姑息にせっせと移植中 -18ページ目

姑息にせっせと移植中

二分あれば読めるショートショート

買い物の途中
商店街のど真ん中、
我が目を疑った。

ガラス張りのショーケースの中で
一匹のトラ猫がガタガタ震えているのだ。
吐く息は白く、
毛先には氷の結晶がきらきらと光っている。

俺はドドドとそこまで駆け寄って
ガラスにへばりついた。
ガラスは氷の様に冷たかった。

ふと見るとすぐ横に
こんな貼り紙がしてある。

『冷やしネコ 始めました』

俺は何屋かわからない
その店の中にずかずかと入って行った。

「ふぁあああ、いらっしゃあい。」

やる気のなさそうな太った中年女性が
くわえタバコのまま声をかけて来た。

「ふざけるな!
冷やしネコってどういうつもりだ?
可哀想だろ!」

「うるさいねえ…
ここはアタシの店で
あれはアタシの猫だよ。
何をしようと勝手じゃないのさ。」

「…とにかく!
何とかしないとあの猫は
凍えてしまう!」

「…じゃ 5千円払いな。
これはあの部屋の鍵だ。
あとはアンタの好きに
するがいいさ。」

俺は迷う事なく5千円を支払い
ダッシュでその部屋に向かった。

ばん…!

扉を開けて中に入ると
ガラス張りの部屋は
想像以上の寒さだった。

「大丈夫か!?」

「う…ニャ…?」

俺の声に振り向いた猫の声は寒さで
かすれていた。

「うニャww!」

「猫ちゃんww!」

胸に飛び込んで来た猫をしっかと抱きしめ
俺はすぐさま部屋を出た。

熱さまシートの如く冷たかった猫を
俺は洋服の中で暖めてやった。
猫は服の中からもぞもぞと顔を出し、
嬉しそうに俺の顔をペロペロと舐めて来た。

十分に暖めてやった後
俺はこっそり窓から猫を
逃がしてやる事にした。

「じゃあね 猫ちゃん!」

「うニャ…
うニャww…
うニャww!!」

猫はハンカチを振って
俺との別れを惜しんだ。

「…いいんだ。俺の事はいいんだ!
幸せになれよww!」

俺は涙と鼻水でずびずびになりながら
雑踏に消えていく猫の背中を見送った。



買い物を終えた帰り道
『冷やしネコ』の
建物の前を通った。

ん…?
聞き覚えのある声が聞こえて来る。

その声を追って 俺は
建物の裏手に回った。

やはり先程の中年女だ。

「社長 お疲れ様でした!
今日も一日ありがとうございました。」

さっきとはえらく態度が違う…

しかし本当に俺を驚かせたのは
『社長』と呼ばれていた
相手の方だった。

『お疲れ。これは
今日の取り分だニャ…
明日も頼むニャ。
…しかしチョロいニャ。
アホな人間その気にさせるなんて
訳ないニャ。
ニャははははは…」

葉巻をふかしふんぞり返った姿勢で
見覚えのある猫は札束を手に高笑いをした。