◆構成要件該当性
◇構成要件要素(構成要件該当性が認められるための要件・・客観面と主観面からなる)
[客観的要素]
①主体(犯人) →→②客体(被害者)
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③実行行為(射殺)→→④因果関係→→⑤結果(被害者の死亡)
[主観的構成要件要素] [主観的超過要素](目的・傾向)
①故意(わざと) ②過失(うっかり)
◆因果関係論(事実的因果関係論)
◇〈条件関係論〉+法的因果関係論〈相当因果関係論〉
○予備行為 →実行行為→因果関係あり→結果 ⇒既遂
※実行行為のみ(未遂罪成立) ⇒予備罪の検討
※実行行為と結果との間に因果関係がない ⇒未遂
*予備行為から直接結果発生⇒過失犯成立の可能性のみ考慮
◆刑法上における因果関係の判断枠組:2段階=事実的判断+法的判断
◇事実的因果関係(条件関係論)
○行為と結果との間に事実的な連関があるかどうか。(理系的な法則性をイメージするとよい)
*条件公式:conditio sine qua non(「AなければBなし」が成り立てば事実的因果関係あり)
=「犯人の実行行為がなければ犯罪結果は生じなかっただろう」=事実的因果関係が認められる。
◇法的因果関係論(相当因果関係論→危険現実化論)
*刑法上、犯罪結果を犯人の実行行為のせいであると法的に評価できるのはどのような場合か?
[例] Xは殺意をもって被害者をナイフで刺したところ、被害者が重い負傷をしたので被害者を救急搬送したが、その救急車に宇宙から落下してきた中国製のロケットの破片が命中し、救急車が大破し被害者が死亡した。
→Xが被害者を刺さなければ、被害者は死亡しなかった。
=条件公式成立=殺人既遂罪?
→因果関係を条件関係だけで判断すると因果関係があまりに広がりすぎるため、法的にその範囲を絞る必要性。
↓
【学説】
a)条件説=法的因果関係不要説(岡野など少数説)
○事実的因果関係=条件関係のみで十分
↑結果が帰属される範囲が広すぎる
例)喧嘩が原因で負傷し病院に搬送された被害者が、病院の火災で死亡した場合でも死亡結果について因果関係が肯定されるのは不当では?
(喧嘩がなければ被害者は死亡しない=既遂?)
→故意(犯人における被害者を死亡させる認識と認容)を否定することで対応。(岡野など)
↑故意は客観的構成要件に該当する事実の認識だから、客観面で条件関係しか要求しないなら主観面もその認識で十分なはずだから、故意論での解決は無理。
b)相当因果関係説(かつての通説)
○条件関係+因果関係の相当性(規範的にみて通常結果が起こりうるか法的に考察)で刑法上の因果関係を最終判断する見解
*相当性=実行行為から犯罪結果が発生することが一般的な日常生活上通常ありうる
↓
*「相当性」を要求する根拠は?
○余りに異常な経過は構成要件が類型的に予想しておらず刑法の規制対象外である。(大塚など)
○犯人は利用可能な因果を支配して結果を発生させるから、犯罪の一般予防のためには相当因果関係(通常起こりえるかどうか)がある結果だけをみればよい。(町野、林(幹)など)
↓
*相当性の程度は?
→高度の定型性・蓋然性?50%以上?経験上ありうる?極めて偶然的でなければよい?
*何を資料として相当性(一般的な日常生活経験上ありうる)を判断するのか?
↓
γ折衷説(伝統的通説):一般人であれば認識することができた事情+犯人が特に意識していた事情
→刑法規範が一般人に向けられたものだとすれば一般人基準が妥当。
↓ただし
※特別な事情が知っている人(ジュースを飲ませると死ぬ特異体質)には、特別な結果(ジュースを飲んで死亡)が生じるのは一般生活経験上相当。
=特別事情を利用して犯罪を実現することは一般人の観点から可能なため、因果関係あり。
↑行為後に異常な経過が介在する場合(一般の生活経験上ありえなさそうなケース=大阪南港事件)には有効な枠組みではないのでは?
↓
○相当因果関係説の危機 →危険実現論へ
◆生命・身体に対する罪
◇人の範囲
○全ての生命は同じ価値→始期と終期だけが問題
○母体から出る前の退治、死体は刑法的保護が弱い→故意犯のみ処罰、法定刑も軽い
↓
*生きている「人」との区別が必要
1)人の始期(受精→生命保続可能→陣痛開始→一部露出→全部露出→独立呼吸)
a)一部露出説(判例・通説)
○大判大8・12・13 刑録25・1367(ただし傍論)
○胎児が母体より一部露出した以上、母体と独立に外部より直接攻撃できる
b)全部露出説(平野、民法)
○独立して直接攻撃できるかという「行為態様」ではなく、殺人罪として保護すべき客体かという「客体の価値」で決めるべき。
→出産という困難なプロセスを経ることにより要保護性が高まる。
↑一部露出したかどうかで要保護性が変わるか?
○一部露出説も独立して直接攻撃可能になったという「客体としての独立性」が根拠。
2)人の終期
a)三徴候説(判例・通説):
①心肺停止(心臓の血統循環停止)
②呼吸停止(肺の呼吸機能)
③瞳孔反射喪失(脳幹の生命維持機能)
+脳死状態(脳幹の機能が失われているのに人工呼吸器により心配が動いている状態)
+臓器移植の必要性(?)
b)脳死説(統合機能喪失)
α 総合機能は「生命の環(トライアングル)」により維持されている。
○相互に依存関係にある3器官からなるトライアングルが崩壊すれば死。
→三徴候説との連続性
β 最高の器官である脳による総合機能を重視・脳死が決定的。
↑脳死により死ぬのは一部の人だけでは?脳を最高器官というとき精神機能を重視していないか?(→植物人間の問題)、社会通念上脳死は人の死か?
◆殺人の罪(刑法第26章)
◇§199 普通殺人罪
【199条】人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。
○日本の殺人規定は、諸外国とは異なり、人の死か被害者の意思に反するかどうかのみで犯罪類型を区別。(殺人の他に、同意殺人、承諾殺人、自殺関与罪が規定される)
◇殺人の実行行為
=殺意をもって、他人の生命を自然の死期に先立って断絶させる現実的危険性を有する行為。
〈殺人の実行行為の様々な形態〉※手段・方法を問わない。
→作為(有形)的手段=刺殺・斬殺・絞殺・射殺・毒殺(作為=身体的動作あり)
→不作為(外見上、身体的動作がなし)
(例:生存に必要な食材を与えず餓死させる=大阪堀江乳幼児餓死事件)
→無形的手段:心臓疾患をかかえている人にホラーメイクを見せつけ強度の精神的衝撃を与え、心停止で死亡させる。
↓
◇殺人の実行行為の特殊形態(殺人の「間接正犯」)
①最決昭27・2・21 刑集6・2・275:
知的障害のある被害者が自らの命令に何でも服従するのを利用して首を吊らせた例
②最決昭59・3・27 刑集38・5・2064:
詐欺容疑がある被害者を心理的に追い詰め、暴行・脅迫を加え、逃げ場を失った被害者が自ら転び河底へ転落死させた例
③最決平16・1・20 刑集58・1・1:
被害者に暴行・脅迫を加え、車ごと海に飛び込むことを執拗に要求し、被害者にそうする他ないという精神状態にさせて実行させた例(ホスト事件)
◆自殺関与罪・同意殺人罪(→202条に4つの犯罪類型が隠れていることに注意)
【202条】
人を教唆し若しくは幇助して自殺させ、又は人をその嘱託を受け若しくはその承諾を得て殺した者は、6月以上7年以下の懲役又は禁錮に処する。
↓
◇自殺関与罪の処罰根拠論
=自殺した本人(=正犯)は不可罰なのに、それを手伝う人(=共犯)が処罰されるのか?
a)自殺違法説
○自殺行為は違法だが自殺者本人に責任がないだけで、他人の自殺に関与すれば違法とする説。
↑個人主義に立脚した日本国憲法(自己決定権)のもとで自殺がなぜ違法なのか?
b)自殺適法説
○自殺行為は違法ではないが、他人のかけがえのない生命侵害に関与する行為は可罰
→202条はバターナリスティック(父権主義=理屈抜きで自殺のお手伝いはダメ)という規範。