◆保護法益の重要性

○犯罪行為には必ず処罰根拠(なぜその犯罪行為を処罰するのかの理由)が存在する。

例)殺人の処罰根拠:他人の生命を保護するため

(殺人罪の場合は、「他人の生命」。これが保護法益。)

保護法益=法によって保護された利益→これの侵害・危殆化が犯罪行為。

○各犯罪が、「何を保護法益(処罰根拠)としているか」を解釈により確定すること。

→各論の第一歩

*殺人のように生命が保護法益であることに疑いのない場合はよいが、犯罪によっては何が保護法益であるか?については学説上争いがある。

→保護法益次第で、実行行為や犯罪の成否に違いが出るので各種試験で狙われやすい。


◆法益の分類

国家的法益に対する罪(内乱罪、賄賂罪、公務執行妨害罪、偽証罪、証拠隠滅罪、逃走罪etc.)

社会的法益に対する罪(放火罪、偽造罪etc.)

個人的法益に対する罪(殺人罪、遺棄罪、暴行罪、傷害罪、強姦罪、住居侵入罪、財産罪etc.)

→戦前は国家、社会、個人の順番で重視されたが、現在は逆の順番になっている。


◆戦前に存在した国家法益に対する罪で現在では刑法典から「削除」された犯罪

【刑法典】

  第二編   罪

  第一章   削除

  第73条から第76条まで   削除

  →昭和22年第一章「皇室に対する罪」が削除


◇削除前の条文

【第73条】

天皇、太皇太后、皇太后、皇后、皇太子又ハ皇太孫ニ対シ危害ヲ加ヘ又ハ加ヘントシタル者ハ死刑ニ処ス


【第74条  不敬罪】

天皇、太皇太后、皇太后、皇后、皇太子又ハ皇太孫ニ対シ不敬ノ行為アリタル者ハ3月以上5年以下ノ懲役ニ処ス

第75条第76条には、皇族に対して同様の行為をした場合についての減刑規定。


【第131条   皇居等侵入罪】

故ナク皇居、禁苑、離宮又ハ行在所ニ侵入シタル者ハ

3月以上5年以下ノ懲役ニ処ス

②神宮又ハ皇陵ニ侵入シタル者亦同シ


◆敵国を利する行為

○第83条から第86条と第89条

→軍事施設の損壊や、利敵行為(スパイ)を罰する規定

→昭和22年削除。軍事同盟国に対する裏切り行為を処罰。


【第83条】

敵国ヲ利スル為メ要塞、陣営、艦船、兵器、弾薬、汽車、電車、鉄道、電線其他軍用ニ供スル場所又ハ物ヲ損壊シ若クハ使用スルコト能ハサルニ至ラシメタル者ハ死刑又ハ無期懲役ニ処ス


【第84条】

帝国ノ軍用ニ供セサル兵器、弾薬其他直接ニ戦闘ノ用ニ供ス可キ物ヲ敵国ニ交付シタル者ハ無期又ハ3年以上ノ懲役ニ処ス


【第85条】

敵国ノ為メニ間喋ヲ為シ又ハ敵国ノ間諜ヲ幇助シタル者ハ死刑又ハ無期若クハ5年以上ノ懲役ニ処ス

②軍事上ノ機密ヲ敵国ニ漏泄シタル者亦同シ


【第86条】

前5条ニ記載シタル以外ノ方法ヲ以テ敵国ニ軍事上ノ利益ヲ与ヘ又ハ帝国ノ軍事上ノ利益ヲ害シタル者ハ2年以上ノ有期懲役ニ処ス


【第89条】

本章ノ規定ハ戦時同盟国ニ対スル行為ニ亦之ヲ適用ス


◆姦通罪

【第183条】

有夫ノ婦姦通シタルトキハ二年以下ノ懲役ニ処ス其相姦シタル者亦同シ

②前項ノ罪ハ本夫ノ告訴ヲ待テ論ス但本夫姦通ヲ縦容シタルトキハ告訴ノ効ナシ

→姦通した妻と、その相手のみが罰される。(=夫が不倫したときは犯罪とならない)


◆尊属殺人罪

○平成7年削除

【第200条】

自己又ハ配偶者ノ直系尊属ヲ殺シタル者ハ死刑又ハ無期懲役ニ処ス

→1973(昭和48)年に最高裁判決により違憲判決とされた。

※しかし削除されたのは1995(平成7)年。