ジャーーーーッ

 

 

夕食を食べ終え、洗い物をしながら

リビングでくつろぐアイツの姿を恨めしそうに見ていた

 

一緒に食事をしている間も

アイツはずっとスマホで動画を見ていた

私が見ているテレビのボリュームをかき消すくらいの音量で

 

会話もない

アイツの視線で、何を取って欲しいのかわかる自分すら

憎らしい

なぜ、従ってしまうのか

 

長いつきあいから生まれる空気のような存在

 

そんないいものなんだろうか?

 

アイツは何をしに、ここに来るのか

はっきり言って、自分の欲求を満たすために来ているだけ

 

食欲、性欲、睡眠欲

 

もはやそこに愛を感じない

と思っているのは私だけ?

 

いや、私がそう感じるなら、それで十分じゃないだろうか?

こんな彼氏、必要なの?

別れようよ

 

 

「ねぇ?」

 

♪♪♪~~~~

 

 

別れ話を切り出そうとしたその時

エプロンのポケットに入れていたスマホが鳴った

 

手を拭いてから、スマホを取り出し、見てみると

 

「おばあちゃんっ?・・ ねぇ、ちょっとボリューム、落としてくれない?」

 

電話に出る前にアイツに叫ぶ

 

「もしもし?おばあちゃん?どうしたの?何かあった?」

 

「・・・・・」

 

聞き取りづらい

 

「ねぇっ!!ボリューム落としてって言ってるっー」

「はぁ?・・んなの、お前があっちで電話すればいいだろ」

 

なんってやつっ!!

もういいっ

絶対別れるっ!!

 

私は家の鍵を持つとサンダルを履いて外に出た

 

 

「もしもし?おばあちゃん、ごめん。何て言ったの?」

 

「・・・ しおり?・・誰かと、喧嘩でもしたのかい?」

 

「あ、うん。でもいいの。気にしないで。それより、おばあちゃん、何かあった?」

 

「・・・ しおり、近いうちに一度、ばあちゃんの家に帰ってきてくれないかい?」

 

「近いうち?いいよ?じゃあ、明日帰る。金曜だし、そのまま週末、泊れるよ」

 

「そうかい?じゃあしおりの好きなもの、作って待ってるからね?」

 

「うん、わかった。仕事が終わったらそのままそっちに帰るからね?待ってて」

 

「うんうん、気をつけて帰ってくるんだよ?」

 

「うん」

 

 

おばあちゃん・・・。

 

私には父母がいない。

昔、家の火事で亡くなった。

たったひとり残った私は

その火事で家も、父母も、記憶も、すべて失ってしまった

 

だから・・・

私にとっておばあちゃんは

たったひとりの家族

 

何もなかった私をここまで育ててくれた

誰よりも大切な人なのだ

 

 

ふぅ~・・・

 

なんっで、私の家なのに

電話をするのに私が外に出なきゃならないの?

 

もう、ほんっと、無理!!!

 

 

 

ピロンッー

 

ーー 源氏の国が更新されました

 

 

「・・フハッ・・ なんてタイミングのいい・・」

 

 

私はそのまま、部屋の扉を背にしゃがむと

『源氏の国』を開いた

 

 

 

「・・・ はぁ~・・ 蒼士ってどうしてこんなにかっこいいんだろう・・」

 

漫画だから?

わかってるww

 

傍若無人なことをしているのに

なんで憎めないんだろう

 

敵はすごく多い

源氏グループの利益にならない会社は

情け容赦なく切り捨てているから

 

何度も襲われることもあるけど

そこは主人公

SPだってついてるし

決して死ぬことはない

 

そうわかってはいるけど

いつも不安になっちゃうのよね

 

「どんだけのめり込んでるんだろ・・私」

 

 

蒼士に抱かれている女の子が羨ましい

そこに愛はない

と蒼士は、はっきり言い捨てているのに

 

蒼士のセックスはすごくエロい

 

女の子たちの顔を見ていればわかる

どの子もすっごく嬉しそうなの

溺れてるのがわかる

蒼士とのセックスに

 

そりゃあこの作家さんがそう書いてるだけ

って言われたらそうなんだけど

 

強く

とても強く蒼士に惹かれる

 

 

「・・・・・」

 

 

ま、逢いたいって思って逢える相手でもないし

 

彼は漫画の中の人で

現実にこんな人がいるわけがない

 

だからだろうね

私をこんなに嵌まらせるのは

 

あ、あと・・

 

作家さんのチカラ

 

 

 

よしっ!

 

中に入って、アイツとは別れよう!

 

たとえ、ひとりになるとしても

こんな想いで生きていく方がつらい