ピクの日経ビジネスへの反論ブログです
isologue
by磯崎哲也事務所
August 3, 2011
日経ビジネスのPikuに関する記事について
http://www.tez.com/blog/archives/001836.html
結構詳しく内情を書いてくれてます
日経ビジネスに釣られた感じで
こちらも削除されそうなのでコピっときます
ブログによると
ピクメディアに投資してたのは
Rebate Networks GmbHでシェア5割を保有
VCから集めた総額は9億を超える
創業社長は2010年末にはVCによって
社長から平取に降格させられている
クビでないのは投資契約書のおかげで
社長以下外人社員が海外逃亡したのは事実である
ん・・・
反論ブログでなく追認な気が・・
稚拙な経営で失敗したんだと納得した次第です
米国のグルーポンの事業スタイルってたぶん今までとは異質な経営スタイルであって
経営陣があれと同じこと目指さなければいけない必然性はないと思うし、
リクルートが手掛けている分野でベンチャーが頑張ってる事業領域もある
VCから入る予定のお金をあてにして店舗拡大・人員増強して、
いざ入らなかったらVCのせいにして店舗縮小・リストラをしてたんですね
デイブ社長は幾ら貰っていたんでしょうかね
(以下本文転記)
本日付けの日経ビジネスONLINEに、『「クーポン」先駆者、撤退へ』という特集が載っていますが、この記事は、あちこちに事実誤認があり、著しく取材不足なのではないかと思いましたので、私が知っている範囲で事情を説明させていただきます。
ちなみに同社は6月10日時点で、Pikuに投資していたベンチャーキャピタルの一社で株式の過半を取得されたDITパートナーズの下で新しい経営体制となっております。当時の取締役3名全員は同日付けで退任しており、同時に私も監査役を退任させていただきましたが、それをブログでお伝えするのも新しい経営陣の門出に水を差すことになると思い、あえてブログには書いておりませんでした。
この記事は事情をよく知る旧経営メンバーには全く取材していないんじゃないでしょうか?
ちなみに昨年7月に書いた、私の監査役就任時の記事はこちらです。
→(「Pikuの社外監査役に選任されました」)
業界再編はいつ始まったか?
まず冒頭。
日本初のクーポン共同購入サービス会社、ピクメディア。その同社が事実上撤退に追い込まれた。市場形成から約1年。早くも業界再編の号砲が鳴った。
とのことですが、この業界では昨年から既に何社も撤退は始まっておりまして、「業界再編の号砲が鳴った」のは、今(「市場形成から約1年。早くも」)ではなく、もっとずっと前からでした。
記事にも「上位2社に大きく水をあけられているシェアリーは、ピクメディアの事業を引き受ける前にも「Qpon」や「GOTi」といった他社サービスを次々と傘下に収めている。」とあり、上記の記述と一貫してないですね。Piku自身も、撤退する他社のアカウントを引き継いできました。
株主構成と資金調達額
次に、株主構成や資金調達額ですが、
海外VC(ベンチャーキャピタル)3社と国内の1社から総額9億円近くの調達に成功し、
とありますが、どう取材したらこの株主構成や調達額の数字が出て来るんでしょうか?
株主は、今年6月まではドイツのRebate Networks GmbHという会社が株式数の過半を保有しておりました。この会社は、last.fmの創業者やドイツのSNS「StudiVZ」の創業者(新聞「Die Zeit」や「Nature」「Scientific American」などを発行している、ドイツのGeorg von Holtzbrinck Publishing Groupという世界的出版グループが同社をバイアウト)が経営している会社です。
ドイツ、中国、オーストラリアなど、世界中で、この「フラッシュマーケティング」と呼ばれる分野に投資をしている会社なので、「ベンチャーキャピタル」や「投資会社」というよりは「事業会社」に近い性格の会社です。他は、全部「日本の」ベンチャーキャピタルですね。
また、調達額は実際には「9億円近く」ではなく、9億円「超」です。 同社ホームページを見ても資本金が「456,286,269円」とあるので、ちょっと会社法や登録免許税の知識がある人なら、9億「超」ではないかと推測できるはずです。
(本来、きちんと元経営陣等に裏取り取材をすべきだと思いますが、登記簿(今や法務局まで行かなくてもネットで調べられます)も取得しておらず、ホームページすらちゃんと確認していないのではないかと思います。)
このビジネスの鍵は何か?
「日本人は保守的なのでベンチャーに向かない」なんてことがよく言われますが、このビジネスは、まさに戦後の浜松を中心に全国で数百社が参入したオートバイ市場以来ともいえるすごい乱戦市場で、「いかにも利益を出すのが難しそうなこの市場に、よくぞこれだけの人が参入するなあ、全然保守的じゃないじゃん(笑)」と思ってました。
記事では、
同社が先鞭をつけたクーポン共同購入市場には米グルーポンやリクルートなど大手資本が次々に参入。営業力がモノをいう同市場は乱戦になり、
とのことですが、私の個人的な考えとしては、このビジネスに最も必要なのは「営業力」もさることながら「資本力」です。
6月に「週刊isologue」の114号から117号
週刊isologue(第114号)GrouponのIPO資料を読む(日本法人を中心に)
週刊isologue(第115号)GrouponのIPO資料を読む(米国本社資本政策編)
週刊isologue(第116号)GrouponのIPO資料を読む(ガバナンスとドイツ法人編)
週刊isologue(第117号)GrouponのIPO資料を読む(ビジネスモデルまとめ編)
で、この業界の世界トップ企業、米国のGroupon社のIPO申請資料(Form S-1)をもとにしたビジネスモデルについての分析でも書きましたが、Groupon社は今年3月末ですでに13億ドル超の資金を調達し、繰越損失(Accumulated deficit=今までの赤字の累積額)も522百万ドル(現在のレートで約400億円)にも達しております。
日本のこの業界は、Pikuが事業を開始して数ヶ月後に、Groupon、リクルートという巨大な資本力を持つ企業が参入して、その時すでに「早くも業界再編の号砲が鳴った」わけです。上記のGroupon社の財務諸表のとおり、世界の業界トップは大幅な赤字を覚悟に大量のマーケティング費用を世界中に投下してきたわけで、これに対抗するためには、コストを極力小さくして生き残りを図るか、または対抗してシェアの拡大に努めるか、どちらかにする必要がありました。(中途半端は、どちらにせよ可能性が無い。)
Pikuの親会社であるRebate Networksは、もともと、大阪、福岡、仙台等、政令指定都市レベルに拠点を作り、急速に体制を拡大する方針を取っておりました。他の国でもそうしています。つまりこれは当然、Rebate Networks 社の追加出資の前提がないと成立しません。
ところが、昨年後半から、Rebate Networks の方針が、追加出資はできないという方針に変わりました。同社も、日本の一般的なベンチャー企業と比較すると桁違いに巨額の資金調達に成功しておりましたが、Groupon社が数百億円規模の増資に成功したという情報なども伝わり、対抗して資金勝負に出ても勝ち目は無い、と判断したのではないかと思います。
このため、Pikuも借りたばかりの各地方都市のオフィスを解約して、それらの支店の従業員にも辞めてもらうということになってしまったわけです。従業員の方々にも申し訳なかったですが、会社としてもオフィスは数ヶ月前に通知しないと解約できないので、財務的にも大きなダメージです。
「経営なき経営」だったのか?
記事には、
ただ、その内実を見れば、「経営なき経営」の当然の結末でもあったことが分かる。事実、同社はこの半年以内に3回も経営陣が入れ替わっている。
とありますが、経営陣が入れ替わったのは「経営なき経営」だからではなく、過半の株式を持つドイツ法人の Rebate Networksの方針によるものです。
記事には、「3月11日の東日本大震災で創業者の森デイブ氏がカナダへと出国し」とありますが、「当時の社長である」というのも取材不足による間違いです。当時、デイブ氏は取締役ではあったものの、すでに「社長」ではありませんでした。(これもネットで登記簿を確認すれば、当時すでに代表取締役でなかったことは簡単にわかることです。)
私は震災後かなり経ってから、日本に戻って来た本人たちから直接釈明を聞きましたが、確かに、日本語がよくわからない外国人が、日本人でもビックリするような大地震の揺れを体験し、原発の建物が爆発する映像がテレビで流れ、テレビや防災放送は何を言ってるかよくわからない、子供も産まれたばかりで本国の親族からは「すぐに帰って来い」とパニクった電話がかかってきたということであれば、心情として理解出来る面も無いわけではないです。しかし、他の役員にも相談なく黙って出国するというのは、さすがに私もカチンと来ましたし、創業者であれば、日本に残って被災した取引先や従業員を気遣うといったことをやるべきだったと思います。(震災当時、緊急で閉店した店や操業が止まった店も多かったので、「クーポンを持って店に来たけど、店が閉まってる」「モノが届かない」といったクレームが殺到して、創業以来最も現場が忙しい時期ではなかったかと思います。)
そもそも同氏は、営業マンとしての人当たりは非常によかったのですが、なにぶん、このビジネスモデルは、急速に支店展開を図ったり、人員を採用したり、価格設定やマーケティング費用の投下など、法律面、財務面などのテクニカルな部分も含めて総合的な意思決定を図らないといけないビジネスです。
デイブ氏は、それまで7年間、日本で社長をやってきてはいましたが、コストを抑えた家族経営で、そうした急成長企業のマネジメントには(結果論的には)向いていなかった。
Rebate Networks は、ただ投資して「あとはよろしく」ではなく、CTOを派遣してテコ入れしたり、経営の細かい方針もいっしょに検討するなど、「口を出す株主」なので、社長はこの株主と緊密にディスカッションしながら事業を進めないといけなかったのですが、デイブ氏は、Rebate Networks に対して数字などをもとに合理的な説明するのが上手にできなかったのではないかと思います。結果として、取締役間で相談の上、昨年中に既に社長を降りて営業に専念することになったわけです。
これは会社としては大きな意思決定なので、当時の取締役会で私は、「創業した会社の社長を降りるというのは、かなりの決断だと思うが、デイブさんとして不満は無いのか?取締役間で十分に話し合ったのか?」と質問したのですが、「大丈夫だ。これからは営業に専念してがんばりたい。」といった答えが返って来ました。
(デイブさんは、基本的に前向きで明るい笑顔の「いいやつ」なのですが、良くも悪くも「Never say never」で、出来の悪い従業員をはずすとか、リストラするとか、ドラスティックな経営には[結果的に]向かなかったと思います。)
記事には、
もともとの創業者は飲食店向けに英会話教室を展開していた「English OK」の社長だった森デイブ氏。
とありますが、これも若干違いまして、飲食店向けというよりは、外資系ブランドホテルなど、英語を必要とする企業の従業員向けの英語教育をやっていたと聞いています。
この創業者デイブ氏は、それまで比較的じっくり経営をしてきたので、後から入って来た外資系企業やネット企業等出身の優秀な人たちのスピード感やビジネスの考え方とは合わなかったと思います。
だから、結果論から言えば、早い時期にデイブ氏を中心とする旧メンバーには経営から完全に退いていただくべきだったかも知れません。しかし、 Rebate Networks 社などが投資をする際に締結した契約により、数年間の最低報酬額の保証と、取締役を解任しない旨、退任する場合には保有する株式を低い株価で会社が買い取れる旨が定められていました。外資系企業に50%超の株式を握られるわけですから、前半は、創業者側からすれば、もっともな契約ではありますが、結果としてこの契約の存在が、社内に考え方が大きく異なるグループを生んでしまったと思いますし、不満を抱えて辞めていった従業員も多かったと思います。
また、
2011年3月末にはピクメディアに投資した企業の1つ、ジェイ・シード(東京都港区)のジェフリー・チャー氏がバトンを受け取った。
とあります。
「投資した」と言っても、初期のころエンジェル的に少額を投資しただけで持分はゼロに近かったのすが、 Rebate Networks 社から社長に就任することを要請されて、(取引先や従業員等を混乱させてはいけないので説明してはいなかったと思いますが)、当初の位置付けとしては正式な社長が決まるまでの「臨時」の社長でした。
(ただ、結果としては、これだけ乱戦で黒字転換が見えない市場の会社の社長を見つけるのは困難で、火中の栗を拾った形になってしまったと思います。ご苦労様でした。)
「乱脈経営」だったのか?
記事では、
「これはベンチャーのお金の使い方じゃない」。創業間もない段階でピクメディアに在籍していた元社員は、当時の様子を憤慨しながらこう明かした。「English OKからいた外国人社員数十人の給与が軒並み年俸1000万円を超えていた」。潤沢に集めた資本金は、経営陣の人件費に費やされていた。
とありますが、 English OK時代からいた外国人社員は「数十人」ではなく「数人」ですし、数十人もの年俸が軒並み年俸1000万円を超えていたというのもまったくのデタラメです。
従業員のみなさんには、株主の方針変更によって不安をおかけしたと思いますが、事情をよく知らない不満を持つ従業員だけから話を聞いて、元の経営者などに裏も取らないというのは、日経ビジネスともあろう雑誌の取材のあり方としてどうなのでしょうか?
「乱脈経営」といった言葉も使われていて、読者の方は、あたかも同社では合理的な意思決定に基づかない経営が行われていたかのような印象を受けるのではないかと思いますが、以上のように、大手が予想以上に早く参入したり、国際的な資金調達状況などを考慮して、私の知る限り、その都度、十分な検討をして合理性のある経営判断が行われていましたし、法令等にも十分配慮して経営が行われていたと考えます。
記事を書かれた記者の方は、記事中でプロフィールやツイッターのアカウントも書かれていますが、下記の通り、
「基本的にやさぐれて飲み歩いているだけ」だそうです。
(「泣く泣く日経ビジネスに異動になった」なんてことを書いて、他のがんばってらっしゃる日経ビジネスの記者のみなさんには失礼じゃないんでしょうか?)