切った



 

どういうこと?


 

社長はこの電話で・・・朝倉さんに電話をした?


 

あの、携帯を忘れられた日だ・・・!!


 

やっぱり社長と朝倉さんはー



 

「・・・ イタタタタタタッー・・・・」



 

私はそのまま、お腹をおさえてしゃがみ込んでしまった・・・・






 

 

 

 

 




 

「・・・ ツーツーツー・・・」



 

切れた・・・


 

どうして何も言わなかったんですか?社長・・・


 

もしかして、昨日のことはなかったことに・・とか、言う!?


 

「あ~~・・・・」


 

そんなの、ショックすぎますよっ?



 

私は携帯をしまい

 

ロッカールームで着替えてホールへと出ると



 

ちょうど、と言っていいくらいのタイミングで



 

キャーーーーッ


 

と叫ぶいつもの黄色い声援が飛び交った




 

「社長ぉーーー、おはようございますっ!!」




 

・・・・ えっ!?




 

私は思わずロビーの見えるところへと駆け寄り



 

視界にその姿を捕らえた




 

「・・・ しゃ・・ちょう?」




 

え?え?え?


 

どうして?


 

だって、今・・・


 

社長室からー




 

そのとき、手に雑巾を握りしめ、ロビーの見えるホールに立ち尽くしている私は

 

社長の目に留まってしまったようで・・・




 

・・・・・・ ( オ・ハ・ヨ !)




 

唇がそう、動いた





 

きゅんっ




 

いやいやいや、きゅんってなってる場合じゃないんですっ!!



 

私は、ブルブルブル、と首を横に振ると





 

・・・ ( た・い・へ・ん・で・す!!!)



 

と、大きく口を動かした




 



 

社長の右眉が下がっただけで



 

私の視界からあっけなく消えて行った





 

どうしよう、どうしよう・・・!!


 

私が話した相手はいったい誰なんですっ?



 

社長室の電話ってことは・・・・





 

・・・・ 水戸様!?










 

つづく・・・・