「先程は申し訳ありませんでした・・・」


 

大奥様をお見送りをし、社長室に戻ると、私は社長に頭を下げた


 

「・・・ いや」


 

何も問わない、とでも言いたげな社長に

私はおさまらない質問をぶつけた


 

「でも社長・・ 彼女・・朝倉さんにパーティで会ってらしたんですね?」


 

そんな素振りは今まで一度だってなかったのに・・・


 

「え?あー・・ だったかな」

 

「挨拶していらっしゃらないんですか?」

 

「ああ」

 

「そんなっ!!彼女は自分の会社の社長に会ったのに挨拶しなかった

って言うんですかっ?ありえませんっ」

 

「見られたくなかったんじゃないのか?まるで別人だったわけだし」

 

「それにしてもっー」

 

「もういいだろ、彼女の話は」


 

よくないっ!

 

全然、よくないんですっ!!

 

それにっー


 

「でしたら社長!・・・ 同伴の女性・・以前にお聞きした時には、大奥様に紹介するほどのお付き合いではないとおっしゃってましたが、さっきは大奥様にそのうちちゃんと紹介するとっー」

 

「いいかげんにしろっ!!」


 

ビクッ


 

「・・・どうでもいいだろう、そんなことより今日のグローバル社でのー」

 

「・・・ そんなこと・・じゃありません・・」

 

「は?・・・水戸?」



 

どうでもよくなんか、ありません!!



 

「申し訳ありません!今日はこれで・・失礼させていただきますっー」


 

「はぁっ!? おいっ 水戸っ!!!」


 

自分のバッグを素早く手にとり、社長室のドアを開け、そのまま走り出た




 

社長の声を背中に受けても、振り返ることはできなかった

 

なぜって・・・

 

私の目は、思いっきり濡れていたからー




 


 


 


 


 






 

「お先に失礼しまーすっ」


 

「うえっ?松本っ?なんだ?いつもはまだっー」


 

「すみません、ヤボ用なんでー」



 

厨房から、松本くんが駆けるように帰って行くのが視界の片隅に入った

 

珍しい~

 

いつも、ほぼ最後まで片付けして、翌日の仕込みしてるのに・・・



 

「ヤボ用・・・」


 

松本くん、ミイラの彼女と何かあったのかな?



 

「おっつかれ~!朝倉さんも今日はデートなんでしょ?」

 

「えっ?デート!?」



 

今日はまだ連絡がー



 

「仕事中も近くまで来たからって、寄ってくれるなんて・・・

あんなイケメン彼氏、いいですね~」


 

言われて思い出した

 

望月くんのことか!!

 

って思った自分で気づいた

 

さっき、デートって言われて頭の中に浮かんだ相手が

 

・・・的外れな相手だったってことを・・・

 

思い浮かべちゃいけないんだ


 

「はっきり言って、朝倉さんにあんな彼氏って本当に不思議でしたけど・・・

今日の写真見て、びっくり納得しちゃいました!!

朝倉さんって、綺麗なんですね、どうしていつもそんな恰好ー」

 

「あ、すみません、私もお先に失礼しまーす!」

 

「えっ?朝倉さんっ?」


 

そういう話はめんどうで大嫌い

 

それに・・・ 嫌でこんな恰好をしているんじゃない

こっちの方が、私らしいから・・・


 

ロッカールームに行くと、既に帰り支度をしているみんなの好奇の目が押し寄せていた

 

ゲッ


 

ちゃっちゃ、と着替えを済ませ

 

誰にも何も言わせない、とばかりにー


 

「お疲れ様でしたーーー」


 

私は会社をあとにした



 

携帯をのぞくと、望月くんからメールが来ていた


 

「今夜!」というタイトルで始まったそのメールの中には

 

夕食をしようと思っているお店のURLが貼り付けてあって

予約してあるから、先に行って待っていてほしいと書かれていた


 

「意外・・・」


 

こんな強引キャラだとは思わなかった

あの頃・・・

 

学生時代、彼の話すフランス語の発音にドキドキし

あんな声で耳元囁かれでもしたら・・・

 

なんて、すぐノートに綴ったものだ

 

なのに・・・

 

どうしてだろ

 

今は、別の声でしかー





 


 


 


 


 



 

某居酒屋

 

とある店内の片隅でー

 

酔っぱらった女性の隣に男ひとり・・・



 

「じゅーーーんっ!!おかわりっ!!」


 

「真理亜・・・ 飲みすぎだって。明日も朝早いんだろ?」


 

「いいのっ どうせもう・・クビよっ、クビ!!

だって私・・・ 今日、先に帰っちゃったんだものぉ~~~んおんおんっ・・」


 

「だぁから~ いったいどうしたんだよ

メールみて思わず声でそうになったぞ?」


 

「だって・・・ だって、しゃちょおがぁー どうでもいいんだってぇええぇ~~」


 

「・・・ 全く話が見えない・・・」


 

こいつがこんなに酔っぱらってるんだ

社長が関係あるっていうのはわかってる

 

もしかして・・・

今日、カフェに来たことと関係あるのか?


 

「あの子っ!!」


 

「・・・ あの子?」


 

突然頭を上げてくるからびっくりするじゃないか!!


 

「純のところにいる朝倉って子!!・・・絶対しゃちょおと何かあると思うのよ」

 

「は~~~?朝倉が?社長と何かあるって何があるって言うんだ?」

 

「だってしゃちょお、絶対変なんらもーーんっ!!!」

 

「・・あるわけないだろ、お前も見ただろ?朝倉にはあのイケメン彼氏がー」

 

「ああーー!!グローバル社のあいつっ!!」


 

・・・・ ガラ悪くなってないか?


 

「だいたいあいつ、タイミングよすぎる!!

昼間会社で会って挨拶したばっかだったのに~」

 

「へぇ~ 会ったんだ?」

 

「そうよ、しゃちょおと話して・・・」

 

「ハイハイ、社長ね?真理亜は社長がだぁ~いすき」

 

「ちょっと純っ!?何言ってんのよっ////」

 

「いいかげん、認めたら?オレの前でくらいー」

 

「じゅんの前でくらいじゃないよぉ~ しゃちょおにもバレた・・もぉだめだぁーーー」

 

「はっ?社長に、っておまえっ?」

 

「ああ~~~んっ お父さん、お母さん、ごめんなさぁ~~い

真理亜は親不孝者ですぅ~~ 志半ばにして、会社クビになりました・・・

そしてあろうことかっ!!あの男の息子をっ・・ううぅ~~~~」


 

・・・・ ダメだ

 

かんっぜんに酔っぱらってやがる・・・


 

「もういいんじゃないの?おまえの言う志ってやつ・・・

そんなん、おまえの親さんたちも望んでないって!

だいたい、叔父さんたちが言ってること真に受けて勝手に敵討ちなんて

いまどき流行らないって」


 

「・・・・・・・・・・・・」


 

「そもそも、いくら小さい会社だったからって

つぶれるのに、ひとつの元請が原因だってことはないだろ

きっと、いろんなことが重なったんだって・・・」


 

「・・・・・・・・・・・」


 

「おまえだって、わかってるんだろ?

だから~ 『まずは息子を私がメロメロにして手玉にとってやるわ!!』なんて

意気込んでたくせに?

・・・おまえがメロメロになってどうすんだよ、ハハハハハ」


 

「・・・笑うなっ!」

 

「ッデ!!!」


 

こいつ、グーで殴ってきやがった!!!

 

酔ってるもんだから、めっちゃ痛いってわかってないだろ!!!!



 

「だってしゃちょおぉ・・ あんな人のそばにいて

惚れるな、って言う方が無理なんだってば・・・・・・」



 

・・・・・・ 人の気も知らないで




 

「・・じゃあ帰るぞ?その酔っぱらった頭を冷やせ!

明日からまた大好きな仕事が待ってるぞ?」



 

ぐいっ


 

真理亜の細い腕を持って、立ち上がらせる


 

「仕事ないもん、クビだもーーん・・」

 

「きちんと謝って働けばいいだろ?

そんなことでクビになるような敏腕秘書ではないんじゃ?」

 

「・・・・・ 純・・」

 

「ほらっ!いい加減、自分の足で歩けって!重いんだよっ」


 

うそうそ、全然軽い・・・

 

なんだったら、このまま家まで連れて帰りたいくらい


 

「じゅーーーんっ」


 

がばっ

 

「うわっ////」


 

抱きついてきやがった・・!!


 

「いつもありがとっ」

 

「・・・・・・・・ どういたしまして」



 

あ~あ・・・

 

オレはいつになったら、解放されるんだろうな







 

つづく・・・